異世界人、デパートにようこそ
俺たちはグリフィン騒ぎとは裏腹に、平和なデパートの中に逃げ込んだ。
ナセリーとエワはヘトヘトだった。
「はぁ、はぁ…疲れたわね…あのグリフィンはおそらく私たちがこの世界に来たときのモヤから転移してきたモンスター…。」
「でも、こっちに来たモンスターはあいつだけなんじゃね?モンスターは警戒すると集団行動することも多いし…。」
エディの考察はみんなを一瞬で納得させた。というより、ほとんどが願望である。
「よし、ここで休憩しようぜ。」
「それいいわね…。ついでに昼食もとろうよ!」
「そうだな…それぞれ買いたいものはあるだろうし、解散でもいいだろう。よし、3時にここに集合な!」
エディとナセリーの会話を終えると、皆は「おっけー」と行って各々自由行動を始めた。
俺はひとまずお金を確認しようとポケットをあさるが、小銭を落としてしまった。
エワがショボンとしているのをナセリーは気づいた。
「エワ、お金持ってないよね?私はまだ15000円あるから10000円あげる!」
エワ、嬉しくて顔色が戻る。
「え、いいの??!こんなに?!」
「大丈夫よ!私はナセリー。仲良くしよ!」
「私は知ってのとおり、エワ!」
ナセリーとエワに友情が芽生えたとき、俺はいまだにお金を拾っていた。
小銭を全て拾った俺は、所持金の確認をした。
(11000円…。お土産で6000円、電車とバスで2400円…?あれ、合わない?!)
俺が消費税のことを忘れ、計算に苦戦しているとき、横をエワが通った。
デパートの中は化粧品売場が並んでおり、エワはそれに見とれている。
「エワさんお金持ってますか…?」
「ナセリーちゃんから貰ったから大丈夫!おかげでステージ用の質の高い化粧品が買えて満足だよ…。もうよくわかんないメイク用品は使いたくない…。」
エワは化粧水を手に取り、カゴに入れる。
「でもいいなー。エワさんみたいな売れっ子有名人、憧れますよ…。」
「いやー…。ちやほやされるのはすぐ飽きるよ。売れっ子でも最初は新入社員の少し上くらいの給料くらいしか貰えないし、稼げるようになっても税金も重い。何より人目が気になるから憧れだけで十分だよ。私は音楽をやれたらそれでいい。」
エワはアイシャドウを手に取り、カゴに入れてそのままレジに向かった。
俺はようやく消費税を思い出し、8階のレストランコーナーに向かった。
レストランコーナーに入るとカレーやステーキの匂いが俺を誘う。
その中で最も匂いに引かれたのがラーメンであった。
あの世界にはラーメンがない。あるいは転生者や召喚者が、まだクランチ国に持ち込んでいないだけかもしれないが。
店内は食事中の人でいっぱいだったが、カウンター席だけは1席だけ空いていた。
俺はそこに座り、「豚骨ラーメンを一つください」と隣の人と全く同じ言葉がハモった。
隣の人も「え?」と頭をかしげ、お互いの目があった。
隣にいたのはエディだった。
「あれ?マイクも来たのね!」
さらに2つ隣にはナセリーがいた。
「えっと…もしやデー…それじゃ!」
俺は「デート」と言いかけたが直前で止めた。二人の邪魔にならないようこの場を離れようとするが、ナセリーに服を摘ままれた。
「どうしたの?一緒に食べようよ!」
「ナセリーがいいなら…いいんだけど。」
「ほらナセリー、味噌ラーメンがきたぞ。」
「わぁ、いただきまーす!」
ナセリーはラーメンを一口分くらい吸い込んだ。
「ん~美味しいわ!」
次にスープもレンゲいっぱい口に入れる。
「スープは濃厚だけどあっさりしていて、それに絡まるメンも美味しい!」
(ナセリーって意外とグルメ?)
ナセリーは美味しそうに食レポをすらすらと言った。
「へいおまち!」
店主は豚骨ラーメンを2杯手にしていて、それを俺とエディの席に置いた。
俺は久しぶりのラーメンにドキドキしていた。
スープを一口飲むと、美味しさが口に広がる。
「うまい!」
「だな、クランチ国の料理もいいが、ここのラーメンとやらの料理も悪くない!」
店主がニコニコした顔を出し、
「これでウチも海外進出もできるな!」
と言った。
「あはは…。そういえばエワさんとペナロンは?」
「誘おうとしたけどレストランコーナーに居なかったから…。」
「そうなんだ。」
俺たちがラーメンを食べている間、エワは靴屋で買い物をしていた。
エワは厚底ブーツを試しに履き、歩きやすさを考慮して選び、そのままレジに持っていった。
セールだったため普段は5000円はくだらないところ、エワはブーツを3000円で購入できた。
ブーツ以外にも他の店で買い物をしており、袋の中は既に膨れている。
買い物を終えると、隣にあったゲーセンで苦戦しているペナロンを見かけた。
「何ですかこれは!永遠に取れません!詐欺です!!」
ペナロンは大きなクマのぬいぐるみを取ろうとしているが、全くうまくいかないらしい。
「えっと…」
「はっ…エワさん…?」
「ゲーセンなんてこんなもんだよ?えっと…」
エワはペナロンの名前を呼べなくて黙り込んでしまった。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はペナロンです。」
「ペダロン…ちゃん?」
エワは聞き馴染みのない名前だったから間違えてしまった。
「ペナロンです。ぺ、な、ろ、ん。です。」
「ペナロン…ペナロンちゃん!よろしくね!そうだ、せっかくだし、一緒に食事でもどう?」
「いいのですか?!是非とも!」
「じゃあ、レストランコーナーにいこうか。確か…8階にあったはず。」
「私にはこの世界のものは扱えないのでお金が余っています。エワさん奢りますよ!」
「ええ?でも…いいの?」
ペナロンは三回うなずいた。
「この世界で気になるものは山のようにありますが、私には『こんせんと』や、『わいふぁい』がよくわからないので、それに…有名人と食事なんて夢みたいです!」
エワにお金を払わせる気がなさそうなペナロンは目をキラキラさせている。
(家電製品コーナーに行ったなこれは…。)
エワの予測通り、ペナロンはゲーセンに来る前、定員に家電製品の説明を嫌というほど聞かされていた。もちろんペナロンには何一つ理解できなかった。
「あはは…じゃあよろしく!」
エワは申し訳なさそうにするも、所持金が1000円だという現実に直面し、奢ってもらうことになった。
エワとペナロンはレストランコーナーに向かった。
俺たちは会計を済ませ、レストランコーナーをぶらぶらと歩いていた。
「美味しかったな~。クランチ国にもラーメンないかな~。」
「あのせか…国でラーメンを見たことないから期待薄だよな。」
俺は思わず「あの世界」と言いそうになったが、すぐさま言い直した。
「んえ?!生の魚が売ってるぞ!大丈夫か?!」
エディは寿司屋を見つけ、中に入っていった。
「ああ、ちょっと!」
俺とナセリーもすぐ後を追いかけたが、そこにはペナロンとエワがマグロを食べていた。
「ペナロン!エワ!生の魚なんか食って大丈夫なのか?!」
「エディさん?!生魚美味しいですよ?」
ペナロンがマグロを口にしている様子を見て、エディは
「早く回復魔法を!」
と、ペナロンたちに回復するように言った。
「そりゃ日が経っているとだめだけど、新鮮な魚なら美味しく食べられる。」
エワがエディに補足説明をして、エディは「そうなのか」と言い、納得した様子が伺える。
「外で待ってるか。」
「ああ。」
俺たちは二人の食事を邪魔しないように外に出た。
「生魚美味しいのかな…。」
と、エディはボソッと呟いた。
「ご馳走。」
「私も終わりました!お待たせしました!」
エディは先ほど買った腕時計を見た。
「もう3時か…。そろそろ行くか。」
「時計を腕に?!この世界のおしゃれは凄いですね!」
ペナロンは毎度のことだが、目をキラキラさせている。
「なんかかっこよかったから買ってみたんだが、どうだろうか。」
「イカしてますね!」
「だねだね~!」
俺は「またか」と言わんばかりの呆れた表情をしていた。
ナセリーはとにかくエディの腕時計を全肯定しているばかりで、エワは二人のことを苦笑いしている。
「さあ、そろそろいくぞ!」
「んえ、ちょ、ちょっとまってぇ~」
ナセリーはエディの腕時計の感想を語っていて出遅れ、すぐさま皆に追い付こうと走っていった。




