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10 克服の一歩


「大丈夫、映像は切ってあるから。音声は乗ってるけど」

「で、なんのようだ」

「実は遠目にだけど二人が映っちゃったので、その謝罪をって」

「ふーん」

「なーんだ、そんなこと」


 目付きの悪いほうが腕組みをして、温厚そうなほうが柔和な対応をしてくれる。


「別にいいよね? 朔哉さくや

「……まぁな」


 ぶすっとした不機嫌な顔をしつつも朔哉という名前の目付きの鋭い男は許してくれた。


「俺はダンジョンの攻略中にカメラ回してるような連中が嫌いだ」


 繕いもせず、そうはっきりと朔哉は言う。


「だが、だからって些細なことに目くじら立てるような小さい自分にはなりたくねぇ。だから許す」

「ありがとう。助かるよ」


 その割りには不機嫌そうな声してるとか、許せて偉いとか、チャット覧が賑わう。

 これは見なかったことにしよう。


「あ、もしかして戦場の天使さん?」

「戦場の天使? なんだそりゃ」

「朔哉知らないの? 今かなり話題になってるんだよ」

「知らん。冒険者の配信なんて見ないからな」

「えー、もったいない。いい勉強になるんだよ?」

「必要なことは自力で見付けないと身に付かねぇだろ」

「あ、いま見付けると身に付けるを掛けた?」

「掛けてねぇよ!」


 些細なことに目くじらは立てないと言いつつも、朔哉は普通にキレていた。


「僕、健二けんじって言います。握手してもらっていいですか?」

「あ、あぁ、もちろん」

「ありがとう! いやー、良い経験しちゃったなぁ」


 俺と握手して喜んでくれる人がいるとは驚きだ。

 考えもしなかったな。


「あ! ということは隣りにいるのは花坂凜々ちゃん!」

「あ、はい。花盛凜々です」

「握手してもらっていいですか!」

「もちろん」

「やった!」


 健二は俺の時よりも喜んで凜々と握手を交わしていた。

 まぁ、それはそうなんだろうし、当然のことなんだけど、なんだろうな、この気持ちは。


「おい、そろそろ行くぞ」

「えー、もう?」

「今日こそ踏破するんだろうが、道草食ってる場合か」

「でも、有名なチャンネルに出演するチャンスだよ」

「はぁ? 俺は出ねぇぞ、そんなもんに」

「なんで」

「チャラ付いてるのは好きじゃねぇんだ、俺は! 来ないなら一人でいくぞ!」

「うーん、残念。じゃあ二人ともまたどこかで」

「あ、あぁそれじゃあお元気で」

「さようならー」


 二人の背中が見えなくなるまで見送り、配信画面に映像を送る。


「色んな人がいるんだね、冒険者って」

「だな。終始圧倒されっぱなしだった。配信者になればいい線いくかも知れないのに」

「もったいないね」


 朔哉のほうが首を縦に振らない限り実現はしないだろうな。


「じゃあ、俺たちも行くか。たしかこの近くだったよな、俺たちが初めて会った場所」

「うん、そのはず……じゃあ、行こっか」

「あぁ」


 俺たちは俺たちで俺たちの道を進む。

 縁があればまた会うこともあるだろう。

 今はそれよりも凜々のことだ。

 今一度、あの一件が起こった地を訪れよう。


「――ついた。ここだな」


 対して歩くこともなく、俺たちは目的地に辿り着く。

 靴底の厚み程度しか深さのない川に落ち葉が流れ、岩肌の地面は常に濡れている。

 かつて大勢の魔物が凜々の命を狙い、襲い掛かった場所。


「すー……はー……」


 この場に立っては空元気も続かないのか、凜々は一度大きく深呼吸をした。


「死体はもう残ってないみたいだな」


 食糧として他の魔物たちに処理されたのだろう。

 この階層には虫も多いし、骨を好んで食べる魔物もいる。

 血は川に洗い流され、かつての痕跡は微塵もない。

 それでも凜々は心をかき乱されている。


「よし」


 臆することなく――いや、臆しはすれども立ち止まらず、凜々は一歩を刻む。

 震える手を握り締めて尾立猿と戦った時よりも、それは重い一歩だったように思う。

 歩いて、歩いて、道の先へ。

 ちょうど俺が降り立ち、凜々が伏せた地点で止まる。

 俺はずっとその様子を見続けていた。


「思ったより――」


 数秒間を置いて、視線がこちらに向く。


「思ったより、怖くないかも。えへへ」


 それはたぶん強がりじゃない。

 最初の一歩を踏み出した時点で、凜々は自身の恐怖心に打ち勝っていた。

 それを見届けてから凜々の側に向かう。


「チャット欄が困惑してるぞ」

「やっぱり? ごめんね。えっと実は――」


 視聴者に心配掛けまいとしていた凜々の気遣いを視聴者は理解してくれたようで、温かい言葉がチャット欄に続く。

 ここまでが凜々が恐怖心を乗り越えるための儀式のようなものだった。

 これで俺もようやく凜々を最後まで助けられたと思える。


「――急げ! 追い付かれる!」


 何もかもが上手く行ったと思ったのも束の間。

 切羽詰まったような声が当たりに響いた。

 直ぐに刀に手をやり、声がしたほうを見やる。

 すると、見覚えのある二人がこちらに駆けてきていた。

 朔哉と健二だ。

 二人もこちらの存在に気付く。


「逃げろ! レイスの群れだ!」

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