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それから三年間、僕は、彼女とは何もなかったのだしこれからも何も起きない、勿論運命ではないのだと思おうとした。そもそも、生きる方向性がまるで違う方向をむいているのだから、これほど運命ではないことが明白な相手などいるだろうか、どこに運命を感じる要素があるのだと思おうとした。彼女のことを意識の外へ追い出そうと格闘し、論理的に運命などではないと思おうとすればするほど、むしろ彼女は僕の頭にスペースを築きはじめ、厚かましくも居座るようになった。
大変厄介だったのは、僕にとって、彼女が今までに会ったことがない特別な人だったことは揺るがし難い事実だったことだ。確かにその点で、運命とは言えないにしても僕には特別な存在だった。それは認めないわけにはいかない。そのため、僕はその点も論理的に克服しようとした。彼女が僕が親しくなった人の中で特別な存在だということは揺るがし難いとしても、これからまた特別な存在に出会う可能性は十分ある。おおまかに、彼女は僕にとって50人目の親しい人だと考えれば、これから50人の人と親しくなれば特別な存在とまた知り合えると確率論的に言えるはずだ(勿論僕は数学にまったく秀でてないのでこの妥当性については触れてほしくない)。
この僕の論理は、僕を大変無駄に傷つけた。
これを実証するためにむきになって多くの人と出会おうとし、無駄に疲労する羽目になった。この疲労はむしろ、彼女の特別性を僕に再確認させた。
彼女は僕にとって今まで会ったこともこれから会うこともない(かもしれない)特別な人だったと僕はよくやく気づいたのだ。