初めの一歩
少し文量がんばりました
「おいお前!うちの友也に何してんだ!」
ゆっくり振り返るとそこにはまごうことなきジャイアンがいた。しかも俺の肩に腕を絡ませて。
うへっ、気持ち悪っ!俺の初めてがジャイアンだなんて!
冗談はさておきーーーもしかしなくても友也のお知り合いだろう。さて、どうしたものか。この図体が一回り位デカいからって調子乗ってるこいつに、どうやって縦社会の厳しさを叩き込んでやろうかと思案していたところ、
「や、やめてよ清≪きよし≫君!!」と威勢よく友也が叫んだ。よく見ると友也の肩は震えているようだった。ついでにあたりを見渡すと、保護者や他のクラスメイトたちがこっちを見ていた。
どうしてこうなっちゃうかな?悪目立ちは避けたかったのに。
ていうか、こいつ清って名前なのか。ますますジャイアンだ。
そして、どうやらジャイアンなのは見た目だけじゃない。状況からみてどう考えても、清たちが友也をいじめている感じだろう。
俺は友也の友達だ。相手は俺の天敵やりらふぃー、相性は最悪だが今世の俺は誓ったんだ。こんなやつに負けてたまるか!!
「おいお前!友也が嫌がっているだろぉぉおおお!!!」
そう叫びながら俺は清とやらの腕を振りほどき、友也をかばうように間に割って入る。
まさかのカウンターを喰らった清氏は、少しよろけながらも後ろに控えていた取り巻きたちの手を借りてリングに復帰してきた。俺とこいつの戦いはもうすでに始まっているのだ。
「清さん!今日という今日はやっちゃってください!!」 「これまでの思いを全部ぶつけるんだ!清さん!」
取り巻きたちの声援に熱がこもる。ってかめちゃくちゃ魂こもってんじゃん!
その声に目の色をかえた清は、眼力だけでこちらを射殺さんとばかりの形相であった。俺は一瞬、清の双肩に化身が宿っているように見えて冷や汗が背中を伝うのを感じる。ここはイナズ〇イレブンの世界かよ!!そう心の中で突っ込まずにはいられなかった。
ふざけている場合ではない。あちらさんはやる気だ。これはバトル漫画でよくある、どちらかが死ぬまで続くデスマッチだ。友也の為にも負けられない。友達一人守れない男が夢だなんだと言えるはずがない。なぁそうだろう友也!俺がお前を守ってやるからな!
気合十分な俺は友也に振り返ると何とも言えない微妙な顔をしていた。
あれ?こう、僕の為に争わないで!みたいな悲壮な顔を想像してたんだけど。
すると友也が再び口を開いた。
「もういい加減にしてよ清君たち!!嫌いになるよ!!」
「「「え?」」」
教室の空気が一瞬にして固まる。
かく言う俺もその一人。
「「「そ、それだけは勘弁してくれぇ!!!!」」」
すると、清とゆかいな仲間たちが一斉に友也に向って土下座した。
またしても仰天。背が低くて可愛らしい子に高校生みたいな図体の奴らが一斉にひれ伏している。わけわからんシチュエーションオブ・ザ・イヤー金賞ものの画だ。友也って清たちよりも偉かったの?初耳なんですけど
「ね、ねえ友也さん?」
「どうしたの?」
天使のような笑顔でこちらの顔を覗き込んでくる友也パイセン。普段なら尊すぎて死ぬところだけど、今回ばかりはその笑顔が、あたかも魂を刈り取りに来た死神のごとく感じられた。
「き、清君とはどういった関係なの?」
「うんとね、清君たちとは幼稚園の時からの付き合いなんだけど、僕のことになると我を忘れちゃう癖があって、それでちょっと困ってる・・・かも?みたいな?」
「「「ぐふっ!」」」
今度は清と以下略たちが心の内側からのダイレクトアタックを喰らって力尽きた。お前たちの事は忘れるまで忘れないよ。
けれどこれですべて合点がいった。きっと友也ガチ恋勢の清たちは、友也と仲睦まじく会話をしていた自分を排除しようと喧嘩を仕掛けてきたに違いない。どこぞの傾国の美女みたいなパワーだな、恐るべし友也の破壊力。
「そ、そうか友也。そんなにイヤなら、俺からこいつらにきつく言い聞かせておくよ。もう二度と友也に近づくんじゃねぇってな」
俺は伸びている清以下略たちを指さしてそう告げた。
しかし、俺は至極当然で当たり前のことを見落としていた。友也の強靭なメンタリティに隠れた、人が誰しも持つ”渇き”を。
「あ、あのね!ヒロ君!お、お願いがあるんだけど・・・」
「ん?どうしたんだ?」
「清君たちを許してあげて欲しいんだ!!」
「え?いいのか?」
思わず聞き返してしまった。
「うん。清君たちはヒロ君に悪いことをしたと思う。それはいけないことだ」
「それなら「それでも!それでも僕の友達なんだ!」」
俺の言葉を遮り、友也が声を荒らげた。そしてぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。まるで自分の過去を嚙み締めるように。
「清君は一見やんちゃそうに見えるけど根はとっても優しいんだ。僕のことになると少し暴走しちゃうけど、それでも僕の生まれて初めての”友達”なんだ。清君だけじゃない。あっちゃんも、まさき君も、やまちゃんも、みんな友達だ。だから、だから同じ友達のヒロ君も仲良くして欲しいんだ。身勝手だと思うけど、それでもどうかお願い!!」
そう言って友也は俺に頭を下げた。
やっぱり俺はダメだな。自分で自分が嫌になるよ。まあとっくの昔から自己嫌悪を背負ってきておいて今更だけど。
せっかく人生やり直してるってのに小学一年生相手に諭されっぱなしだ。この世界はボーナスステージなんかじゃない。”俺”という存在を見つめ直すための、最後のチャンスなんだ。
俺はこの世界に来てから何をしていた?前世の知識があるからテストなんて余裕?俺が本気を出せばなんでもできる?たかが顔一つが変わったってだけで何ひとつ殻を破れていないじゃないか!!この醜く、意地汚い腐った心は前世と同じなんだ。
清がジャイアンみたいだから悪い奴だと?いつからお前が他人を批評できるほど偉くなった?大切なのは外見だけじゃないんだって前世で学んだはずだろ?好戦的な態度をとらなくても、初めから事情を聴いておけば丸く済んだんじゃないか。
心の中の俺が俺に囁く。「お前には人間付き合いなんて無理だよ。家の隅の部屋の中がお似合いだ」という具合に。
ってわかった風な口をきくんじゃねぇ!!!!逃げてばっかのお前には分からないだろう!!人と心を通わせる喜びを!!自分の大切なものを賭けて相手とぶつかり合う興奮を!!俺は友也や清たちからそれを教わった。あいつらは俺に大切なことを教えてくれた恩人、そして、想いをぶつけ合った”友達”だ!!!!
「あぁ友也!お前がそういうんだったら僕たちはみんな、今日から友達だ!」
「え!?本当に!?」
ぱぁっと友也の顔に花が咲く。やっぱりこいつは笑顔が似合うな。
「あぁ。そんでもっておい!起きろお前ら!!」
そして俺は伸びている以下略たちに一人ずつビンタをかまし目を覚まさせる。
「んぁっ!お前なにすんだよ!」
「細かいことにこだわんな!ほら!笑え!笑えば俺たちは友達だ!!」
「よくわかんないけどお前シラフでそのテンションなら相当やばいぞ!!って肩組むんじゃねぇ!」
「ささ!友也もこっち来い!今から二次会行くぞー!」
「ちょっとヒロ君ー!入学式の二次会なんて聞いたことないよー!」
初めは恐る恐る成り行きを見守っていたギャラリーの方々も、最後にはその顔に笑顔が見られるようになった。母も友達が出来た俺に安心したようだった。
こうして”鳴瀬 稔浩”の人生は本当の一歩目を踏み出したのだった。
少し強引に感じたかもしれません。今の私はこれが限界です。許して下さい何でもしますから(__)
ところで、今ちょっとした都合により神戸に来ているのですが、とってもキレイでお洒落な町ですね。あと二日ほど西日本を満喫するつもりなので更新が遅れるかもです。ご了承ください。