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16 お嬢様系冒険者


「あなた方がいるとは知らず、ご無礼を」


 凛とした佇まい、堂々たる態度、気品に満ちた声音。

 煌びやかな装備に劣らぬ女性であることは一目見ただけでわかった。

 けれど、それだけにその側に浮く撮影ドローンが異質でならない。


「申し遅れました。わたくし、名を鳳転院小鐘ほうてんいんこがねと申します。お嬢様系冒険者ですわ」


 到底受け入れがたい肩書きだった。


「お嬢様系冒険者……」

「あれかな。ロールプレイ」

「あぁ、なるほど」


 配信業をやっている冒険者には、チャンネル登録数を増やすためにキャラ付けをしたりすることがあるという。特定のキャラになりきったままダンジョンに挑戦する様は、アニメやマンガのようで人気があるのだとか。


「でも、大抵の人は続けるうちにキャラがお飾りになっちゃうんだけどね。酷い時には二回目の配信にはキャラが崩壊してたりするよ」

「え? じゃあそれ何のためのロールプレイなんだ?」

「あのね、みんな数字が欲しいの」

「そ、そうか」


 凜々の全てを悟ったような目を見て、納得するほかなかった。

 特にキャラ付けをしている訳ではなさそうだけど、付けるか付けないかで葛藤とかしたのかな、凜々も。


「じゃあ、その鳳転院さん」

「小鐘でよろしいですわ」

「小鐘。たしかにこの魔物は俺たちの獲物だったけど、謝罪は必要ないよ。寧ろ、綺麗に仕留めてくれてありがたいくらいだ」


 黄金の矢は見事に心臓に突き刺さっていた。

 即死だっただろうし、心臓から血も抜ける。

 角は折れてないし、毛皮に残る傷も必要最低限で済む。

 良いことだらけだ。


「そうでしたか。よかった」


 ロールプレイをしているとは思えない自然な仕草で、小鐘は小さく息を吐く。

 所作の節々にそれらしさを感じるあたり、相当量の練習を積んだに違いない。

 二回目の配信でキャラ崩壊をする者もいる中、なかなか気合いの入った人のようだ。

 揺るぎのない信念のようなものを感じる。


「では、私はこれで」

「あぁ、待った」

「はい?」

「ちょうど今からこの角兎を調理するんだ。でも、困ったことにまだこの階層に来たばかりでセーフティーゾーンの正確な場所を知らない。だから、知ってれば案内してほしいんだ。肉の鮮度が落ちないうちに」

「お礼は滅多に食べられない角兎の料理だよ。どうかな?」


 こちらから歩み寄ることで横取り行為でざわついているチャット欄も沈静化するだろう。

 まぁ、それでも怒ってる人は怒ったままだろうけど、やらないより全然マシだ。

 肉の鮮度を落としたくないのは事実だし。


「案内は構いませんが、よろしいのですか? 希少なものなのでしょう?」

「肉を良い状態で食べられるのは綺麗に仕留めてくれて、セーフティーゾーンまで案内してくれる小鐘のお陰だ。お礼くらいしないと、な?」

「うん。それに食事は人数が多いほうが楽しいし」

「……では、お言葉に甘えさせていただきます」

「よし来た。それじゃあ早速案内してくれ」

「えぇ、こちらですわ」


 そこからは迅速に動き、セーフティーゾーンへ。

 安全を確保するとすぐに角兎の毛皮にナイフを入れた。

 まず内臓を取り出し、なるべく毛皮の内側に肉が残らないように丁寧に、かつ素早く終わらせる。

 最後に頭蓋から角を外せば完了、あとの調理は凜々にお任せ。

 皮を剥ぐうちに準備は整っていて、早速調理が始まった。


「最低限の調味料はあるけど……あー、こんなことならもっと充実させておくんだったなぁ。って、ダメダメ。これ以上は持ちきれなかったし、今ある手段で出来る限り美味しくしなきゃ」


 香草が刻まれる音、焼けた肉の匂い。

 出来上がったのは凜々渾身の兎肉の香草焼き。


「いただきます」


 ナイフで触れただけで切れてしまうほど柔らかい肉。

 噛み締めれば絶妙な塩梅な味付けと肉本来の味が口の中に満ちていく。


「美味しい……こんなの初めて」

「これまで食べた中で一番かもな」

「驚きましたわ。まさかこれほどとは……」


 お嬢様系冒険者の小鐘の舌にもあったようだ。

 これは本物だな。


「ありがとうございますわ、凜々。こんなに美味しい料理をいただけるなんて」

「そ、そんな、褒めすぎだよ」

「いいや、凜々がいなかったらこんなに美味しく食べられなかった。ありがと」

「も、もう」


 照れて顔を赤くした凜々は俯きながらも香草焼きを頬張る。

 すると、すぐに表情が幸せそうに緩む。

 その様子を見て小鐘と顔を見合わせると、くすりと小さな笑いが起きた。

 チャット欄は飯テロやめろ、で一致団結している様子。

 正直すまなかったと思う。

 でも、美味しいから止められなかった。

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