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2-6. 聖女っぽいのと悪役令嬢っぽいのが現れたが、関わりあいたくないし無視する

 私物武器の検査を順番待ちしていると、庶民って感じの女の子が「緊張するね」と話しかけてきた。

 どうやらこの子も、集団に割りこんでいく積極性はないようだ。

 ファンタジー小説だったらヒロインになりそうな感じの《《地味》》少女だが、特に関わるつもりもないので「そうですね」と短く答えて、会話は膨らませなかった。


 ん?

 取り巻きを2名背後に引き連れて、金髪赤リボンの派手なドレスの女が踵を鳴らして近づいてきた。


「あーら。エルさん。貴女、庶民のくせに本当に試験を受けに来ていたのですね? 貴女が聖属性の回復魔法でアルフレッド様を治療したというのは、でっちあげの嘘でしょ? どうせ隠し持っていたポーションで治療しただけ。アルフレッド様の怪我だって、貴女の小ずるい企みに違いないわ。それを、アルフレッド様の優しさにつけこんで、騎士学校の試験を受けるなんて。恥を知りなさい!」


 なんか、悪役令嬢みたいなやつだなあ。

 俺の目の前でミニコントが始まってしまった。

 関わりたくないが、先にいた俺が移動すると、負けた気分になるから動きたくない。


「試験に合格するのは、わたくし、マリア・カサンドーラ。聖女になるのもわたくしよ! 貴女は荷物をまとめて家に帰りなさい。わたくしの屋敷で馬房の片付をして馬糞にまみれているのがお似合いよ。おほほほっ!」


 悪役令嬢っぽい女は去っていった。背後に控えていた取り巻きっぽい人もついていく。なんで取り巻きってふたり組なんだろうな。


 庶民っぽい女は目尻に涙を浮かべていた。


「私だって聖女になれるなんて思ってない……。でも、もし私にアルフレッド様がおっしゃったように聖女の力があるなら、回復魔法で病気のお母さんを治してあげたい……。絶対に合格して、この学校で魔法を勉強するんだ……」


 なんかこっちは転生聖女っぽいな。

『俺、日本人なんですよねー』と声をかけたら『ゲーム世界に来たのは私だけじゃなかったんですね!』みたいに話が膨らみそうだ。


 でも、まあ、なれなれしく話しかけて迷惑かけるつもりはないし、放置だ。


 俺は私物武器使用申請の集団がはけるまで、聖女ちゃんと特に会話もなく並んで立って待った。



────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

ふむ。

たしかに、この女から異質な光の魔力を感じる。

かなり有能な聖女のようだ。

────────────────────

■自分

へえ。そうなんだ。

光属性と聖属性ってどう違うんだ?

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

ん。光はキラキラって感じで、聖はフワアアッて感じだ

────────────────────

■自分

……あ、うん。分からん

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

……あれ?

お前の仲間ってこいつだっけ?

────────────────────

■自分

いや違うよ

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

違うよー。

アレルと一緒に旅しているのは、

おっぱい剣士

陰キャ魔法使い

ブラコン妹

だよ

────────────────────

■自分

ケルリル。

一応、お前にとっても旅の仲間なのに、そういう認識なのかよ……

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

みんな発情期でアレルを襲おうとするから、ボクがいつも見張ってるんだよ!

────────────────────

■自分

お前、俺を護ってくれていたのか。

ありがとう……

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

えへへっ!

アレルと最初に交尾するのはボクだもん!

────────────────────

■自分

……その可能性だけはない

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

で、こいつどうなったの?

────────────────────

■自分

いや、これっきりだが?

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

え?

思わせぶりに登場して?

────────────────────

■自分

ああ。

こいつは今頃、騎士学校で勉強しているんじゃないのか?

知らんけど

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

お前、何か運命の(きざ)しを見落としてたんじゃね?

本当はこいつとパーティーを組んで、我を倒す運命だったんじゃね?

────────────────────

■自分

だったら、こいつと仲良くならなくて正解だ。

お前と仲良くなれたんだから

────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

お前……

……

………

照れさすなよ

────────────────────



 集団がはけたので、俺はあいたところへ向かった。

 眼鏡をかけた女性教師らしき人がいる。20台中盤だろうか。理知的な眼差しで、胸が大きく女性的な体つきをしており素敵な女性だ。


「私物の武器を使います。確認をお願いします」


「はい。では確認いたしますね」


 俺は短槍と棍棒を武器確認担当者の前に置く。

 彼女は、瞳を大きくして武器と俺を見比べた。


「え? これを?」


「はい」


「……え? 魔法の杖ではなさそうだけど……。ただの、棒……? あ。魔法道具ですね」


「いえ。山で拾った棒です」


「拾った棒? あ。あー……。たしかになんの魔力も感じない。けど……。なるほど。冗談ではないようですね。使いこんであります。いいでしょう。使用を許可します」


「ありがとうございます」


 さすが教師。物を見る目はあるようだ。

 しかし彼女の口ぶりから察するに、他の受験生は棒よりマシな武器を持ちこんでいるらしい。

 もしかして、お受験に熱心な教育ママが、お高い魔道具を持たせてくれるのか?


 俺の武器はしょせんただの木。さすがに金属の剣や魔法を使う受験生との戦闘は厳しいか?


 怪我しないように安全第一でいこう。


「あの。これを首に巻いてください」


 ……ん?

 俺が立ち去ろうとしていたら、武器確認担当の女性が声をかけてきた。

 なんだろうとみると、スカーフを俺に渡そうとしている。

 彼女が巻いていたやつだよな?


 ……え?

 なんで?


 手元に突き出されたから、つい受け取ってしまった。


 試験の組み分け?

 チーム戦をするなんて聞いてないが。

 いや、物を受け取ったのは俺だけだ。


 明らかに講師の私物だと分かる。

 良い手触りだ。貴族が使うような、絹製の高級品だ。

 こんなの、俺が元日本人じゃなかったらビビってしまうぞ。


「えっと……」


 俺が困惑していると、講師は軽く咳払いをした。


「当校を受験するにふさわしい服装をしてください。必ず装飾品を身につけてください。でなければ、装飾品すら売り払わなければ生活が成り立たない貧しい者と見なされます」


「あ、はい。分かりました。お借りします」


 ……え?

 そんなに俺、貧乏くさい?

 試験を受ける前に、身なりを指摘されるほど?!


 俺が着ているのは、糸魔法が使える母さんに頼んで編んでもらったものだ。一般的な人が着るようなダボッとした服ではなく、体に密着する現代日本的なデザインだ。

 頻繁に水魔法で丁寧にもみ洗いしているから、他の人たちよりも綺麗なはずだが……。むしろ、貴族より身なりが良いつもりだったんだが……。


 そうか。俺は貧乏くさいか……。

 それで、デコッぱち達に絡まれていたのか。

 おそらくこの女性教師は、そのことに気づいていて、俺を哀れんでくれたんだ。


 俺はスカーフをネクタイ結びで自分の首に巻いた。


「持ちこみ武器の確認を終えた受験生は第一戦闘訓練場に入るように!」


 アナウンスされたから、俺は軽く駆けて第一戦闘訓練場とやらに向かった。


 さっきまで魔法試験や物理試験が行われていた所とは別だ。


 田舎の小学校のグラウンドくらい広々とした空間に、生徒がまばらに散っている。

 俺はほぼ最後の入場だった。


 なんでファンタジー世界の騎士学校や魔法学校って、城塞都市という閉鎖空間に、こんなだだっ広い空間を作るんだろうな。座学を受ける建物を城壁内に作って、戦闘訓練場は城壁外に作った方が良くない?


 大規模魔法による事故を想定していないのかな。

 やはりこの世界には「俺、なんかやっちゃいました?」級のトンデモ魔力の使い手はいないのだろうか。


 訓練場は当然のごとく中央が()いている。俺は目立つつもりはないので、端の方に行く。

 なんかデコっぱち3人集が近寄ってきた。


 よく俺に気づいたな。

 俺が入場するの、待ち構えてたの?


「お前ら、もう俺のファンだろ……」


「何を言っているんだ? ふん。試験が始まったら、真っ先に君を不合格にしてあげるよ」


「ポルッチさん。この生意気なガキには俺が最初の一撃を加えてやりますよ」


 丸かいてフォイッて感じのデコっぱち君、お前、ポルッチなんて可愛い名前だったのか!


 戦闘試験では徒党を組むことは禁止されていなかった。事前に仲間を用意することや、試験中に共闘相手を探すことも、試験の一部なんだろうか。


 あちこちで何やら話しあっている小グループがいる。

 まあ、俺はぼっちでいいや。なんの訓練もなく父さん以外と連携できる気がしない。


 3人は小馬鹿にした笑みを浮かべニヤニヤしている。表情筋が衰えていないか心配になるくらいだ。


 ちょっとうっとうしいし、ポ……。

 なんだっけ。可愛い名前だったよな。

 ポ……。

 ポル……。


 ポル……カ?


 ポル……ンガ?


 ……。


 ………デコっぱちに嫌がらせをするか。


 俺は試合場の中央に移動した。完全な空白地帯だ。満員電車でゲロ吐いたかのごとく周囲に誰もいない。


 俺はデコっぱちを見つめ、指を上向きにするタイプの手招きをする。


「どうした。来いよ。騎士を志すなら、自ら最前線に飛びこむくらいの勇気を持て。己の体を餌にして敵を引きつけてみろよ。俺はいつも、そうしているぞ」


 羊の群れが襲われないよう、俺や父さんは時として、群れから離れて戦う。

 まあ、賢いモンスターは俺たちをスルーして群れを襲おうとするから、群れを離れられないときもあるから『いつも、そうしている』は、言い過ぎか。


 デコっぱちは顔を真っ赤にして取り巻きに何かわめくだけで、中央には来ない。

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