ククリ
この生き物はなんだろうか、分からないまま俺はポカンとしている。天界から来たと自称しているが疑問だらけだ。「トイレに行きたいから後にして欲しい」と言いたかったが、さらにククリは早口で説明を続けてくる。
「記憶を持ったまま転生する魔法はとても難しいです。それは神の力だとしても。まあ、天界自体の力が弱まったこともありますが…そうですね。成功率は3%くらいでしょうか。あなたは記憶を維持しての転生は成功しました。しかしこちらの手違いで14歳以前の記憶がなくなっ…」
「うるさい!外に出なさい!」
お母さんに怒られた。これで何度目だろうか。
「ごめんなさい。続きは外で。」
俺たちは外に行くことにした。
ククリはとてもお喋りな性格であるようだ。正直苦手なタイプだ。
ドアの先には、中世ヨーロッパ風の景色が広がっていてなんか新鮮である。
外に出てドアを閉めるとククリは懲りず、すぐ口を開く。
「こちらの手違いで14歳以前の記憶がなくなってしまいました。神がそれに気がついたときには遅かったです。文字以外の言語だけはなんとか強制習得させましたが…あなたはもう前世の記憶が上書きされていました。ごめんなさい。」
ククリは空中から地上に降りて土下座した。そしてすぐ何事もなかったかのように元の姿勢に戻った。
俺はこそっとトイレを探しに足を動かしたがククリはそれを待つ暇もなく、話を続けてきた。
「お詫びとして、ボクがこの世界のことを教えましょう。ボクは簡単に言ってしまうと『天界の妖精』です。この世界のことはほとんど知っています。疑問があれば何でもどうぞ。」
「トイレに行きたいです。」
俺はいい加減な声で答えた。
俺はとにかくここから逃げたかった。
「トイレは…あそこですね。」
ククリは小さな黒い建物を指した。
俺はすぐさまトイレに駆け寄った。
「よろしければお供しますよ。」
「結構です!」
俺はククリから逃げるように返事をした。
トイレから出ると、ククリは扉の真ん前にいた。
「さて、お困りごとはありますか?」
俺は戸惑った。いきなり知らない生き物に質問をしろと言っているようなものであるからだ。そして、なぜかうざい。
だが、ここで魔法の使い方を知っておかないと色々と影響がありそう。
「魔法の使い方を教えて。」
俺は渋々魔法の使い方を聞いてみた。さっそく魔法の使い方を教えてくれるらしく、ククリは構えた。
「魔法とは魔力を使い、魔力によってイメージを実現するもののことです。魔力は血の流れと同じ方向に体を廻ります。基本的に詠唱すれば勝手に魔力が魔法に変換されるので簡単ですよ。では、まずは詠唱魔法を使ってみましょう。ボクの後に続いて喋って下さい。『魔の力を我が元へ』」
「魔の力を我が元へ」
「『大きくなってこの世に出でよ』」
「大きくなってこの世に出でよ」
「『紅き炎よ前の敵を打ち倒せ!』」
「紅き炎よ前の敵を打ち倒せ!」
俺は焚き火を思い出した。
詠唱を終えると手から湯気が出てくる不思議な感覚を体験した。思わず手をかざすと手から火が出てきた。手が燃えているわけでもなく、熱くない。
「これが魔法か…」
アニメや漫画でよく見るようなこの光景は、俺にとっては新鮮な感覚であった。