間話 四方草
ベルリンの古びた郵便局の一角にある「不達郵便物取扱室」に勤める男、ハンス・シュミットは、亡くなった人々の遺物や手紙を整理する仕事をしていた。孤独な日々を送る彼の心には、常に死というテーマが重くのしかかっていた。
そんなある日、ハンスは一通の古い手紙と小包を見つけた。その手紙は、亡くなった科学者からのもので、「ナノテクノロジーに関する重要な発見」という内容が記されていた。彼は好奇心に駆られ、封を切ることにした。中には古い手紙とともに、小さなガラス瓶が入っていた。瓶の中には微細な金色の粉が輝いていた。
1978年のある早朝、シュヴァルツヴァルトの深い森を抜ける一台のフォルクスワーゲン ゴルフ Mk1がエンジン音を響かせながら走っていた。運転席には西ドイツ人の男性、クラウス・ベッカーが座っている。彼は小柄だが、鋭い目つきをしており、その目は目的地を見据えている。
一般道で13時間かかる道のりを、クラウスは少し疲れながらも期待に胸を膨らませていた。
クラウスの目的地は、西ベルリンにある古びた郵便局だ。その郵便局の一角には「不達郵便物取扱室」があり、そこで働くハンス・シュミットという男がいる。ハンスは亡くなった人々の遺品や手紙を整理する仕事をしている。クラウスとハンスは年に一度会うことにしており、今日はその日だ。クラウスはこの日のためにパスポートと特別な許可を取得していた。
道中、クラウスは車内のラジオから流れるクラシック音楽を聴きながら、ハンスのことを考えていた。ハンスはいつも死をテーマにした話を聞かせてくれる。それは時には空想の話であり、時には現実が混ざっている。クラウスにとってその話は、どこか魅力的でありながらも、ぞっとするものだった。
目的地に近づくにつれ、シュヴァルツヴァルトの森は徐々に薄れていき、都市の風景が広がり始めた。西ベルリンへの道は、東西冷戦の緊張感を感じさせ、その緊張感がクラウスの興奮をさらに高めていた。
古びた郵便局に到着すると、クラウスは車を停めた。この郵便局は19世紀末に建てられた古い建物で、重厚な木製のドアとステンドグラスの窓が特徴的だ。内部は広々としており、天井が高く、古いが美しい装飾が施されている。
目的地である郵便室はその中でも最も古びた一角にあり、壁の色は黄ばんでおり、床は年季の入った木製の板張りだ。
クラウスは車を降り、深呼吸をしてから郵便局の重厚な木製のドアをゆっくりと押し開けた。内部に入ると、クラウスは古びた郵便局の特有の香りとともに、懐かしい感覚に包まれた。この場所に来るたびに、時が止まったかのような錯覚を覚える。
彼は廊下を進み、階段を上がり、目的の「不達郵便物取扱室」へと足を運んだ。部屋のドアをノックすると、しばらくしてから聞き覚えのある声が返ってきた。
「どうぞ」
クラウスはドアを開け、中に入ると、ハンス・シュミットが机に座っているのが見えた。ハンスは中年の男性で、白髪交じりの髪と眼鏡をかけた穏やかな表情が特徴的だ。彼はクラウスを見ると微笑み、立ち上がって彼を迎えた。
「クラウス、よく来たね。今年もまた会えて嬉しいよ。」
「ハンス、こちらこそ。毎年この時期が楽しみでね。」
二人は握手を交わし、クラウスはハンスの示す椅子に腰を下ろした。ハンスは机の上にある書類や手紙を整理しながら話し始めた。
「今年もたくさんの不達郵便物が届いたよ。その中には興味深いものも多いんだ。」
クラウスは興味津々でハンスの話を聞きながら、机の上に置かれた古い手紙や小包を見つめた。ハンスは一通の手紙を手に取り、それをクラウスに見せた。
「ハンス、これは一体なんなんだい?」とクラウスは首をかしげた。
「手紙を読んでみればわかるよ」とハンスは答えた。
手紙には、戦時中に極秘の研究所で働いていた科学者が、ナノ分子変換技術を開発したことが書かれていた。その技術は、人間の体をナノサイズに変換し、安全に保存・移動することができるというものであった。
1. **ナノ分子変換技術**
「ナノ分子変換技術」は画期的な技術であり、人間の体を構成する細胞をナノサイズの分子に分解し、その後再構築することが可能である。
2. **アメーバ式分裂**
この技術を使用する過程で、人間の体はアメーバのように分裂する。まず、特殊なナノロボットが体内に注入され、これが細胞をナノサイズの単位に分解する。
3. **分裂プロセス**
ナノロボットは、まず体内の骨格と臓器を微細なナノパーツに分解する。その後、これらのナノパーツは体外に吐き出されるか、特定の収集装置に送られる。
手紙にはナノサイズの人間を再構築することには失敗していた事が記されていた。
「おいおい、アメーバみたいに分裂するだって?手紙の主は頭がイカれてるに違いない。」とクラウスは手紙を投げ捨てた。
ハンスは苦笑しながら手紙を拾い上げ、「確かに、普通の人には信じがたい話だ。しかし、科学が進歩する過程で、私たちがかつて信じられなかったことが現実になった例は少なくないんだよ」と言った。
「でも、この技術はまだ実用化されていないし、成功した例もないんだろう?」とクラウスは疑問を投げかけた。
「その通りだ。現時点では再構築に成功していない。しかし、技術が進歩すれば、いつかは可能になるかもしれない。問題は、その過程で失敗した場合のリスクが非常に高いことだ」とハンスは答えた。
「つまり、この技術を試すのは非常に危険だということか」とクラウスは納得した様子で言った。
「その通りだ。しかし、もしこの技術が実用化されれば、医療やダンジョン探査など多くの分野で革命的な変化をもたらすことができる。」とハンスは熱心に説明した。
クラウスはしばらく考え込んだ後、「まあ、現時点では夢のまた夢ってところだな。でも、科学の進歩を見ていると、いつかは実現するかもしれないな」と微笑んだ。
「ダンジョンと言えば、顕微鏡でしか見えない魔物がいたよな。このベルリンで崩壊したダンジョン。ハンス、君のフィアンセにどうだい」クラウスはふざけたように冗談を言った
ハンスは一瞬黙り込み、真剣な表情でクラウスを見つめた。「君の冗談はいつもタイミングが悪いな、クラウス。でも、実はそのダンジョンの崩壊事故とこの技術には関連があるんだ。」
クラウスは目を見開いた。「なんだって?まさか、そのダンジョンの崩壊はこのナノ分子変換技術の失敗のせいなのか?」
「直接の崩壊の原因とは違うがね。あれはダンジョンコアを破壊したからだ。一般的に言われる壊肢病、東の地にあるダンジョンで昔から言われる病気。その原因がコイツさ。コイツには手紙には書かれいない重大な欠陥がある」ハンスはそう返した。




