4話
2年の月日が流れた。
しかし、未だに孫は帰ってこない
あの日の事を思うと全てが許しがたい
歯を食いしばりギシギシと音を鳴らした
怒りで震えながら杖を握りしめて書斎にあったテーブルを叩きつけた
西洋チックの古ぼけた洋館全体に音が響いた。
「孫の魂をダンジョンから解放せねば…」
ダンジョンの存在を政府に知られれば…次にダンジョンへ入る機会がなくなる恐れがある。
それに息子夫婦は既に亡くなっており、ダンジョンで子どもを産んでくれとそんなことを頼める訳にもいかない
頼れるものなどいなかった。
己自身でどう行動するか考えなければならなかった。
犯罪すら厭わない。
もうそれしかない。
拉致することを決めていた。
精神的にかなり追い詰められていた。
84歳…自身の寿命が刻々と迫っている…。
時間など残されてはいない。
工具箱の中からハンマーを取り出してコートの中にしまった。
気絶させて連れ帰る。そんな上手くいくだろうか?
借りたレンタカーに血痕がつかないだろうか?
心配を隠せなかった。シートなどにはビニールをかけたし。血が飛び散らない様にはしてある
覚悟を決めると意外に冷静になれるものなのだなと、自身の冷淡さには驚かされた。
長い事生きてきたら社会との協調性を深めるはずなのにだ。
犯罪なぞ良心を痛めるし、人生の汚点にもなる。
それでも、行動しようとするのは孫の笑顔が脳裏を掠めるからだろうか?
いや、もとより他人に興味を持ちづらい性格してるからなんだろう。でなければもっと別の方法を選んだだろうからだ。
ポケットの中で車の鍵を握りしめて、車を動かすために庭にでた
夕方だ…
出来たら人目につきたくない。どこらへんを走らせるか。
今日はなんなら下見に終わらせてもいい。
夜の方が人に見つからずにすむ。だが、夜の運転が怖い歳にもなっていた
とりあえずあてもなく車を走らせると、普段自分が行く場所ばかりが目立つ
人気の少ない場所を探すがいい場所が見つからない
この日は結局なんの成果も得られなかった
夜遅くになり自宅で地図を広げていた。40年前に買った地図を見回した。
「年老いた身体でも、御し易いのはやはり子どもか…。ただあまり幼過ぎても困る」
「キャッキャッキャ、犯罪はいけない事だよ。やめた方がいいよ」
「黙れ、孫をたぶらかせおった貴様になぞ言われたくはないわ!」
ゴーストがどんな表情を浮かべているのかは認識出来ない。そこら辺が信頼関係を築くことが出来ない要因であった
「あれは、私の善意からだよ。母親の病気を治したいっていう彼の意思を尊重させた結果だね。効果のある本物のエリクサーを手に入れる。あるいは賢者の職業に就く事は叶わなかった。ただそれだけのことだよ。昔のダンジョンではそういう事も多かったし私にとっては今更のことだね」
ミイラ取りがミイラになるなんて言葉もある。幸せを願い不幸せになるのもダンジョンなのだ。
「まぁ…私としても後味の悪い一件なのは間違いないからね。私としても、候補者を探すとするよ。爺ちゃんみたいな拉致ってわけではなく説得って感じでね」
このゴーストは人の弱みに漬け込んで人を拐かす。契約と称してダンジョンへと誘うのであろう。
「フン…まぁそれでもよいがな。ただ、ダンジョンを攻略するのは反対だ。ダンジョンの1階層でただ子どもを産んでもらう」
「そんなめちゃくちゃな話なんかあってたまるかっての。ダンジョンは攻略してもらうし、私も契約を結ばせたいからね。私は私で行動させてもらうよ。もちろん、この1件の解決法はダンジョンコアの破壊が目的だよ。私はそれがあってダンジョンから解放されたのだからね」
「モンスターブレイクが狙いだろう?」
「それは、ずっと昔から否定しているじゃないか。人間が動物園の象をみて、同族だ!よし逃してやろうって考えるほどの暴挙だと思うな。」
ゴーストの表情は読み取れないが、ただ悲しんでいるように感じた
「どうして、私の理解者は現れないだろう…。私はこんなにも人間を理解しようとしているのに」
「当然だろう?モンスターに全てを任せるなぞそもそも間違いなのだ」




