ギャルゲーの全ルートがクリアされました。
やあ、なんか思いついた。
「おめでとう、全ルートクリアだ❗」
ある日、突然と地球及び宇宙空間に存在する全ての人類の脳裏にこんな声が響いた。それは天からもしくは地から響く包みこむような優しい声だった。
信心深い人々はそれを神の声だと確信し個人個人の宗派にあった祈りを捧げながら鎮座し。
また、現実主義者達はこの不可解な現象に驚き戸惑う。
「まさか隠しヒロインまで攻略するなんてやるじゃないか」
うん?話しがなんか怪しくなってきたと一部の人々(特に極東アジアの島国在住)はその言葉を聞いていぶかしむような表情を浮かべ。
全くそれらの知識がない人々は熱心に祈りを捧げ続ける。
「じゃあクリア特典だ、全てのルートの記憶をヒロイン全員に渡すね。やったねハーレムだよ❗」
とんでもない言葉が脳内に響く。
そして、ビデオの録画を見るような映像が脳内に流れこみ始める。それは目を閉じても防ぐことはできず強制的に視聴させられるようであった。
それはある少年の視点を写したものだった。
平凡でどこにでもいるような少年であった。
高校に通い毎日を非生産的に過ごす少年はある日一人の少女に出会う。
そして奇怪な事件に巻き込まれ少女と共に世界の裏側に飛び込んだ。
そして少年は死んだ。
何度も何度も。
そして映像は少女との出会いに巻き戻る。
幾度の悲劇や痛みを乗り越え経験を蓄積し少年は少女を守るために立ち向かい・・・少女を守りきった。
映像がループする。
少年は今度は別の少女と出会い。別の事件に巻き込まれた。
今度も少年はその少女を助けるべくまた奮闘し、幾度もの死を乗り越えてようやく成功する。
そして最初の少女の無惨な最後を知らせる新聞が広がった机を最後に視界が暗転し。
最初の少女との出会いに巻き戻る。
絶望、それが映像から伝わってくる。
気がつけば人々は涙を流していた。
それから少年は少女達を助けるべく奮闘していく。
擦りきれていく魂は悲鳴をあげ、体はボロボロに。
ようやく少女達を救った時。
彼の目の前に新しい少女が現れた。
彼は諦めなかった。
全ての少女達を救うべく接触は最小限に会話すらままならずひたすら戦った。
気がつけば優しいと言われた目元はギラギラと輝き、体中に包帯が巻かれ、歩く姿はまるで幽鬼のようになり。
そして、助けたはずの少女達に拒絶される。
記憶がないのだ・・・少女達からすればほとんど会話すらしていない怪しい人物であるのだ。好意的であるわけがない。
彼を動かしていた心が擦りきれた、あれほど機敏に動いていたはずの手足は鉛のように重く視界もぼやけていく。
彼は抗うことをヤメタ。
普通の生活をする自分を俯瞰するような視点が続く。
白昼夢のような感覚で学校に通い、学校が終われば公園でうなだれ暗くなれば家に帰る。
そして、机の新聞・テレビが少女の最後を伝え。
朝に巻き戻る。
何度も少女の最後を聞いた見た死んだ。
そんな彼が決まって過ごす公園は最初の少女と出会った場所であった。
それは未練であろうか憐憫であろうか。
数時間後には死ぬ少女を見て見ぬふりをできず足がそこに向かう。しかし、座ったベンチから手足が動くことはなかった。
それを何度も繰り返す。
今日もベンチに座る。ぼやけた視界は何も映さない
誰かが近寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
鈴と透き通る優しい声が響いた。
その声は忘れるはずもなかった最初の少女のもの、苦楽を共にした戦友でありパートナーだったこともある少女の声。
「どうしてそんな悲しそうな顔しているんですか?」
こちらを心配する声が響く、涙が流れる。
少女はこれから死ぬのだ。
そして当の本人もおそらくそうなるのだろうと思っていたことを僕は知っている。
少女はこれから自分が死ぬかもしれないということを知っている。そして、僕は死っている。
死を目の前に他人を心配していることを知っている。
「元気出してください」
そう言って彼女は僕にハンカチを渡し歩いていった。
ああ、そうだ。
そうなのだ。
いつから僕は彼女達に対価を求めるようになっていたのだろうか。
最初に様子がおかしい彼女の後を追いかけたのはこの気持ちだったのだ。
ただの究極の自己満足に過ぎないのだ。正義感とかではなく目の前の彼女達をただ助けたかっただけ。そこにもともと見返りなんぞ存在していない。渡されたハンカチで涙をぬぐう。
少年の視界はもうぼやけていなかった。
そこから少年は走り続けた。
たったの一週間。されど少年にとっては永遠に近い時間を無我夢中で走り続けた、何発もの銃弾を受けても止まらない。
全ての彼女を助けるため不眠不休で駆け回る一度擦りきれた炉心の火はもう消えない。
そして少年はやり遂げた。
映像はそこで終わった。
周囲を見れば人々は皆さめざめと涙を流していた。
「あっやべ・・・ミスちゃったテヘペロ。じゃあ幸せ生きるんだよ!あと、もう巻き戻ることはないからね」
天上からの焦った声が響く。
今日、今を生きる全ての人類がこの世界がギャルゲーの世界だということを知ってしまった。
そして、主人公とヒロイン全員との出会いから酸いも甘いも全ての記憶が全員に植え付けられてしまったのだ。
さあ、大変。世界中が大混乱に陥る・・・その前に人々は思った。
黒幕潰さなあかんけ。
「ふざけるなあ!ふざけるなあああああああああ」
一方こちらはこの世界の黒幕の一つであるエーテル製薬、少女達を実験台に新薬を開発し莫大な利益をあげ医薬品業界を牛耳るはずだった会社。
やってることは犯罪である。
いくら手回しをして封じ込めたとしても法律的にも倫理的に一発アウトなことをしまくっているのだ。その所業が全世界の人間にばれてしまったのだ。
「開けろデトロイト市警だ❗」
「FBIだ開けろ❗」
「公安だ❗」
「どーも。モ↑サ↓ド→です❗」
「米軍だあ、扉をあけろおおおお❗」
もはや会社の前はカオスであった。
権益利害関係なしに様々な組織の部隊が突入してくる。主人公達が相対するはずであった私兵は数の暴力でぼこぼこにされ。緊急用の脱出経路もバラクラバ被ったマッチョがうろついているし。
資金も世界中の銀行が停止及び口座が凍結され動けない。
悪は滅びた。
そして
「「「「「「・・・」」」」」」
主人公の自宅では。
「えーと」
「「「「「「「あなたは黙っていてください」」」」」
これはハッピーエンドを迎えた鬱ゲーの物語。
全ルートのヒロインのハッピーエンドは結婚して子供までいるのだ。
そしてヒロイン全員がその記憶がある。
ヒロインの親たちも「孫…孫…」と呟き始め。こんだけ手を出したのかと怒り狂おうにも全員誠実に付き合った結果がぶちこまれているので砂を噛んだような表情で主人公を見つめる父親達。
カオスが始まる。
世界観
死にゲー。
死ぬとタイムリープする。
全ルートクリアするまでループ。
クリアにはヒロインが死ぬ原因を解明するために見殺しが必須となっている。
南米密林評価☆一つ。