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しかし、僕は疲れてきた。
あれから六年過ぎたのに未だ彼女はどく気配をみせない。
僕の生活の中に他に特別な存在が立ち入ることもなく、そのために、僕にとっては運命の相手だが彼女にとっては運命の相手ではないことから関係性が成立しえない彼女を、ずっと心の片隅で意識し続けることは大変不健康に思えた。
そこで僕は一念発起した。なぜ、彼女のことをこうも想い続けているのかといえばそれはきっと淋しいからだと考えたのだ。
そこで大変安易で容易な解決方法を考えた。
というのもちょうど遺跡発掘現場の作業員から声をかけられたのだ。猫が赤ん坊を産んだから飼ってくれないかと。僕はペットを飼った経験はないが、ちょうどいい話ではないかと飛びついた。
結論から言うとこれはまた大変な失敗だった。
いや、失敗というと語弊とリスクがある、というのも失敗だったと僕が心の中で考えた途端、猫のピートが僕を睨むのだ。ピートは賢いというよりも賢すぎる猫で僕の心を読む。僕が、彼を飼ったことが失敗だったなどと考えた途端、唸り声をあげ二、三日不機嫌な態度をとることで飼い主の反省を促すという極めて厄介な猫だ。
厳密には失敗だったわけではないのだ。
ピートとの生活はそれまでの僕の暮らしをまるで変えてくれた。僕は僕のために生きていたが、今はピートのことを護ることも僕の役目になったからだ。自分のためにだけ生きることの虚しさにそろそろ気づき始めていた僕にとって、ピートを護ることはわかりやすい喜びだった。
ただ、当初の目論見はまるで外れた。彼女のことを想い続けることをやめるためにピートを飼おうと考えたせいで、ピートは常に僕の中で彼女と直結していたのだ。僕にとって、ピートは彼女だったというか、彼女を思い出させてくる起動装置だった。そもそも、ピートという名前は、彼女が好きだった古典SFからとったのだった。
相変わらず何年たっても僕は彼女のことばかり考えていた。
なんて愚かしいことだろう。