1-2. 近況をエクシートすると暇人(超越者たち)が集う
とりあえず、俺のつぶやきを心待ちにしている奴等がいるから、そいつらの機嫌を損ねないように、今起きたことを脳内で念じて簡潔につぶやく。
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■自分
聖女パーティーから追放された
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俺が『Xitter』を閉じる間もなく、次々と返信がつく。
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
見てた!
大丈夫。ボクがいつも一緒だよ!
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
アレルの予想した展開どおりすぎて台本を疑うレベル
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■ヴァンドラ@極光の竜王
無能スキルの数だけ見た展開でウける
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■ルーリン@子育て奮闘中の隠居聖女
あらあら。まあまあ。
若い子ってヤンチャねえ
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■ギバルガン@封印されし災禍の魔霊
ヤンチャ婆、貴様が言うな。
我の封印を解け。この世界を滅ぼしてやる!
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■オルロード@伝説の勇者の残留思念
まったく最近の聖女はどうなってんだ。
つつしみがない。ワシが生きておった頃の聖女は――
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■セレニティ@天界の調停者
はいはい。おじいちゃん。昇天の時間ですよ。
もう地上の誰も貴方のことは覚えてないの。
いい加減に昇天してくれないかしら
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即レスしてきたのは、俺のスキルに介入できるほどの力を持った暇人たちだ。
いわゆる『力が欲しいか……』と脳内に語りかけてくるような連中だ。
俺がSNSのようなスキルを習得してしまったせいで、本来は関わるはずのなかった者たちと知りあいになってしまった。気づいたらタイムラインが異世界最強オールスターズだ。
約1名を除き、全員デフォルトアイコンのスライムだ。ケルリルだけはリアルで会ったことがあるため、その顔がアイコンになっている。
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■自分
俺の言ったとおりの展開になっていることは、分かってくれてるな?
状況をコントロールできている。
だから、お前たちは介入してくるなよ?
いいな?
俺が危機に陥るたびに
『力が欲しいか……』
って脳内に語りかけてくるの、マジでやめろよ。
逆にそれで気が散って死にかけるんだからな
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
やだやだー。
アレルはボクが守るー!
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
くくくっ。
我の助けは要らぬと言うか。
ますます気に入ったぞ。
貴様が我が城にたどり着くのも時間の問題。
さあ、早く来るのだ。
会うのを楽しみしておるぞ!
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■ヴァンドラ@極光の竜王
くくくっ。
与えられる力は要らぬというか。謙虚なやつよ。
ならば世界の裏側まで来い。
この場にいる奴等を一蹴できるようになるまで鍛えてやる
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■ギバルガン@封印されし災禍の魔霊
くくくっ。
地道に鍛えるなど愚の骨頂。
俺様なら、半分の寿命を対価にして、貴様に最強の力を与えてやるぞ
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■オルロード@伝説の勇者の残留思念
くくくっ。
邪悪な存在に頼る必要はない。
ワシが憑依してやる!
伝説の剣技を授けよう!
一緒にこいつらぶっ殺すぞ!
我が名を呼べ! 我に肉体を差しだせ!
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■セレニティ@天界の調停者
なんですの。このくくくっ、の流れは……。
これだから地上の者は……
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■ルーリン@子育て奮闘中の隠居聖女
くくくっ。
皆さん分かってないですね。
男の子は自分の力だけで英雄になりたいんですよ。
アレル。うちにおいでなさい。
少し古いけど本物の聖剣を譲りますよ。
剣身や柄にドラゴンが巻きついているデザインなの。
男の子はこういうのが好きなんでしょ?
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■自分
くくくっ。
ぜんぶ断る。
とにかく、マジで介入するんじゃねえぞ。
強すぎて孤独なお前たちに会話友達ができたのは、俺のスキルのおかげだということを忘れるな。
俺を怒らせたら、お前ら、またボッチだからな?
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この超越者たちは、俺という中継点を介してでしかコミュニケーションがとれない。高みにいるせいで、低みにいる俺にしか、脳内で語りかけることができないのだろう。
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
……ッ!
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■ヴァンドラ@極光の竜王
ふ、ふん。
誰が孤独なものか。我につりあう者がおらぬだけよ
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■ギバルガン@封印されし災禍の魔霊
ゲヒャヒャ。
数千年も地底に封印され続けている俺様が、いまさら孤独を恐れると思うか?
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ボクはひとりじゃないもーん
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■オルロード@伝説の勇者の残留思念
べ、べつに寂しくなんてないんだからね。
わ、わしはただ、悪魔どもが悪さしないか見張っているだけなんだからね!
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■セレニティ@天界の調停者
私は寂しいですよ。早く天界に帰りたいです。
オルとギバ、早く昇天するか消滅してくれません?
もう、ヴァンがこの世界を支配してくれていいので……。
せめて、生きている者で争ってくれません?
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■ルーリン@子育て奮闘中の隠居聖女
あらあら。まあまあ。
赤ちゃんが泣きだしちゃったわ。
ぼっち達と違って忙しくてしかたないわねえ
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■自分
あー。
痛いところにぶっ刺さったか。すまん。
とにかく、俺という中継点がいるから、お前たちは会話ができる。
な?
俺を不機嫌にさせるのはよくないよな?
だから、戦闘中に『力が欲しいか……』はやめてくれな?
あ、いや、お前たちの好意はありがたいんだ。
本当にガチのピンチでどうにもならなくなったら俺の方から
『神でも悪魔でも誰でもいい……! 俺に力を……!』
みたいなこと言うから、そのときに頼むよ。
そろそろ出発するから。じゃあ、またな
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俺はスキルを解除した。左手から輝く板が消える。
さて。すぐに宿を出ないと。
宿は台風が来たら簡単に崩壊しそうな廃墟なのに、高級ホテルのようなぼったくり価格だったから、長居して宿泊日数を延長されるわけにはいかない。
俺は手元に落ちていた革袋に手を伸ばす。
(くくくっ。力がほしいか?)
く、くそうぜえ……。
革袋を拾うだけなのに、誰かが俺の脳内に語りかけてきやがった。
誰だよ。くぐもった肉声だと、男だと言うことしか分からん。
(今、言ったばかりだろ! 些細なことで、力を貸すとか言ってくるな! 暇人め! ぶちのめすぞ!)
(くくくっ。貴様が禁止したのは『戦闘中』だ)
うっぜえ……!
俺は脳内の声にうんざりしつつ、革袋を拾う。
「中身が詰まっている。ん? 軽い?」
過去に悪党からぶんどったことがあるから、革袋いっぱいに詰まった銀貨の重さは知っている。それに比べるとやけに軽い。
ひもを緩めて中を確かめると、石が詰まっていた。
「……なるほど」
俺は立ち上がり、革袋のひもを締めて腰のベルトに提げる。
「店主、世話になった」
「きひひ。行ってらっしゃいませ……」
「何がきひひだ。/
:振り返り、店主をにらみつける。
/ぶちのめすぞ!」
軽く不機嫌になっていたので、俺はつい一般市民に圧をかけてしまった。
「ひいっ!/
:小さな悲鳴。慌てて頭を下げる。
/い、行ってらっしゃいませ!」
店主は頭を上げると、骸骨のように痩せこけた顔に笑みを浮かべた。
それで溜飲が下がるわけではないが、棍棒で殴るわけにもいかないので、宿を出た。
命拾いしたな、きひひ骸骨じじい。
ここがゲーム世界だったら、宿にあるあらゆる壺を破壊し、タンスをあさり、金品を奪っていくからな……。
(力を欲する者よ。汝に力を授けよう……)
痩せこけたじじいを倒すのに、お前らの力なんて必要ない……!
まじで、命拾いしたな、きひひ骸骨じじい。
俺は、さびれた町の景色を見ながら、深呼吸。
さて。店主に圧をかけたのには理由がある。
俺は別に誰彼構わずに牙をむくような狂犬ではない。
「あの店主が、気絶していた俺を放置したのは分かる。面倒ごとに関わりたくないのだろう。だが、明らかに不審な点がある。/
:革袋を小さく振り、重さを再確認する。
/メイが革袋を投げたときは、ゴトンッと大きい音が鳴った。だが、これは軽い。中身をすり替えられた可能性がある」
俺は狂犬ではない。
だが、自分への悪意を見逃すほど、鼻は鈍っていない。
報復するしかないな。