僕の記憶をキミにあげる3話
「それでもっ、それでもっ!」力尽きたように、彼女は床へもたれ込む。「あぁぁぁぁぁっ!啓介ぇぇぇぇっ!あぁぁぁぁぁっ!」彼女は泣き叫ぶ。そんな彼女を僕は抱く。「大丈夫、僕の心配はしないで。、、、ね?大丈夫だから。」するとその様子を見ていた母さんが、「啓介、あなたが決めたことなら、私は反対しないわ。でも、、、生きる希望を捨てないで。何か方法があるかもしれない。」そんなのないよ、と言いたいけれど、これ以上母を、彼女を苦しめたくない。おそらく僕が死んでも2人を一生苦しめてしまうから。だから僕は「わかったよ。」「啓介くんのお母様、いいのですね?」先生にそう聞かれ、母さんは涙目で「はい。息子が決めたことですから。」「分かりました。彼女のご家族にも連絡しましょう。また明日、こちらから連絡いたします。」「分かりました。啓介、また明日来るからね。」「うん。」そう言うと母さんは帰っていった。周りにいた看護師さん達が、「2人とも、部屋に戻りなさい。」そう言われたので僕達は別れた。僕は病室に戻りすぐに紙とペンを用意した。今日あったこと全て記録するのだ。明日の僕はきっとこの事を覚えていないから。涙を流しながら、ただひたすら、殴り書きをする。文字なんて読めればいいだけだ。
記憶身体死滅障害は、おそらくこの世界で僕が初めてかかった呪いのような障害だ。それはある日突然発症した。そのせいで僕は自分の歳すら知らない。誕生日も知らない。母さんの顔も名前も1日経てば忘れる。彼女の記憶すら残らない。彼女と出会った時のことも、記録をみないと分からない。そしてこの障害は記憶を奪うだけじゃない。魂さえも、この世から引き剥がされるのだ。もう何年もこの障害に悩まされているらしい。だけど僕には実感がわかない。そんなことも全部記録している。
記録した紙は自分で部屋の壁に貼っている。貼りすぎて凄いことになってしまっているのも事実。まぁ個室だから大丈夫だろう。その後夕飯を食べた。何故かあまり美味しくなかった。そして眠る。「明日の僕は、どんな僕かな。」
ー次の日ー
トントン、ノックの音が聞こえる。「啓介くん、入るよ。」啓介って誰だろ?あれ、僕の名前は、?起き上がると机の上には『僕の名は啓介、今来た人は僕の主治医、僕は昨日の記憶が無い。この状態が数年続いている。大丈夫、今から先生の話をよく聞いて。』そう書いてあった。そうか、僕の名前は啓介なのか。そして先生は話し始めた。「キミの目を移植する話をしに来たんだよ。」目を移植?僕が戸惑っていると、「この記録を読んでごらん。」そう言われ目にした。