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2-3. 父から騎士学校を受験しろと言われる

 仕事に対する哲学も、羊飼いという孤独な旅を強いられる職業の反動からくるひょうきんさも間違いなく父の魅力だ。


「お前が小便を俺より遠くまで飛ばせるようになった頃、このルートはお前に譲る。ひとりで羊飼いをするときのために景色と道を覚えろ」


「うん! 俺、父さんみたいな羊飼いになる!」


 父を語る上で、彼のもうひとつの顔を忘れてはならない。


 父は羊飼いであるのと同時に――いや、羊飼いだからこそ――優秀なモンスターハンターでもあった。


 モンスターにとって羊は格好の餌だ。手強い他のモンスターや熊やヘラジカや、狡猾な狼や狐や、すばしっこいウサギやイタチよりも、大人しい羊の方が狩りやすい。

 当然、モンスターは羊を襲ってくる。


 そのモンスターを撃退する能力こそが、羊飼いに最も求められる技能だ。


 痩せこけていた父は短い手槍と棍棒を巧みに操り、自分よりも大きなモンスターすら撃退した。


 この世界にも、いわゆる冒険者ランクというのが存在しており、父はB級だった。羊飼いとして遊牧する傍らで、辺境の山奥にしかない薬草を採取したり、レアなモンスターを倒して得た素材を売ったりするうちに、気づいたら上がっていたらしい。

 本業の合間の功績だけでB級なのだから、冒険者活動を専門にしていればA級にすらなれるだろう。

 それは国でも一握りのエリートに相当する。


 なんで『レベル』があるのに『冒険者ランク』もあるのかというと、認定する団体の違いだ。

 ラルム教やリュテ教などの『教会』が認定するのが『レベル』で、冒険者組合が定めているのだ『冒険者ランク』だ。

 地球のセンチとインチのように、相いれないんだろうな。


 一応『レベル』が戦闘能力を基準にしていて、『冒険者ランク』が問題解決能力を基準にしているという違いはある。だから、戦闘能力が(かい)()でも、遺跡の調査や古文書の解読で『冒険者ランク』は上がる。


 ちなみに魔王城手前時点の俺はレベル32で、冒険者ランクはC。俺も父さんと同じように、羊飼いの傍らに素材を採取していたら、街でもそこそこ知られるくらいの評価を得ていた。



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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

Cってどんな感じなの?

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■自分

あー。だいたいこんな感じの基準だ。

 S:歴史に名を残す偉業を達成した

 A:国家の発展に多大な貢献した

 B:大都市の発展に多大な貢献した

 C:街の発展に多大な貢献した

 D:村の発展に多大な貢献した

 E:初心者

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 今まで生きてきて、たまにBランクの人を見かけるくらいだ。

 SやAなんて王都の何かしらの研究所の奥にでもいるのだろう。

 

 さて。街に行くようになってから知るのだが、俺が日本的な基準により不健康という印象を抱いていた父は、都市民よりも(はる)かに健康的で筋力に優れていた。

 というのも山間部では、羊や山羊の乳や肉から動物性タンパク質をとれるからだ。


 都市周辺では馬や牛が飼育されるが、それらは労働力だから、食料にはならない。都市では農産物や保存食も手に入ったが、やはり動物性タンパク質の摂取量は少なかった。


 つまり、父のように山で暮らし旅を続けている者は、豊富な動物性タンパク質と運動により良質な筋肉が鍛えあげられているのだ。

 そんなフィジカルエリートが、年中、周囲の気配を探り、いつモンスターと遭遇するか分からない生活を送っていた。依頼があったときにだけ冒険したりダンジョンに潜ったりする冒険者や、戦時のみ徴用されるような兵士よりも戦闘力に優れていただろう。


 父はいつも、自然や動物たちの様子からモンスターの接近を察知し、軽敏な動きで先手をうち、牧羊犬代わりの相棒モンスターと連携し、100頭の群れを守り切った。



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■自分

おっと。いけない。

多少、回想の順番が変になるが、『初めてのぶちのめすぞ編』を思いだすなら、このタイミングだな

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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

お。いよいよか。

おい、犬コロ、起きろ

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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

わーい! ごはん! ごはん!

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■自分

ごはんじゃなくて『初めてのぶちのめすぞ編』だ

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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

わーい! 楽しみ!

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 さて。幼少期から羊飼いとしての英才教育を受けていたが俺だが、実は他の進路もありえた。


 村から南東へ1ヶ月ほど旅したところに、パレンミラという街がある。大貴族が治めている土地の首都的な場所なので、かなり発展している。教会堂、市場、ギルド会館、武器屋、防具屋、道具屋、病院、公衆浴場、床屋、造幣所……おおよそファンタジー世界に存在していそうな施設はひととおりそろっている。


 そして、騎士学校もあった。


 冬の到来を控えた13歳の晩秋。

 父さんが使役している獣と羊たちを近くの山に残し、俺たち親子はパレンミラに続く街道を歩いていた。

 ふたりとも背中に大きな荷物を背負っている。

 遊牧中に作ったチーズや毛皮を売り、お金や食料と交換しに行くところだ。しかし、父が普段とは違う話題を始めた。


「――というわけだ。アレル。試験を受けるだけ受けてみろ」


「僕は羊飼いになる。別に、騎士になんてなりたくない」


「そう言ってくれるのは嬉しい。だが、騎士になれば収入が安定する。いいか? 騎士には大きく2種類ある。教会系と、王国系だ。教会系はその名のとおり、教会から(じょ)(にん)される。魔族を倒すために戦う騎士だ。名誉や宗教的情熱や信仰心を示すことを目的とする。聖戦で勇者になるような英雄は、ここから現れることが多い」


「僕は英雄になんかなりたくないよ。魔王だって怖いし……」


「そうか。なら王国系だ。王国系は国王や領主から(じょ)(にん)される。国を護るために、主に他国(魔族か人間かは問わない)との戦争に参加する。国から給料が貰えるため生活が安定する」


「戦争なんて、もっとやだよ!」


「だが、お前が生まれてからは大きな戦争は起きていない。分かるだろ? 父さんが若かった頃に魔王は倒された。今は平和な時代だ。王国騎士になってする仕事といえば、盗賊対策やモンスター退治だろう。俺は、こっちを勧める」


「試験で優秀な成績をおさめれば、学校が生活費を出してくれるのは知っている。庶民が出世するための、数少ないルートのひとつだということも分かってる。でも、僕は寮に入って家族と離ればなれになるのはいやだ。もっと父さんから学びたい」


「お前……。嬉しいことを言ってくれるなあ……」


 父さんが手を伸ばし、俺の髪をくしゃくしゃにかき混ぜてくる。

 俺は父さんの大きな手が好きだった。


「まあ、試験だけでも受けてみよう。お前が同年代の子どもの中でどれだけのもんか、分かるぞ」


「……分かった。でも、期待しないでよ。僕は魔法がレベル0だし」


「なあに。魔法以外も見られるんだから合格の可能性はあるぞ。俺はお前をモンスターはもちろん、並の特異魔法(スキル)もちにも負けないよう鍛えているつもりだ」


「……うん。そう言われると、父さんの教え方が上手いってことを証明しなきゃって気になる。やれるだけのことはやってみるよ」


「おう」


 俺たちはパレンミラにつくと、羊毛とチーズを売ってお金に換えた。


 それから、騎士学校に向かった。外から見る限り、立派な建物のように見えた。もっとも、城塞都市というのは道幅が狭く建物が多いから、視界を遮られてばかりで、学校の全容はまるで分からないのだが……。



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■ヴォルグルーエル@闇刻(あんこく)魔王

読めた!

受験生を全員ぶちのめして、お前が唯一の合格者になる展開だ!

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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ

アレルすごーい!

ぶちのめして! ぶちのめして!

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■自分

いや、まあ受験生をぶちのめのが俺の初体験だが、合格者がひとりみたいな展開にはならなかった気がする

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