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厳選短編集

ドラゴンダガーの伝承と悪魔の消滅

作者: 白夜いくと

世に混沌が訪れしとき

狙ったかのように

封印されし悪魔が蘇る


水は毒と化し大地は汚染されてゆき

草花は枯れ空からは血のように濁った雨が降る


願い踊り祈った

しかし何も起こらない

人々は古の伝承にすがるようになる


―――――


ドラゴンダガーの伝承


むかし

世を脅かす悪魔が生じた


為す術もなかったところに

妖精を通じてドラゴン族と話せる

不思議な娘が現れた


彼らは協力して悪魔の封印を試みた

ドラゴン族の翼と娘の心の力

それは一つの武器


ドラゴンダガーとなった


悪魔は無事に東の祠へと封印された

彼女の寿命が尽きるまで

平和が保たれるだろう


また悪魔が復活し

世界を脅かすようになったなら

妖精の加護を持つ西の娘を一人捧げよ


その者に悪を討つ決意が見られし時

このザクロのように真っ赤な翼を

その者に捧げよう


ドラゴン族の翼は対魔の(つるぎ)

すなわち

悪を穿(うが)つダガーとなるだろう


―――――


人々これを信じ妖精と会話できる娘を探した

しかしそのような者は一向に現れなかった


いよいよ世界が終ろうとしているところ

西の村の貧しい家に一人の娘が産まれた


名を「シンディー」


彼女の目は両親ではなく宙を見ていた

よく泣く子で風が吹けばよく笑う子だった


シンディーが笑えば僅かながらに太陽が昇る

シンディーが泣けば周囲の物は風で吹き飛んでしまう


彼女の両親はシンディーが

伝承に謳われる娘ではないかと勘繰った


考え通りだったようだ

シンディーは三日で立派な娘の身体に成長した

これは妖精の加護がある印に違いない


「お父さんお母さん。私、ドラゴン族の所へ行ってきます」


シンディーが言う

両親は「おやめなさい」と止めた

しかし彼女は風に導かれるように両親のもとからいなくなった


シンディーは妖精に導かれ

いろんな所を旅をする


小細い川やしぼんだイチゴ

わずかに残った自然の恵みを頂きながら

野を越え谷を越えドラゴン族の所へ


道すがら

悪いゾウに踏みつぶされそうになった

悪魔の手下にやられそうにもなった


でもシンディーには妖精の加護がある

悪いゾウの足元を走り回り転倒させる知恵や

悪魔の手下からの身を隠す術を会得していく


やっとのことでドラゴン族のねぐらに着いたとき

世界は瘦せ細り

今にも滅んでしまいそうだった


焦りがシンディーに見えた瞬間

炎のように真っ赤な翼のドラゴンが一匹

彼女の前に現れた


「        ?」


ドラゴン族の言葉を聴きとれたシンディーは


「はい」


と答える

しかしまだ決心のついていない瞳に

ドラゴンは気づいていた


翼を大きく広げて咆哮するドラゴン

彼女の意志を確かめるために決闘を挑んだよう


鋭い爪でシンディーを捕まえようとするが

突風が吹きドラゴンを跳ねのけた

これも妖精の加護


隙の出来たドラゴンに彼女は何もしない


「今ここであなたを倒しても何の誇りにもならない。

私の為すべきことは、悪魔退治なのです」


シンディーの言葉を聞いて

ドラゴンはザクロのように真っ赤な翼を授けた


「     !」


シンディーが妖精の後に続き呪文を唱える

真っ赤なドラゴンの羽は火球のように輝き

彼女の左胸の中に入ってゆく


やがてそれは

眩い輝きのダガーとなって

シンディーの右手に現れた


まさしくドラゴンダガーである


それは

濁った空にまで届き

針のように突き刺した


慌てふためいた悪魔は

彼女のことを始末しようと考えるが

太陽のように眩しい光に呑まれて消滅したという


それ以来彼女は姿を消したまま

このお話は「シンディー伝説」として語られてゆくこととなる


山・谷・川・海……

悪魔のいなくなった世界には

それぞれ涼しく心地よい風が吹いていた

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