10話
水族館の当日、水槽の前で琴葉はニマニマとした顔を浮かべていた。
暗い顔をみせたくなかったのだろうと思う
事故前のようなふわふわ系女子のようないい笑顔をしていた。
「ユズキがダンジョンを進めれば、私は歩けるかも〜なんだ〜」
気まずさを誤魔化すためか、無理矢理に明るい話題を振ろうとしたためだったのだろうか。
今は冒険を前にした少年のように目を輝かせながら普通にばらしていた
「へぇー、私は初耳だなユズキ君」
小坂みのりの爪が冬服の上から突き刺さる
こちらに向ける顔は目が笑っていなかった。
「詳しく聞かせてもらおうか」
「地下にダンジョンがあったんだよ。それも未踏破のね」
「人里離れた民家の庭の地下にあるダンジョンなんだよ〜すごいよね〜みのりちゃん」
「ただ問題があって、白木さん家のお孫さんが亡くなられていて。ダンジョンの1Fで子供の魂を救うために子どもを産ませようと拉致るかって状態で予断を許さない状態なんだ」
ダンジョンのこと、ゴーストのことを詳しく説明するだけの集まりになってしまっていた
気づいたら、水族館そっちのけで喫茶店でお茶をしていた。
何故お茶をしばかなきゃいけないのだろうか。予定が大きく狂ってしまっていた。
喫茶店で、コーヒーを啜りながらみのりは深く考え込んだ。
「効率を考えて、私も行こうと思っている。賢者になるってことは治癒術師から始めるって事でしょ?何年かかるって思っているの?」
治癒術師の攻撃には期待出来ないという
「いや…でも女子は連れていけないっていうか…」
「そこは、上手く騙し込めばいいでしょ。そうね。3年以内に攻略できなきゃ子どもを産むとでも言っておけばいい」
彼女彼氏の振りをしながらダンジョンにということだろうか?
「私は中学生なんです〜。母子共に健康にってなると3年は妥当なんじゃないでしょうか?白木さんもお孫さんの命に関わることはしたくないですよね?白木さんがご高齢だというのは重々承知しております。ですが、何卒お時間を頂けないでしょうか?ってこんな感じで騙くらかせばダンジョンなんてフリーパスだわよ」
そんな、ダンジョンに涎を垂らしているのに本心を隠してますよって喧伝するような事いい方で本番大丈夫だろうか?
フラグを立てるな
「胃痛がする…」
ただ、条件自体は変わった。
白木さんが人を拉致してくる可能性は少なくなるんじゃないだろうか
何でも否定から入ろうとする悪いクセがあるが…ダンジョン効率も上がるし案としてはそこまで悪いものではなかった
「悪くない案なのかも知れない…」
「でしょ!私ってば冴えてるなぁ。ただ、言葉選びは慎重にしないといけないかな。私が納得のいくような台本を用意しておいてね。それを私が推敲してあげるから」
…むかつく上司になりそうだ。
…いかん…つい否定的な言葉が出てくる。
別に間違ったことを言っているわけでもないのに。
頭がいい人はバカな振りを見せて、人に好かれる。頭の悪い人は賢い振りをして相手を不快にさせる。って誰かが言っていた
そんな憎まれ口を叩きながらも、彼女の指は少し震えていた。
ダンジョン攻略のせいで震えているのかもしれない。あるいはよく知らない同級生男子と一緒にやるってことからだろうか?
流行る気持ちから自分も関わらせろといったが、普通に不安なのかもしれない
そういう震えてるところを見ると守らなきゃって思わされる。
強がっているところは少し可愛いなとは思うが、向こうに気があるわけでもなさそうなのでそっけない態度を取ることにしよう。
「それで、何も出来ずに3年経ったらどうするのー、本当にその…しちゃうのかな?」
琴葉は心配そうに顔色を伺った
「そうね…いざとなったら。……人助けになるし……いや、やっぱり…いやでも…」
「大丈夫だ。心配いらない!何が何でも攻略するぞー」
思わず力が入ってしまった。
だって、さっき騙くらかすって言ったじゃん。
「あっはっは、期待しているよ。ユズキ君。」
部活やっているだけあって、大した握力で腕をにぎられた。彼女は爪をたてながら人の腕を握るのが好きなようだった。
「確定で子どもが産める権利…もしもの時のためにキープしたい気持ちはあるとは思っているよ。だけど、ありがたみを感じる反面…不自由さを感じるのよね…。この世界は生きづら過ぎる」
その後、冒険者ギルドへ行きみんなで登録しておいた。




