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九年が過ぎた。
彼女からは宇宙センターから順調に火星に行くとしてもおおよそ九年でまた地球に戻ると聞いていた。彼女が戻ったところで何が変わるだろう。愚かな僕は彼女のことを運命の人かもしれないと漸く気づいたものの、彼女にとって運命の人ではもはやなくなっているだろうし(彼女は誰からみても恐ろしく魅力的なはずだ)、九年という月日は馬鹿げているほど無駄に長い。
ある日、僕は連絡ボックスを開き固まってしまった。
受信ボックスに彼女からのメッセージが届いていたからだ。想定外の出来事に驚き、指先を震わせながらそのメッセージを開いた。
メッセージはとても簡潔なもので添付ファイルには招待状がついていた。
要するに、彼女は地球に帰還しておりチームのミッションの成功を祝うレセプションが宇宙センターで開かれるとのことでそこに僕を招待するというだけのものだった。簡単な挨拶文のみの感情もなにもこめられてないその内容は、僕を歓喜させ動揺させそして落ち込ませた。この内容から彼女の意図は、僕を招いたという以外は何も読み取れない。何か僕に見せつけるものがあるのか、僕に会いたいと少しでも思っているのか、はたまた何なのか何も伝わってこない文面を何度も読み、そして途方にくれた。行くべきか、行かざるべきか。
そして僕は結論を出した。僕たちの関係が運命ならば、運命に委ねようと。
ということで、当日晴れていれば運命はまだ続いている可能性があるとしてレセプションに出かけよう、そして雨が降っていれば、運命はたち消えているとして、レセプションは欠席しようと。この結論は正直なところ、やや公平さを欠いていて時候から考えるとおそらく雨の可能性のほうが低かった。
例えそれが不公平であろうと、僕は、決断するという行為から逃避できて満足していたのだ。