四つ葉ドールその6
「早く!ヅラが欲しい!」
食事を終えた僕は、台所で親方に声をかけた。
「今から仕事の時間だ。夕方まで我慢しろ。平日なんかに仕事をサボれるかってーの」
「そう言えば家業を手伝うって話だが、どっちを手伝いたい?養鶏か?肥料作り等の仕事か?」
「養鶏?生まれてくるものはみんなランダムで領内に振り分けられるんじゃないの?」
「所有物の場合は別だ。それに鶏にゃー魔核がねーだろ」
「それじゃー人間には魔核があるみたいな言い方だね」
「当然じゃねーか。もういちいち驚かねーが、一つ一つしっかり覚えていきやがれ。」
「ちっ、脱線する発言はやめろ。どっちがいい?」
「養鶏っていったら、殺すってことだよね。あんまりやりたくはないかな…」
「じゃー、肥料か?こっちは人糞なんかを集めるわけだが…」
「あんまり、気乗りのしない2択だ…」
「…木偶の坊…………。いや…坊主…。おめーさんがいうように養鶏は大変だ。雄のひよこが産まれたら殺処分しなきゃならねー。雌の鶏も、卵を産まなくなったら殺すしかねー。病気が蔓延しても殺す…。いつまでも殺し続ける。向き不向きが分かれて当然だな。生命を頂く。頭ではわかっていても…それに携りたいとは思えないもんだ」
鶏に生まれていたら、生まれた直後に約50%の確率で殺されていたようだ。
この時ばかりは女で良かったと思う…。
鶏じゃないから関係ないんだけどね。
雄のヒヨコはどこに出荷されるのだろうか?
多分、何かの餌にされるのだろう。
少し気になる部分ではあるが…あまり脱線するとこのおじさん怒りそうなんだよね
「他にも辛い事はあるぜ。養鶏の辛さはやっぱり水だな…。鶏肉1kg獲るには4500リットルの水がいる。つまり、その分をどうにかしなきゃならねー」
僕は顔を引き攣らせた。養鶏でそれなら豚はそれ以上…。牛の肉に至っては倍以上いるのかもしれない
ここでは血ですら浄水して飲むはずだ。だったら血抜きしたら余す事なく使わないといけない。
それでも、水は汲みにいかなきゃならないだろう…。
労力がかかりそうだ。
水はひょっとして貴重なのかもしれない。
他にも使い道はある。飲料として必要だが、衛星面的にも水は必要不可欠。
贅沢をするならば風呂に入りたいところだ
「もう1つは肥料作りか…。少し脱線するけど…。生活する上でどうしても聞かないといけない事が出来たんだけど…。聞いてもいい?」
「はぁー、また脱線かよ。いいよ…わかったよ。付き合えばいいんだろ…」
「人糞ってさっきいったけど、お尻は何で拭くの?お水で洗う?」
「おめーな………いや違う…俺が悪い…。悪かったよ。おめーさんも全うな暮らししてきてねーのは知ってるのにその事で責めるのは親のする事じゃねー。答えてやるよ。ケツを拭くのはウチの場合は、とうもろこしの皮だな。場所によっては木の棒で拭いたりしている。貴族連中は紙を使うって感じだ。他には糞をする時には高下駄を履くところもあるそうだがこの領内では下駄はみねーな」
「んじゃー話戻してもいいか?」
「どうぞ…」
「まず簡単に説明しとくと、人糞っていうのはそれなりに収入がいいんだ。例えば借家なら、大家が喜んで貰っていく程にな。何故だからわかるか?」
それは、肥料作りの話をしているのだから解答は1つしかない…
「肥料に使うから?」
「まぁそうだな。肥溜めに溜まったものを持っていく。そりゃ臭いしやりたかねーが。安定した収入でもあるからな。大家っていうのはそういう事もあるから人気の職業な一つってことだ」
「…おぉ!つまりおじさんは…大家さん!安定した職業じゃん」
「いや違う。俺はそういう連中から買い集めて肥料を作って売り捌く。」
大家ではないらしい。
それより、肥料作りってなんだろ
「糞を土にばら撒くだけじゃないんだ…」
「…そいつは違う。人糞には寄生虫やら回虫がいるからよ。高温発酵させるんだ」
あんな、いらないものをわざわざ買うって…。
なるほど、商売というものはわからない。
「人糞はわかったけど、尿とかも肥料に?」
「そっちは主に黒色火薬の原料にする。余す事なく使う」
多分本業は養鶏業なんだろう。そこから、鶏糞をどうにか利益に繋げたいから、目をつけたのが肥料なのかな。
人糞を集めるのであれば収入は少し安定しそうな気はする。
リスクヘッジっていうことなのかもしれない。鶏は病気が蔓延したら殺処分するらしいからね。
ついでに言えばとうもろこしは鶏の餌か何かで仕入れているのかもしれない。
「あんまりよくわんないな…具体的に何をすれば良いのかな?」
「わかりやすい仕事がいいだろ?おめーさんは、糞尿を集めてこい」
「水汲みがいい…」
「人付き合いも社会勉強には必要ってこった。女は愛嬌ってね」
「糞尿運びでどう愛嬌を振りまけって?同い年の男子に馬鹿にされそうなもんだけど」
「そりゃおめー、馬鹿にする奴はそいつが馬鹿なのか、周りに流される協調性のない奴なのか、陰険な野郎かって相場は決まってる」
立派な仕事を馬鹿にする奴らはロクでもない奴らってことなのだろう。
「愛嬌を振り撒いて、あなたの糞尿欲しいなって上目遣いをすれば良いのかな?」
「そんなこたー、一言も言ってねーが…。おめーと話してると調子が狂うな…」
「…まぁ俺と家内が出会ったきっかけはそんなようなもんだな。糞尿が服に引っかかっても物怖じしない胆力や、笑顔を絶やさず頑張ってる姿見せられたら…惹かれるものがあってな…仕事に直向きに頑張る奴を人は馬鹿に出来ねーってこった」
この手の事で、ふざけていたら嫌いな人認定される事もありそうだ。
糞尿を扱っているからといって、品格まで落とすような事があれば家業に泥を塗るんだろう。
かっこいいものは少し真似してみたくなる。襤褸は着てても心は錦っていうのかな。
「おー!なんかカッコよく思えてきた!頑張ってみたくなる」
「根は素直なんだがな……。まぁ、あとは実際にやってみて、音をあげるかどうかだな…。実際口だけの奴っていうのは大勢いる。早い奴なら1日目で仕事をトンズラしやがるからよ」
仕事って続けるのは大変みたいだ。
こういう話しに感化されてやってみたはいいが、実際はすごいきつくて続けられないってこと。
「自信なくなる…」
「流されやすい奴だな…。こっちまで不安になってきちまう…。そうだな…カッコ良い生き方とは何か…そこの芯がブレなきゃ誇りを持っちまう…そういうもんさ」
「かっこいいかはわからないけどブレないものはあるかも。人に危害を加えない。そこだけは僕の芯?みたいなもんかな。大切な約束だからね!そうか…なら僕がやるべき事は…」
出会った人達で人生を決めるのであれば、人に危害を加えるんじゃなく…その逆。人の助けになる事をすれば良いのだろう。
まずは、人の役立つ仕事をする。
僕がどうあればいいのかなんとなくわかった。
どういう人格でいけばいいのかわかった。
わかったと同時に僕は他人に動かされるだけの人形…。そう感じてしまう。
それでも、僕はそれが悪い事と断じる事は出来ない。
複数の人間が入り混じっているのが僕なのだから。僕の中の誰の価値観もアテにはならない。
それなら僕は人に操られてでもいい。早く形づくりたいと思った。
人に馴染めればなんでもいい。
幸いにも僕の原点は破屋の君がくれた。
それを僕は大切にしたい。
僕は僕自身が怖くてたまらないのだから。




