青い瞳の導き
青い魚が発する不思議な音は、ソラにとって初めて聞く海の言葉だった。最初は全く理解できなかったが、青い魚に「ルカ」と名付けることにした。
ルカは辛抱強くソラに語りかけた。身振り手振りのような動きや、海底の特定の場所を示すことで、少しずつソラはその意味を理解していった。
ルカは、ソラがまだこの海の世界の何もかもを知らないことを察し、献身的に彼女を導いてくれた。危険な生物が生息する場所、安全な隠れ家となる洞窟、そして、海中で食べられる海藻の種類などを、丁寧に教えてくれた。
ソラにとって、ルカは初めての海の友達であり、先生だった。ルカの優しくも毅然とした態度に、ソラは次第に心を開いていった。言葉は通じなくとも、二匹の間には確かな絆が育まれていった。
ある日、ルカはソラを、これまで以上に深い場所へと連れて行った。薄暗い海底には、奇妙な形をした岩が積み重なり、ところどころに光を放つ生物が漂っている。ソラは、その神秘的な光景に息をのんだ。
その場所で、ルカは海底の砂地に何かを描き始めた。それは、ソラが見慣れた、太陽のような丸い形だった。そして、そこから何本もの線が伸びている。
「これは…?」
ソラが疑問に思った瞬間、ルカは自分の胸をヒレで叩き、ソラを指さした。そして、再び太陽のような絵を指し、今度は海面の方を仰ぎ見た。
ソラは、ルカが何を伝えたいのか、少しずつ理解した。
ルカは、ソラの故郷である陸の世界、そして太陽のことを話しているのだ。もしかしたら、ルカもかつて、陸の世界と何らかの関わりがあったのかもしれない。
それからというもの、ソラはルカに、自分が育った街のこと、利根川で遊んだこと、家族のことなどを、身振り手振りを交えて懸命に伝えようとした。言葉にならないもどかしさを感じながらも、ルカはいつも辛抱強く耳を傾けてくれた。
海での生活は、決して楽なことばかりではなかった。予測不能な海流、空腹、そして何よりも、陸の家族を思う寂しさが、ソラの心を締め付けた。
夜になると、ソラは海底の岩陰に身を潜め、水面を見上げては、遠い故郷を想った。
そんな時、いつもそばにいてくれたのはルカだった。ルカは、ソラの悲しみを理解するように、そっと寄り添い、温かい体で彼女を包んでくれた。その優しさに触れるたび、ソラは再び前を向こうと決意するのだった。
ある満月の夜、ソラとルカは、光り輝くサンゴ礁の上にいた。水面は静かで、月明かりが幻想的な風景を作り出している。ルカは、何かを決意したかのように、ソラを見つめた。そして、これまでよりもゆっくりと、はっきりとした音を発した。
それは、ソラが初めて聞く、どこか悲しげな旋律を帯びた音だった。その音は、まるで遠い記憶を呼び覚ますように、ソラの胸に深く響いた。
ルカは、自分の過去について語り始めたのだろうか。おてんば娘ソラの、海の仲間との絆は、さらに深まろうとしていた。