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11 見えない魔物


 レイスや幽魔と呼ばれる魔物は実体を持たず、目に見えず、対処が難しい。

 その群れに行き会ってしまった。


「凜々! 聖水持ってるよな!」

「うん!」


 雑嚢鞄から聖水の入った瓶を取りだし、自身の得物に丸ごと振りかける。

 レイスは清められた武器でしかたおせない。


「逃げろっつったのによ!」

「置いていけないよ!」


 二人が合流し、周囲に警戒の糸を張り巡らせる。


「逃げるのは無理だ、覚悟を決めろ」


 レイスは物体を透過して追い掛けてくる魔物だ。

 どこまでも最短距離で追い掛けてくるレイスと、曲がりくねり道なりに逃げなければならない冒険者。

 どちらに軍配が上がるかは火を見るよりも明らかだ。

 振り切ることは難しい。


「聞いたぞ。お前の魔法なら逃げ切れたんじゃねぇのか」

「だろうな。でも、重量オーバーだ。流石に三人は担げない」

「俺たちを見捨てれば逃げられるってことだろうが」

「巻き込んだのは僕たちだしね」

「さっき凜々が言っただろ。置いてけないってさ」


 唐突に現れるレイスの気配。

 レイスは実体を持たない幽体だが、攻撃の瞬間だけ実体化する。

 それが唯一、明確な居場所を知る手掛かり。

 その一瞬を見逃すことなく捉え、聖水で清められた刀を薙ぐ。

 斬り裂かれたレイスは金切り声を上げて実体と幽体がごちゃ混ぜになりながら消滅する。


「どうしてレイスがこんなに大量発生してんだよ、くそッ!」


 逆巻く川、舞い上がる木の葉、不気味に響く風の音。

 尋常ではない現象が、怪奇現象が、見えずともその場に大量のレイスがいることを示している。

 取り囲まれ、俺たちの周りを旋回しつつ攻撃の隙を伺っているみたいだ。


「心当たりならあるな、この場所で」

「もしかして、この前の……」

「この前?」

「この場所で魔物の群れを相手したんだ。結構な数が死んだ。原因はそれだけじゃないだろうけど、切っ掛けにはなる」


 レイスの発生条件の一つに一定量の死があると言われている。

 多くの死がレイスを引きつけ、力を与えるとか。

 ゆえにどの階層にも出現する。

 最も多いのは死亡者数一位の第一階層選別の間だ。


「巻き込んだのは私たちのほう」

「はっ! そんなもん日常茶飯事だろ」

「そーそー。こればっかりはどうしようもないからね。僕たちの気はちょっと楽になったけど。とはいえ」


 清められた得物でレイスを斃すも、数が減った気がしない。

 見えない敵が相手では待ちに徹するしかなく、斃す手段もカウンターのみで常に命の危険がある。

 戦場を空に移したとして、相手はレイスだ。

 重力に縛られることのない魔物を相手に空中戦は分が悪すぎる。

 一対一ならまだしも、群れが相手ではすぐに撃ち落とされてしまう。

 俺だけ逃げるわけにもいかない。


「なんか手はねぇのか。このままじゃジリ貧だ」


 レイスの攻撃も苛烈さを増し、次第に傷が増えていく。

 この中の誰か一人でも大きな攻撃をもらえば、一気に形勢が瓦解してしまいそうだ。

 しかし、見えない相手をどうやって片付ければいい。


「――後ろ?」


 視界の端に引っかかったチャット覧のコメント。

 赤く色付いたそれは視聴者による投げ銭を意味していた。

 この緊急時に、それほどまでに俺に見てもらいたい言葉だということ。

 通常のコメントにも、後ろ、後ろと続いている。

 後ろ。

 そう、後ろだ。

 後ろにレイスがいる。


「そういうことか!」


 刀を握り締めて反転、振り向きざまの一撃を見舞い、幽体状態のレイスを断つ。

 金切り声を上げて消滅する姿を見て確信した。


「凜々! 配信画面だ! レイスが映ってる!」

「えぇ!? ほ、ホントだ!」


 心霊写真や心霊映像がそうであるように、幽霊は肉眼より機器に映りやすい。

 魔物であるが幽体でもあるレイスも同じ。

 俺たちには見えないが、カメラを通した配信画面にはレイスの姿が映っている。

 視聴者たちには最初から見えていたんだ。


「姿が見えるなら!」

「こっちのもんだ!」


 守勢から攻勢へ。

 もはやカウンターを狙う意味はなくなった。

 配信画面越しにでも姿が見えれば怖くない。

 レイスがもつ脅威のほとんどが見えないという一点に集中している。

 それが暴かれた以上、並みの魔物と同等かそれ以下にまで脅威度は落ちた。


「おいおい、マジかよ」

「そんな方法があるなんて……」


 清められた刃を振るうたび、レイスの金切り声が響く。

 勝敗はすでに決し、俺と凜々とで残りすべてのレイスを断つ。

 逆転劇はあっという間に終幕し、最期の断末魔が鳴り響いて静寂が訪れた。

 怪奇現象はもう起こらない。

 殲滅だ。


「ありがとう、みんな。助かった」


 視聴者たちのお陰でこの窮地を切り抜けられた。

 どう致しまして、無事でよかった、判断が早い! と言ったコメントが続く。

 最近は本当に配信に助けられることが多い。

 ありがたい話だ。

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