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1 配信系冒険者


「よいしょっと……はーい、冒険者の天音あまねハバネです。今日も見に来てくれてありがとう。音、大丈夫? オッケ。じゃあ始めよっか。この前は第四階層まで攻略できたから今回は第五階層を攻略できるよう頑張るから応援よろしく!」


 決まり文句のように、定型文のように配信開始の挨拶を済ませると、チャット覧に返事が表示されていく。見慣れたアイコンと名前を今日も見付けられてほっと安堵した。

 魔法で構築された立体映像のタッチパネルには撮影された風景が流れている。

 俺の側で浮かんでいるのが自立飛行型撮影ドローン。

 魔法技術の発達によってプロペラが不要となり完全な無音飛行に成功した一品。

 配信系冒険者の必需品で、一機十万円強もする高級品でもある。


「ツナマヨさん、こんばんは。くちなわさん、こんばんは。俺の右手がッさん、こんばんは。今日、結構人多いね。三十人近くいるじゃん」


 自分でも笑ってしまうほどの底辺だけど。


「お、博多メンタイさん、初見です。来てくれてありがとう。どろろんさん、破邪顕正さん、ミッドナイトさんも初見ありがとう。よかったら最後まで見てって」


 目新しい名前はそれくらいで開幕のコメント返しはそろそろ修了。

 一端タッチパネルから目を逸らして遠くを見やる。

 ここはダンジョンの第一階層、選別の間。

 すべての冒険者がダンジョンの洗礼を受け、選ばれた者は先へと進み、選ばれなかった者は地上への帰還か死を余儀なくされる。

 幸いにも俺はダンジョンに選ばれたようで冒険者をなんとか続けられているけれど、大変なのはここからだ。


「おしゃべりしてて平気なの? あぁ、今のところは大丈夫。ほら、あれ」


 撮影ドローンをすこし動かして、通路の隅に咲いた黄色い花の群れを映す。


「退魔の花アンネイソウ。この花が咲いたところには魔物が寄ってこないんだ。詳しくは知らないけど、魔物が嫌う匂いがするんだってさ……どんな匂い? そうだな」


 摘むのは良くないので花に鼻を近づけて嗅いでみる。


「んー、若干甘いかな。植物的な甘さ? まぁ、そんな感じ。食レポとか出来なさそう? ねぇよ、そんな機会、冒険者に!」


 チャット覧とプロレスは日常茶飯事。たまに行きすぎた言葉を見掛けるけれど、それは無視すればいい。楽しいコメントだけを拾ってあとはスルーが基本だ。下らない意見や感想には付き合わないほうが精神衛生上いい。


「持っていったら無敵? あぁ、俺も一度はそう考えたけどさ。この花、摘むと直ぐ枯れるんだよ。この匂いも再現が難しいみたいだし、まぁ世の中そう上手くは行かないってことだな」


 アンネイソウの匂いを再現できたら冒険者界隈に革命が起きる。


「だから、ここを抜けたらちょっとチャット覧見えなくなるけど、合間見て確認するからよろしく」


 本格的にダンジョンの攻略開始。

 アンネイソウの生えたセーフティーゾーンを抜けると底が見えないくらいの裂け目に行き当たる。氷河や雪山などで見られるクレパスよりも更に規模が大きく、人間の身体能力では到底跳び越えられないくらい対岸が遠い。


「さて、と。じゃあ、いつものアレやりますか」


 手足の屈伸で準備運動を終え、位置に付く。

 以前からの視聴者はあぁアレねと頷き、初見はアレ? と疑問を抱く。

 そんな中で地面を蹴って全速力で駆け、裂け目の手前で力の限り跳び上がる。

 当然、対岸に渡るには勢いがなさ過ぎる。

 俺の体は裂け目の半ばほどで落下し始め、奥底へと落ちていく。

 チャット覧はふぅぅぅううううう! と、えぇえぇえぇえええええ!? で埋め尽くされ、落下の最中にいる俺は体を捻って上を向き、追従する撮影ドローンにピースサイン。

 中々に迫力のある映像が撮れているはず。


「さぁ! このまま第二階層だ!」


 自由落下の果て、裂け目の底を越えた先に広がるのは第二階層、廃都遺跡はいといせき

 裂け目が途切れて天井が広がり、様々な鉱石による輝きがこの身を照らす。

 第二階層はこの鉱石光のお陰で昼のように明るい。


「魔物に見付からないうちにこのまま第三階層に行くぞ!」


 ただ第三階層へはこのままの自由落下ではたどり着けない。

 地面に叩き付けられて一巻の終わり。

 だけど。


天翔空駆アイル


 唱えた魔法は落下するのみだった体に自由を与えてくれるもの。

 背に一対の白翼を構築し、無数の羽根が舞う飛行魔法。

 両翼で羽ばたけば鳥のように大空を駆けることが出来る。

 チャット欄はおぉぉぉおおおおおッ! で埋まっていた。

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