13 趣味と仕事
凜々のリハビリ配信を終えてから数日が経ったころ。
「わーお」
俺の銀行口座には結構な額が入金されていた。
「広告と投げ銭でこんなに……それも切り抜きがバズったのがこの前で収益化もその後だから……いや、ダメだダメだ。金の計算は。配信はあくまで趣味なんだから」
通帳をぱたりと閉じて、金勘定を頭の中から追い出す。
「でも、消耗してた装備もこれで買い換えられるし、撮影ドローンもメンテに出せるな。予備も買えたりするか? もしかして」
もう一度、ほんのすこしだけ通帳を開く。
「……全然、行けそうだな。というか、これ下手したら冒険者としての収入より……いや、ダメだ! 考えるな!」
金儲けを考え始めたら趣味が趣味でなくなり、義務になって仕事になる。
趣味を仕事にすると後悔するってよく言うじゃないか。
趣味を仕事にしたほうが楽しいという人もいるけど、俺がそちら側の人間かはわからない。
冒険者は夢と憧れで成り立ってる職業なんだ、最下層になにがあるか知りたいから進むんだ。
金の魔力に負けるな、俺。
「いや、けど。今なら手が出せなかったワンランク上の装備も――」
思考が煩悩に支配されつつあった中、携帯端末のアラームが鳴る。
「おっと、そうだ。そろそろ出ないと遅れるな」
アラームを切って手早く外出の準備を整え、家を後に。
その足で向かうのは以前にも訪れた落ち着いた雰囲気の喫茶店。
店の前に差し掛かると窓際の席に座る凜々と目が合い、互いに軽く手を振り合って、喫茶店に入った。
「おまたせ」
「ううん、私もいま来たところだよ」
そう言いつつも、目の前のクリームソーダはほとんど残っていなかった。
気遣いが染みる。
「ハバネくん知ってる? あの二人、配信始めたみたい。ほら」
「ホントだ」
携帯端末の画面には朔哉と健二の冒険者チャンネルとある。
すでに何本か動画が投稿されているようで、再生数も出来たてにしてはあるほうだ。
「うわ、登録者数もう千人もいるのか。凄いな」
「それハバネくんが言うと角が立ちそうだけどね」
「いやいやいや、感覚が麻痺してるだけで凄いことだよ、マジで。毎回のように言ってるけど、俺なんて三ヶ月やって二桁だったんだぜ? 今でこそ沢山いるけどさ」
「どのくらいになったの?」
「十五万人くらい」
凜々視点の切り抜き動画は百万再生を突破し、天音ハバネ視点の切り抜きも八十万再生だ。この前の凜々とのコラボ配信もあって順調にチャンネル登録数が伸びている。
どこまで大きくなるかは、今後の俺次第と言ったところ。
数字に恥じない配信を心掛けないと。
「そのペースなら私なんてすぐ追い抜かされちゃいそう」
「追い抜かされちゃいそうって凜々のチャンネル登録数って五十数万だろ?」
「あ、昨日六十万人になったよ」
「追い抜くどころか追い付くこともままならなそうだな」
凜々のVサインが眩しい。
まぁ、でも、それはそうか。
俺と同じように凜々も切り抜き動画の恩恵を受けているんだから当然だ。
元が大きい分、増加速度は俺のほうが早いけど、圧倒的な数字の差を感じるな。
「あ、そう言えば出発前にまた相談に乗ってほしいんだけど」
「もちろんだよ。今度はどんな相談なの?」
「SNSのダイレクトメールに来てたんだけど……」
「あぁ、スポンサー選びかぁ。それは難しいね」
配信業をやっている冒険者には企業からそう言った提案が来やすいようで。
件の一件から話題にしてもらっている俺にもスポンサーの話が幾つか来た。
冒険者につくスポンサーの大半はダンジョン攻略に必須の装備を取り扱う企業だ。
武器、防具、戦闘服、携帯食料、採取用ナイフ、雑嚢鞄、などなど。
撮影用のドローンも、それに含まれる場合がある。
「スポンサーを選ぶと、その企業の製品しか配信で使えなくなっちゃうから慎重に選ばないとだもんね。もし製品がスタイルに合わなかったら大変」
「そうなんだよ。一応、自分の装備を見直してどこの製品か確認したりもしたんだけど。お気に入りが見事にばらけてるんだよなぁ」
当然ながら今回、提案を頂いた企業以外の製品もある。
これらを手放すことになるのは惜しい。
「でも、スポンサーが付くと装備関連の出費は気にしなくてよくなるんだよね」
「そうなんだよなぁ……」
最新の装備が使えるし、修理費も負担してくれる。
仕事感は強くなるが趣味と言い張ることがまだ可能なライン。
良いことずくめなだけに、スポンサー選びを失敗した時のダメージが大きい。
「凜々は話が来た時、どうしたんだ?」
「私? 私は最初からブランドを統一してたから特に悩まなかったかな。使いやすいし、値段も手頃だったし、なによりデザインが可愛いんだ」
「なるほど……」
元からその企業のファンならスポンサー選びも楽か。
まさか自分がこんな立場になるとは思わなかったから、ブランドの統一なんて考えたこともなかったな。
「ごめんね、あんまり参考にならなくて」
「いや、そんなことないよ。人に話を聞いてもらえるだけで助かるから」
実際、すこしだけ悩みが晴れた気がする。
なにも解決してないけど。
「スポンサー云々はまた追々考えることにするよ。それより今は」
「うん。第六階層攻略コラボ、だね」
文字通り凜々と二人で第六階層を攻略するコラボ。
このコラボは第六階層を攻略し終えるまで続くことになっている。
企画説明はすでにお互いのSNSで説明済み、あと数時間で配信開始だ。
またコラボしようとは言っていたけど、その機会は思ったよりも早く訪れていた。
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