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特別な生活を求めて異世界へ!  作者: 森村渉
王宮襲撃編
40/47

前世のトラウマ

エメラルドがクラスメイトになってから二回目のHRだ。

エディは昨日から何かを考えているようで、エメラルドと一回も話していなかった。

しかし、HRが終わるとエディは真っ先にエメラルドを廊下に連れ出した。

ガヤガヤしている教室の音はある程度遮断され、若干の静けさを感じる。

「困ったことはあるか?」

エディは強ばった顔で問う。

「いや…」

エメラルドは少し困った顔をし、「大丈夫だ」と答えた。

エディは「そうか」と答えてすぐにガヤガヤした教室に戻った。

エメラルドはため息をついてから教室に入る。


俺はそんなやり取りを知るはずもなく、次の授業である文学の準備をしていた。


午前の授業が終わり、食堂が混む中、俺は一人で一旦部屋に戻った。

午後で使う魔法陣のノートを忘れたからだ。

ドアを開けるとベッドの上で腹を見せるという、なんとも無防備なククリがいる。

「むにゃむにゃ…アリス様…何なりと…」

可愛い寝言に耳を傾けた後、掛け布団をククリにそっとかけた。

ノートは「特別な魔法を求めてエルフに転生してみました」というマンガの下敷きにされていた。

音をたてないようにそっとマンガをどかし、ノートだけを手にして部屋を後にした。


寮の階段には二人組のヤンキー男子と泣きじゃくっているドワーフの男子がいた。ドワーフの頬は赤くなっており、殴られたと仮定していいだろう。

モヒカンの男は

「男なのに泣くのか、気持ちワリー」

と、差別的な言葉を多く使ってくる。

「そんで?ぶつかってきたのに『ごめんなさい』も言えねぇのか?」

と、リーゼントの男は乱暴な言葉を好んで使っている。


食堂に行く道中、俺はこれらの出来事を発見してしまった。


助けてあげたいが、俺は強くない。

だが、「いざ」となったときに勇気がなかった。



実は転生する少し前、補習を終えて皆とは別の時間に下校しようとしているときだった。

突如として隣の教室から笑い声と鳴き声だけが聞こえてきた。

俺は、ゴキブリを見て声をあげた人と、その様子を笑った人を想像し、隣の教室を覗いた。

すると、立っている男子三人と座っている男子一人、それと予想外の光景が視界に入ってきた。


座り込んでいる位置から見て、泣いている男子の机だけがなく、窓ガラスは割れている。

学ランのボタンを全て外した同級生三人が一年生一人の机を五階の窓から投げ捨てたといったところだろう。

俺は助けたかった。だが、怖くて止められなかった。


その後、いじめられていた男子は退学した。

いじめられていた理由は『黒人だから』らしい。



「ご、ごめんなさ…」

「ああ?聞こえねぇなぁ!」

ドワーフは頭を手で覆い、しゃがみこんだ。

俺は震えているドワーフを見て、魔法を発動しようと構えた。だが、やはり怖くて魔法を使うことをためらった。


モヒカンの男はドワーフの耳を掴み、こう言った。

「しょうがないよ、コイツはドワーフだから俺たち人間より頭が悪い。言葉がわからなくて当然さ」


人種差別、あのときと同じである。

あのとき、俺が助けてあげていたら、見捨てていなかったら、あの男子は退学していなかったかもしれない。


今の一言が心に刺さり、思わず足が反応していまった。音が階段に響き、ヤンキー二人の耳に届く。

「あ?誰だぁ?出てこい」

引き返そうと一度足を後ろへやるも、勇気を出して足を前に進めた。

「あ、えっと…」

ヤンキー二人の前に立ったのはいいが、恐怖で何も言えなかった。

「なんだてめぇ?」

「おい、俺たちに用があるなら早くしろよ」

怖い顔で最速され、さらに恐怖が増す。

だが、ここで何も言わなかったら出てきた意味がない。

逃げたい、泣きたい、という感情を押し殺し、「やめなよ!」と大きな声を階段に響かせる。

「バカなヤツ、黙って見捨てていれば殴られる相手がお前にならなかったのにな」

リーゼントの男は大きな鋭い拳を俺の腹に命中させる。

「ぐはっ!」

俺は床に寝転がり、腹を抑えた。

リーゼントの男は指ならしをして、次の拳を準備する。

「おいおい、俺の殴る分は取っとけよ」

モヒカンの男も指ならしを始め、殴りたそうにしている。

このままでは殴られる一方であることを恐怖し、持っていた魔法陣ノートを開いた。

だが、そのノートも殴られた衝撃でドワーフの足元に落ちる。

俺は最後の抵抗で火の魔法を無詠唱で発動させるも、不安定な炎はすぐに消えてしまった。

「なんだコイツ、魔法が使えないのか?俺たちが教えてやるよ、正しい魔法とやらを!」

モヒカンの男は炎を創り、俺の顔面に当てようとする。


そのとき、ドワーフがノートにあった水の魔法陣を発動させた。

モヒカンの男が手にしていた炎は水で消え、一瞬何が起こったのか分からなかった。

「あ?そんなに俺たちに殴られたいのか?」

再び標的がドワーフに移り、ヤンキー二人はドワーフを蹴ろうとする。

とにかくこの状況をなんとかしようと立ち上がり、俺は光魔法でヤンキー二人の目眩ましをする。

そして先ほど濡れたモヒカンの男の腕を素早く掴み、直接電流を流す。

「うわぁぁぁぁ!」

モヒカンの男はもがき、数秒で意識を失った。

「なんだ?何が起こった?」

リーゼントの男の目眩ましが解除されると、倒れたモヒカンの男が現れる。

リーゼントの男は先ほどの威勢はどこへ行ったのか、顔が青ざめて逃げ出した。

「お、覚えてろよ~!」

俺は思わず心の中で(ザッコ…)と呟いた。

ドワーフは「ありがとう」と言ってノートを返した。

「いや、こちらこそ。ナイスアシストだったよ。」

俺は笑顔でノートを受け取り、このことを先生に報告するために職員室に寄るのであった。


忘れていた前世のトラウマが現世で克服できるとは思っていなかった。それと同時に俺は人を助けられることに気が付き、自分に自信が持てた気がした。


その放課後、ナセリーは一人教室で一枚のチラシを手にしていた。

チラシはやみつきになると噂のタルトの広告だった。

ナセリーはチラシを見ながらニヤニヤしている。

「明日はみんなを誘って念願のタルトゲット!」

ナセリーはガッツポーズをしてワクワクを隠せていない様子のまま、部屋に戻っていった。

森村の裏話

この話の8割は1時間で仕上げた

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