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2-4. うざガキが絡んでくる

 騎士学校の校門をくぐり、父さんが受付の人に話しかけて何かしらの手続きをした。

 その後、俺は父さんと別れて、ひとりで校庭らしき場所へ向かう。


 小学校低学年くらいから高校生くらいまで、200人くらいいるだろうか。俺は12歳だったので、真ん中より少し下くらいの気がする。


 周囲の話を聞く限り、年齢ごとにクラスが別れるわけではなく、今年合格した者は全員同じ学年になるらしい。小学校や中学校のような義務教育よりも、大学に近いのかもしれない。

 訓練を積んで数回目の試験に挑む者もいるようだ。


 俺みたいにキョロキョロしているやつが初めてのお受験で、余裕たっぷりにどっしりしているやつがベテランか?

 いや、まあベテランになるほど受験している時点で才能がないということだ。それなのに、必死さの反動からくる不安がないのは、どうかと思うぞ……。普通は「これだけ頑張ったのに合格しなかったらどうしよう」と不安になるものだろ?


 ひそひそ。


 ひそひそ。


 ……なんか俺の方を見てひそひそ言っているやつがいる?


「おいおい。あそこ見ろよ。随分とみすぼらしい格好のやつがいるぞ」


「伝統あるパレンミラ騎士学校が狭き門だと知らないらしい」


「腰に木の棒を吊り下げているが、まさかアレで試験を受けるつもりか」


 ふむ。

 どうやら貧乏人の俺を噂しているようだ。

 俺は外見は子供でも精神的には大人だからな。お前らガキが何を言おうと気にしない。


 15歳くらいの、丸かいてフォイッて感じのでデコ少年が、同年代の取り巻きふたりを従えて、俺の前を塞ぐように立つ。


 中学校3年生が、小学校6年生を取り囲むような構図になったぞ。

 まあ、別に怖くはない。俺はこいつらよりでかいサイズの熊やモンスターと戦っても負けないし(勝てるとは言ってない。父さんが助けに来るまで負けずに戦えるの意)。


「君。ここが聖騎士ルファウス様が理事長を務めるパレンミラ騎士学校と知って、受験に来ているのかい?」


 相手をするつもりがないので無視する。

 すると、デコ少年の取り巻きAがわざわざ腰を曲げて俺にニヤニヤ顔を向けてくる。


「おいおい。騎士学校があまりにも立派でビビってんのか?」


 よく分かったな。


 俺は今まで『ガチの』中世の村人として生きてきたので、いきなりこんな『近世ファンタジー』の世界に来て、ちょっとビビってる。


 校舎はやけに綺麗だし、塔に時計があるし、窓にガラスがはまっているし、教師らしき人はスーツみたいな立派な服を着ているし、明らかに山村の田舎者が通う学校ではない。


 俺は母さんお手製の羊毛の庶民服を着ているが、絡んできた連中は胸にボタンがついた絹のシャツを着ている。ボタンが着いた服なんて、村長以外に初めてみたぞ! おしゃれしやがって!


 ちらっ。


 靴もなんか高そうだな!

 俺が羊の皮を編んだ簡素な靴で、コッペパンみたいな形状をしているのに、こいつらのはなんて言うか足首部分にシュッとした折り返しがあって、近代的なで材のように見える。しかも、新しい。ボロボロで泥だらけの俺の靴と違って、つぎはぎがない。


「へへっ! ビビッてやがる。こっち見ろよ」


 お前らの靴を見ていただけだが、怖くて俯いたと勘違いされたようだ。

 そういうことにしておくか。


「そうだ。俺はビビってる。放っておいてくれ……」


 俺は小声で言うと、振り返ってガキたちに背を向けた。

 しかしクソガキどもは俺の正面に回りこんでくる。


「ここは貴族や上級市民の子息が通う学校なんだ。知らないのかな?」


「お前みたいな貧乏人が来ていいところじゃねえんだよ」


「俺もそう思う」


 素直に肯定した。

 特待生に選ばれれば授業料が免除されるそうだが、もし中途半端な成績で合格してしまったら金がない。


 うちは裕福とは言えないが山村では平均的な生活をしているので、貧乏だとは思わない。だが、絡んできた連中の身なりから察するに、彼らが俺を貧乏人だと思うのは、ごくまっとうな感性だ。俺は、この学校に通うのは不釣りあいだ。


 入学の歳にこいつらと同じ水準の衣服や靴を用意しろと言われたら、俺の両親は困るだろう。教科書とか魔法の杖とか剣まで用意しろと言われたら、それこそ村中からお金を集めなければならないだろう。

 田舎の山村から騎士学校合格者が出たら名誉なことだとかいう理由で村人がお金を出してくれたら、その期待の大きさに気まずくて、俺はゲロ吐くぞ。


「場違いな貧乏人だって自覚があるなら帰れよ。お前みたいな冷やかし受験は目障りなんだよ!」


「自分がどの程度通用するか分かったら帰るよ」


「ちっ。貧乏人が」


「ふう。いるんだよね。毎年、君みたいな冷やかし。いいかい。教えてあげよう。僕のレベルは7だ。ファイヤーボールを使えるし、ゴブリンを倒したことだってある。君のレベルはいくつだい?」


「一度も測定したことがないから分からない」


「試験を合格するには、ひとりでゴブリンを1体倒せるくらいの強さが必要ということだよ。名門パレンミラ騎士学校を受験するんだから、1対1でゴブリンを倒したことくらいあるだろ?」


「ない。いつも父さんと一緒だから、ひとりでモンスターと戦ったことはない」


「ぷっ」とデコ少年がふきだすと、残りのふたりがゲラゲラと笑う。


 デコ少年は目に涙を浮かべ、腹を押さえて、心底愉快そうに笑う。


「君。それじゃあ合格は無理だ。帰りなよ。ぷぷぷっ。ひとりでゴブリンを倒せるようになってから来なよ。ほら。お礼はどうした? 田舎者はお礼を言えないのか? 教えてくれてありがとうって言ってみなよ」


 誤解させてしまったか。

 ゴブリンとの1対1の経験を聞かれたから、ないって答えたが、俺は父さんとふたりでゴブリン20体の群れを撃退したことがあるし、『放牧中ではなく、羊を護る必要がないという状況下でなら』ひとりでブレードウルフという推奨討伐レベル10のモンスターを倒したこともある。


 もちろん、父さんがサポートしてくれたし、俺の訓練という面も大きかったが……。それでも、ゴブリンなら3体くらい同時に相手しても倒せる気がする。


「あー。/

 :言うかどうか一瞬だけ迷う。

 あまり俺に絡まない方がいいぞ?」


「は? 君は随分と生意気な口をきくね」


「調子に乗ってんじゃねえぞテメエ」


 俺はわずかに立ち位置をずらし、両手を体の後ろで組んで、直立不動姿勢をとる。


「さっきからお前達の話を聞いていると――」


「お前とか言ってんじゃねえよ。テメエ!」


「生意気だな!」


「まあまあふたりとも。田舎者が勇気を振り絞って何かを言おうとしているんだ。聞いてあげようじゃないか」


 デコ少年の余裕たっぷり上から目線が、逆に可愛く見えてくるなあ。


 俺は微笑むのを我慢し、普段の落ち着いた口調で続ける。


「お前達は既に複数回、受験を受けているようだな? つまり、何度も落ちている」


 グッ!


 丸かいてフォイッて感じのでデコ少年が胸ぐらをつかんできた。


「君はどうやら、この学校の格式を理解できていないようだ」



────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

くるか?

ぶんなぐるか?

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

わーい!

ぶちのめすぞ! ぶちのめすぞ!

────────────────────

■自分

おいおい。相手はガキだぞ。

俺がこの程度の挑発に乗るはずがないだろ

────────────────────



 俺はデコ少年の手を振り払うことなく、言いたいことを続ける。


「お前はこの学校の合格基準はレベル5と言った。けど、お前はレベル7なんだろ? 基準を超えているのに落ちている。能力以外に問題があるんだろ? ほら。周りを見ろ。教師らしき人間が何人かいる。今、こうして俺に絡んでいる様子も、王国騎士にふさわしいかどうか、評価されているんじゃないのか?」


「……ッ!」


 デコ少年は慌てた様子で俺の胸ぐらを放した。


 デコ少年は俺をにらむと、口元を歪めて何か言いたそうにするが、やめた。


「……行くぞ」


 クソガキたちは俺に背を向け去って行く。


 俺は真ん中の背中に向かって、試験官に聞こえないくらいの小声で言う。


「受験連続失敗中のデコッぱちはお礼を言えないのか? 教えてくれてありがとうって言ってみなよ」


「……ッ!」


 デコっぱちは振り返り、真っ赤な顔でにらんできた。


 まだ俺とトークがしたいらしい。しょうがないな。


「お前が言ってきたことを言い返しただけなのに、怒るなよ。バ~カ。ほら、これで満足か? こういう返事が欲しかったんだろ?」


 デコっぱちはプルプル震えながら、去って行った。



────────────────────

■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

アレル。お前、このガキにムカついてただろ?

────────────────────

■自分

ムカツイテナイヨ

────────────────────

■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

こんなのやだやだ。

ぶちのめして! ぶちのめして!

────────────────────

■自分

安心しろ。すぐにぶちのめすから

────────────────────

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