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僕はその場を離れがたい気持ちで、しばらくそこで二つの月を眺めていた。
茜色の空は少しずつ色をかえ濃紺に近づこうとし、それとともに二つの大小の月はより輝きを増していった。
いつの間にか傍らに女性がいて、そしてある短歌を呟いた。
「『なにとなく 君に待たるる ここちして 出でし花野の 夕月夜かな』。
これが私の好きな歌だって、知ってる?」
背の高い彼女はそう言って、少しかがんで僕にキスをした。
僕は言葉を失ってしまう。
いや、失っていては駄目な時があって今がそうなのだ。
僕は、だから、彼女に向かってようやくこの台詞を言うことができた。
「ごめん。僕ときみは運命なんだってちゃんと気づいたんだ。随分遅くなってしまったけど、まだ間に合うかな」
彼女は僕をまっすぐに見つめる。
時が止まるってこういう瞬間を言うんだなと思った。
そして、このライムグリーンの月と僕と彼女のこの光景を、僕は一生忘れる日は来ないだろうと思った。
事実、僕はずっとこの瞬間を忘れることはなかった。
人生の最後の日まで。




