3話
ダンジョンのドアにツルハシがぶつかった時は興奮を覚えた。
高さ3mぐらいだろうか、無骨な土気色の観音扉がひらけるだけのスペースを作るのは至福の時だった。
掘り終わった今は緊張を実感していた
この扉の向こうは命が保証されていない。扉を抜けた先には何が待ち受けているかはわからない
「この、扉の向こうで起こることは一切を信じちゃいけないよ。信じられるのは、自分のステータスだけだからね。ダンジョンで逸れたら仲間でも信用するなってね。慎重すぎて当たり前…慎重さへの飽くなき追求が必要だね」
扉に手をかけた瞬間に扉の重厚感に驚いた。ここまできて、開かないんじゃないのかというほどだ。手で開かなかったら出直して道具を揃えなければならない。
全身に力を込め直すと、汗が吹き出した。
顔を真っ赤にしながらようやく少しづつ動きだした。
ギィギィギィ
手の血マメが潰れたのを軍手越しで感じた。
「これは…普通の植物系のダンジョンだよ。床が草で覆われているね」
フィールド型ダンジョンよりこっちの方がありがたい。前や後ろにだけ注意を払っていればいいのだから。
フィールド型ダンジョンだと空や足元にまで注意を払わないといけない。神経のすり減らし方が違う
「植物系ダンジョンってことは、スキルオーブもあるのかな?」
「まぁ、本当に植物系ダンジョンならある可能性は否定しないよ…ただ、信じない方がいいよ。日本にはその手のダンジョンは存在しないからね。それにスキルオーブの原料には少し心あたりがある。十中八九スキルオーブは手に入らないと思うよ」
ネットで手に入るスキルオーブは、性能が低い。燃えない炎を放つものだったり、なんちゃって商品しかない。
テーマパーク化しているダンジョンでは金持ちの小学生の息子たちが転職して魔法使いになってモンスターを倒していたりする。
なんちゃって商品に50万円と高額なお金を払っていたりするのをみると格差社会だなぁって思ったりもする。
クリアされ続けたダンジョンは弱体化もするし、上がったステータスも社会に何の影響も与えない。
「一度、扉を閉めてみるといいよ。ダンジョンの傾向がわかるかも知れないからね」
扉を開けるのに苦労したばかりなのに、閉めろとはひどいいい様だ。
慎重を期すには仕方ないことだと、喉元に出かかった言葉があったのだがひっこめることにした。
扉の開け閉めだけでかなりの重労働だ。言われた通りに扉を閉めた
息をきらしながら、顔を赤らめながら全身で扉を開けた。
あー、明日は筋肉痛かも知れないな
「…よくある石のタイルで作られた、ザ・ダンジョンって感じだね。これは日本でよく見るタイプのダンジョンだ」
「って、つまりはどういうダンジョン?」
「ランダム式のダンジョンであることは、間違いないね……この手のダンジョンは珍しいねキャッキャッキャ」
「…つまり、当たりなの?ハズレなの?」
「当たりかハズレかはわからないけどね。ダンジョンにも個体差はあるから。ただ、この手のダンジョンは知識量、慎重さ…全てを必要とするから…少し手を焼くかもね」
「しかしだ!この手のダンジョンは攻略法があるんだよね!」
「各階層の前には必ず扉が存在する。扉が閉まらないように当たりどめをしながら進むのがコツだよ」
つまり、そうすることで各階層の内容を固定化させられるということなのだろう
「例え扉があってもモンスターが越えられることはない」
ゴーストは開かれたはずの扉から中に入ろうとしたが全く侵入出来ないようだ。
「最初はこういう普通のダンジョンから始めるのもいいかもな…サブステータスを上げるには予想がつきやすい場所の方がいい」
ダンジョンの中へ入ってみた。
テーマパークと違い電気がきていない。
なんというか不気味だ。いつまでもヘッドライトをつけてダンジョンを進まなければいけなかった。後ろを振り返るたびに心臓の音が高鳴った。
蛍光灯でもつけてまわりたい気分だった
モンスターがきたらビビリ倒しそうだった。
生唾を飲み込み、そのまま歩いて通路を抜けるとフロアが見えた。
ただ思ったように足が…手が動かない。
震えが止まらなかった。
そこで、仕方なくモンスターが来た時のシュミレーションをしようとフロアの隅で考えることにした。
今すぐ帰りたいと思いつつ。ツルハシを構えて、素振りをした。
だが、一向に心臓の高鳴りが治らない
夜間に登山した事もある。ヘッドライトの灯りに照らされ鹿の目がひかるのだ。鹿の身体は遠くて見えづらいのに目だけで100近く光るのはトラウマものだ。
あの時もビビり倒したもんだ。
こんな程度で、臆したら戦うってレベルじゃない
深呼吸をした。
出直したい…。ただここで心折れたら…戻ってこられるのだろうか?
足元がクラクラする。帰ってベッドで眠りたかった
ため息をついて壁にもたれかかろうとした…
ただ、それは叶わなかった。
もたれかかろうとしたら、壁が一部消えたのだ。
再び戻ろうとすると確かに壁があり、フロアに戻ることが出来なかった…
恐る恐る後ろを振り返ると、複数のモンスターがいるのが見えた…
「くそっこんなはずじゃあ」
ツルハシを振り回すが、全て無駄だったようだ。
腹部が抉れるような強烈な痛みに襲われた
…そっか…ダンジョンで死んだら輪廻転生の輪から外れるんだっけ
誰か…
化野ダンジョンが良心的設計だったとすら思える。今では転生が保証されたようなもんだ
あのゴーストに唆されなければよかった
あぁ…でも…確かに最初に忠告されたよな。慎重すぎて当たり前なんだって
少しづつ意識が遠のいていった




