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3-2. 母さんが俺に妹と結婚しろと言ってきた。さらに「初めてが不安なら私で練習しなさい」と――

 寒い夜に母を抱きしめて同じ藁のベッドで眠る以上のことをするつもりはない。

 触れた胸の弾力に興奮するかもしれないが、それだけだ。その先はない。


 しかし、異世界の庶民は貧しい。

 中世ヨーロッパと同じくこの世界でも『人間は神が作ったものだから、メスを入れる(解剖する)ことは許されない』という価値観があるのか、他の技術分野と比べて医療の発達は遅れている。

 回復魔法があるせいで、誰も医学を学ばないのかもしれない。


 医学が駄目でもせめて衛生学は発展してくれよと思うが、そんなことはない。

 衛生概念はガバガバで病気が流行りやすく、子供は簡単に死ぬ。


 モンスターの襲撃や戦争で殺されることもある。


 だから人々は、10台前半で最初の子を産み、20台が終わるまでに10人ほど産み、そのうち3人が生き残ればいいくらいの価値観をもっている。


 子をたくさん産んで働かせることが重要視される。


 母さんは8人産んでいて俺と妹2人が生きており、中世的な価値観で最低ラインとされる3人の子を増やすことには成功している。

 だが、まだ28歳だ。

 晩婚化が進んだ日本的価値観なら、まだ普通に初産でいいし、子を産める年齢だ。異世界人がなんと言おうと、母さんは役目を果たした古い女ではなく『若く美しい娘』だ。


 俺は母さんを家族愛以上に、愛している。

 だが、やはり血がつながっている実母だ。

 父を尊敬しているから、略奪愛のようなこともしたくない。

 だから、俺は恋心を封印した。


 だというのに――。


 異世界転生者として波乱に満ちた人生が運命づけられていたのだとしたら、そのルートへ進む選択肢が示されたのは、父さんがいなくなった翌年。15歳の秋。三ヶ月ほどの遊牧から帰ってきた俺のために、母が普段より豪華な食事を用意してくれていたときのことだ。


 窓がなく薄暗い小屋の中で、母さんがカラスムギと水の入った鍋の上で、手にしたキノコを細かく砕いている。

 俺がお土産として北の地から持ってきたニシン(のような魚)の塩漬けも、早速切り身になって鍋の中だ。


「アレル。メイと結婚しなさい」


「……え? ごめん。木を削っていて、よく聞こえなかった」


 俺は武器として使う棒の先端をナイフで研いでいた。炉床(ろしょう)のすみに落とした木くずは、あとで着火剤として使える。

 手を止め、耳を傾ける。


「メイはもう12よ。遅いくらいだわ」


「ああ。そうだな。そろそろいい相手を探してあげる時期だな」


「違うわ。貴方が結婚するの」


「待ってくれ、母さん。……まさかとは思うが、俺に妹と結婚しろって言っているのか?」


「ええ。天に昇ってしまったけど、私が最初の子を産んだのは11よ。貴方を産んだのが13」


「年齢のことじゃない。メイは妹だ」


「妹だからでしょ? 女が2人もいて、()(さん)(きん)をどうするの?」


「そ、それは……!」



────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

()(さん)(きん)ってなんだ?

────────────────────

■自分

人間は結婚するとき、女が男の家に金や物を持って行くんだよ

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

へー。そうなんだ

────────────────────



「貴方の羊を渡すの? 1つしかない家具を持たせるの? メイとユーノが嫁いだ先で粗末に扱われないようにするためには、夫に不幸があってもひとりで生きていけるだけの財産を持たせてあげるしかないでしょう? 村内に嫁ぐなら離婚しても、ここに戻ってこればいいわ。でも、村内に未婚の若い男はいないでしょう? 多少遠い地だとしても、歳の近い相手に嫁がせてあげたいわ」


「ううっ……!」


 俺は40頭の羊を連れて遊牧しているが、俺個人が所有しているのは5頭だけだ。残りは村長の紹介で、近隣の街の羊飼いから預かって面倒を見ているに過ぎない。


 妹のメイとユーノが結婚するときに()(さん)(きん)として羊を2頭ずつ持っていったら、残った羊からとれる羊毛や乳だけでは、俺と母さんの生活が苦しくなる……。


 父さんが死んだときに預かっていた羊を失っているから、俺には借金もある……。


 羊にたくさん子供を産ませてメイとユーノに飼育させ、少しずつ財産を()やそうと思っていたが、それをする時間がない……!


 母が妹たちの結婚を話題に出してきたということは、誰かどこかの男が縁談を持ちかけてきたからに違いない。それで()(さん)(きん)がないから困って、俺との結婚を提案してきた。


 くそっ。俺の妹をほしがるなんて、どこのロリコンだっ……!

 メイは12、ユーノは8だぞ……!


「アレルがメイと結婚すれば、この家から財産は出ていかない。貴方たちが子をたくさん産んで、無事に育ってくれれば、もっとたくさんの羊を遊牧できるようになる。家に財産が集まるわ」


「ううっ……! うああっ……!」


 これが、中世的価値観……!

 ごく当たり前の、常識だ。

 中世ヨーロッパの貴族だって領地や財産の流出を防ぐために兄妹婚をした。貧乏人は尚更だ。

 創作物だと「血を濃くするため」貴族が近親婚をしたことになっているが、実際は財産や土地を他家に渡さないことを理由にした場合の方が多かった。庶民だって貧乏だから、貴族以上に近親婚をした。


 今まさに、うちも貧しいから、兄妹での結婚を勧められている。


 この世界に女冒険者が多いのは、()(さん)(きん)を用意するためというのも理由のひとつだろうし、戦士がビキニアーマーを着ているのは単にお金がないから全身を覆う甲冑が買えないからだろうし、この世界の庶民は貧しい……!


 だ、だが、妹と結婚して子供を産ませるくらいなら、お、俺は母さんと……!


 そうだよ!

 家族同士で結婚すれば財産が外に流出しないというのなら、別に妹ではなく、母さんと!

 でもっ、実の母……!

 妹以上にタブー!


 俺が苦悩していると母さんが「あっ!」と手を打った。


「そういうことね。アレル。貴方、子供の作り方を知らないから、戸惑っているのね?」


「えっ。あ……うん。だから、メイとの結婚はなかったことに――」


「大丈夫。メイには『女の準備』も『男を準備させる方法』も教えてある。それでもアレルが初めてで不安なら、今から母さんと練習しましょう」


 ……え?


 ……。


 え?


 ……えっ?


 なんて言った?!


 聞き間違いじゃないよな。

 今から母さんと練習しましょうって言った?!



────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

子作りの練習ってなあに?

ケルリルは練習しなくてもいいよ!

アレルの赤ちゃん、いっぱいほしい!

────────────────────

■自分

……お前はマジで諦めてくれ

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

お、おい。

お前の回想。見ても大丈夫なやつか?

練習するのか?!

────────────────────

■自分

くくくっ……

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

……!

お、お前、意味深な笑いが魔王より上手いのって、どうなんだよ!

────────────────────

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