12 階層踏破
撮影ドローンを高めに設置し、俯瞰視点から周囲の映像を納める。
隈無く見てみたが生き残りはいないらしい。
すでに死んでいるレイスを生き残りというのも妙な話ではあるけれど。
「大丈夫そうだな」
「うん。これで一件落着だよ」
「助かったー。一時はどうなることかと思ったよ。二人のお陰だね」
「……そうだな。認めたくはないが……言い訳並べ立てるのも男じゃねぇ」
刀を鞘に納めると朔哉が俺たちの側に立つ。
「その……悪かったな。さっきは横柄な態度をとって。お前たちが配信してなきゃ、死んでたのは俺たちだけじゃなかったかも知れねぇ。恩に着る」
「俺たちは別に気にしてないよ、な?」
「うん。お互いに助かってよかった。それでいいと思う」
「……そうか」
「結果良ければすべて良しってな」
チャット覧のコメントも謝れて偉いと言う意見が多い。
まだ目くじらを立てている人もちらほらといるけど、俺たちは気にしないことにする。
「配信のメリットがこれでわかったんじゃない? そうだ、僕たちも配信者になってみる?」
「……考えとく」
「わお! 朔哉からそんな前向きな言葉が出てくるなんて! あれだけチャラ付いてるとかなんとか言ってたあの朔哉が!」
「うるせぇ! 頑なに認めねぇのも男じゃねぇってだけだ!」
相変わらず、簡単に朔哉はキレていた。
「これはひょっとして?」
「ひょっとするかも」
二人が配信を始めたらきっと人気が出るだろう。
そのうちコラボとかも出来るかもな。
その時が楽しみだ。
「折角なんだし、このまま一緒に攻略するか? 第五階層」
「お、いいね。僕は賛成」
「私も、そのほうが楽しそうだし」
「朔哉はー?」
「……わかったよ。じっくり見させてもらおうじゃねぇか。配信者のダンジョン攻略って奴を」
「そんな大仰な。でも、楽しさは伝えられると思う。という訳で、出演許可もらっていい?」
そう聞くと二人は声を揃えた。
「許可」
それからは四人での行動となり、実質的な突発コラボとなった。
「なに? 俺がツンデレ? 誰だそんなこと言った奴! コメント?」
「あっはっは! いいね、それ。朔哉の二つ名にしよう!」
「ざけんな! 俺は認めねぇからな! せめてもっと格好いいのにしろ! つーか、どこにデレがあんだよ、俺に!」
「早くもキャラ確定だな。配信の路線が見えたんじゃないか?」
「賑やかな配信になりそうだね、見ると元気を貰えそう」
「まだやるとは一言も言ってねぇんだよ!」
「いいや、やるね。朔哉が考えとくって言ってやらなかったことないし」
「よーし、剣を抜け! ぶっ飛ばしてやる!」
終始賑やかな攻略が続き、やかましすぎて魔物を引き寄せてしまうことも。
でも、四人もいれば姿の見える魔物を処理することなんて楽勝だった。
「戦場の天使か……なるほどな」
「切り抜きでも見たけど、生で見ると違うなぁ」
「ありがと。ところで本家のほうは見てくれた?」
「……さーて、次に進もう!」
「さては見てないな。チャンネル登録もしてないと見える」
「あ、あははー。でも、凜々ちゃんのチャンネルはちゃんと登録してあるからね」
「あ、ありがとう?」
「火に油を注いでんぞ、健二」
「まぁ、そんな気はしてたけどな。割と最初のほうから」
「帰ったらしておきます」
「どうもありがとう」
チャット欄にもギクッ、という書き込みが散見される。
別に強制することでもないし、気にしてないけど。
気にしてないけど。
「あ、もしかしてアレが最終地点じゃないかな? 第六階層への入り口だよ」
凜々の指差した先に第六階層へと続く洞窟がある。
「ということは、第五階層攻略完了だ! やったー!」
「おい、はしゃぎすぎるなよ、健二。また魔物が寄ってくる」
「えー、朔哉だってにやけ面になってるくせに」
「うるせぇ」
冒険者にとって階層の攻略は積み上げて来たものの成果だ。
まだ身の丈に合わないと上の階層に引き返すこともあれば、通用すると突き進むこともある。
いずれにせよ、その裏には血と汗と涙があって、それが報われたとあれば感動も一入というもの。
かくいう俺も達成感と充足感で一杯だ。
「このまま第六階層へ! って行きたい所だけど、流石にへとへと」
「今行くのは自殺行為だな。目標も達成したし、今日はここまでだ。俺たちはさっき見付けたセーフティーゾーンで休んでから帰るが、お前らはどうするんだ?」
「俺たちは……どうする? 俺はまだ余力があるけど」
「じゃあ、ありがたくハバネくんに頼らせてもらおうかな」
「わかった。じゃあ、ここで配信を閉めないとだな――ということで、お相手は天音ハバネと」
「花盛凜々と」
「健二と!」
「……朔哉」
「で、お送りしました。配信でまた会おう!」
「あ、高評価とチャンネル登録もお願いします」
凜々の滑り込みがあって、配信を終える。
チャット欄は乙、お疲れ様と言ったコメントが爆速で流れていく。
枠が完全に修了したことを確認してから、うんと伸びをした。
「ふぅ……じゃあ、俺たちはこれで。二人とも連れて行ければいいんだけどな」
「流石にそこまで世話になれねぇよ。こっちのことは心配すんな」
「お気になさらず-、冒険者だからね」
過度な心配は逆に失礼か。
「天翔空駆」
凜々を抱えて背中の両翼で飛翔。
すこし高い位置で止まり、二人に改めて身振り手振りで別れを告げる。
それに答えてくれた様子を見てから、天井に開いた裂け目へと向かって舞い上がった。
「今日はいろんなことがあったな」
「うん、色々と」
「立ち直れたみたいでよかったよ」
「……実はね」
そう凜々は切り出した。
「実は、まだちょっとだけ怖いの。もう克服したって思ったのに」
「……そっか」
「ダメだなぁ、私、冒険者なのに。もっと強くならなくちゃ」
腕の中にいる凜々は浮かない顔をしている。
沈んでしまいそうだ。
「実は俺にも似たようなことがあってさ」
「似たようなこと?」
「昔、この魔法でどこまで高く飛べるのか試したことがあるんだ」
「飛べたのはどこまで?」
「具体的な数字は憶えてないんだ。ほら、高度が上がるほど空気って薄くなるだろ? そこに何の対策もせずに突っ込んだらどうなると思う?」
「え、それじゃあ」
「お察しの通りだよ。魔法の効果で多少は軽減されたけど、見事に体調をやられてさ。頭の中はもうパニックで魔法の維持も出来ずに真っ逆さま。あの時は本当に死んだと思ったよ」
「よく助かったね。そんな経験をして」
「まぁ、俺も必死に藻掻いて死にたくないって願ってたからなのか、地面と激突する前にまた魔法が発動したんだ。地面すれすれを滑空するみたいに飛んでなんとか命は助かった。でも、その日から空を飛ぶのが怖くなったんだ」
「……どうやって克服したの?」
「してないよ」
「え?」
「かなりマシになっただけで、今でも空を飛ぶのは怖い。でも、それって悪いことじゃないと思うんだ。怖いから気を付けるし、慎重になれる。自分の中から過信を消してくれる。この恐怖心は危険を遠ざけてくれるんだ」
恐れ知らずと言えば聞こえはいいけど、それは時に人を傲慢にさせてしまう。
身の程知らずにも高く飛び過ぎて落ちた俺みたいに。
まるで太陽に焼かれた蝋翼だ。
「だから怖いままで良いと思う、俺はな」
「ハバネくん……ありがとう、話してくれて」
「すこしは気が楽になった?」
「うん、とっても。なんだかハバネくんには助けてもらってばかりだね」
「助けになれてるなら嬉しいよ。昔に思い描いた自分に近づけてる気がする」
まだまだ理想にはほど遠いけど。
「ねぇ、ハバネくん。私のリハビリはこれで終わったけど、またコラボしてくれる?」
「もちろん。いつでも大歓迎」
「ふふ、よかった」
第五階層の天井に開いた裂け目へと飛びこむ。
小さな恐怖心を、たしかに抱きながら。
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