5話
夜の街を空を飛びながら徘徊していると無性にため息がでた。
「はあ…あの爺ちゃんは嫌いだなぁ」
モンスター差別が酷すぎる。
誰が好き好んで悪役になりたがるんだって。
モンスターが何かすれば、フラグが立っただのいいかねない。
結局のところモンスターである=最後は裏切るというテンプレにも似たようなのを信じちゃってるわけで。
だいたい昔から勧善懲悪の物語が多すぎるんだよね。
…それに1番嫌なのは…
「爺ちゃんのケツを追いかけても、楽しくない」
犯罪おかしそうな人間の背後についていたらこちらまで風評被害が来そうなのはともかくとして。
枯れた爺ちゃんの日常生活を追うのは退屈である。
追っかけるなら若い男かな…。恋愛が絡んでくると更にいい。
悠久の時を生きる中で、人間との生活に馴染みすぎていた。
酒を飲みたい、ゲームしたい。自由に使える肉体が欲しい。
目先の欲望にクラクラしていた。
長い人生だもの楽しく生きたいものだ。
さてそうと決まれば、爺ちゃんより先に人を見つけなければならない。
つまらない犯罪でこのお話が流れたらつまらない。
気づけば夜更けに外を徘徊するのが癖になっていた。
候補者は既に3人にまで絞っていた。
借金まみれのおっさん、少年、エルフの少女。
おっさんは5年前の事件の被害者でもあり、数奇な運命の中にあるし気にしていた。
5年前ダンジョン産の細菌が、流出した事件があった。通常はダンジョンコアを破壊しない限りは持ち出せない代物らしい。
壊肢病とも呼ばれ、腕がもげる。足が取れるといった。ダンジョンの外では通常起こり得ない事がおきた。
あの当時はダンジョンに逃げ込む事で多くの人が難を逃れた。
ダンジョンに魔物は入れない。出られないという法則が細菌にも適用された形になる。
あのおっさんは、あまりにダンジョンに近過ぎて次に近いダンジョンまでの距離が遠すぎるのを危惧してモーターボートを盗んで日本まで来ていたらしい
少年は稀な生まれだ。鑑定スキルを使用した時に表示された出身地コードは化野ダンジョンの番号コードだった。それも17階層という未知の領域の住人である。
16階層以上の人間の情報というものは乏しいが、外部の人間からは鬼の住まう地と評される事がある。
次の階層に進むと記憶を損なうダンジョンで、幾星霜の間、剣を振り続けているのだと噂されているからだ。
鳥が飛び方をはじめから知っているように、彼らは剣術を魂に遺伝子に刻み続け昇華させた。
雨垂れ岩を穿つが如く積み重ねた彼らの剣技を評して無心流剣術なんだとか…
真価を確かめるには面白いものがある。
ただ、そこまで大きな期待は出来ないとも思っている。レベル1で、スキルも所持していないし貧弱そうだ。
この街にいるエルフは…、1日の大半を寝ている。自堕落極まりない。軽い予知夢が出来るぐらいで当たる確率もかなり低い。
馬券買って利益が出る程度の実力もない。
この手のスキルは俄かだとハズレスキルになる。
現実と夢の違いを見失って恋人を包丁で刺しただとか。そういう人もいる。
現実と夢の見分けがつかない。夢うつつにぼんやりと生きている。
ただ結婚願望は非常に強いし、ぼちぼちのステータスは持っている。
自堕落なだけあってダンジョン攻略させること自体は無謀かも知れないが、もう一つのミッションは達成可能かもしれない。
まさか一階層で死ぬなんてそんな事はないと思う。
「さて、困った時はクジをひきますか…」
最初に見かけた車のナンバープレートの頭が1〜3ならおっさん。4〜6なら少年。7〜9ならエルフと。
車のナンバープレートは必ず1〜9で始まる。
天運に任せるのが好きだ。だいたい困ったらこの方法をとる。その方が運命をより感じるからだ。
空を飛びながらながら、車が駐車している場所を探す。探すまでもなくあちこちあるんだけど。
アパートに1台の車を見つけたので、覗き込んだ。
「…0から始まっている…」
そんな馬鹿な、一般車ではあり得ない0から始まる事はない…。一般道を走行出来ないではないか。
ひょっとして、テレビの撮影用だろうか?
それか、偽装でもしてるのか?
どうしたもんか…
クジのやり直しもありかもしれない