花冠
ダインの『威光』を纏った拳が悪魔を貫き、悪魔は苦しそうな声とともに塵となって消えた。
「…!ルシア!」
悪魔が消えたことを確認すると、ダインは俺の方へと駆け寄ってくる。ルシアは目を開けないものの息はしており、意識を失っている様子だった。
「ルシア…!おい、すぐ教会に戻るぞ!」
「お、おう…!」
「わ、私はギルドに救助要請してきます!」
それから暫くして、ルシアは教会のベッドで治療を受けていた。俺やエイラが治療を受けている間も目を覚ましておらず、時計は既に0時を回っている。それでもダインはずっとルシアから離れず、手を握りただじっとルシアの顔を見つめていた。
「ダイン…」
「…体は平気なのか?」
部屋に入った俺の方をゆっくり振り返ると、ダインはぎこちない微笑み顔でそう言った。俺が頷くとダインは再びルシアの手を握って見つめる。
「…ここまで付き合ってくれてありがとな。あとは俺が…
ダインが言い終わる前に俺は椅子を持ってルシアの側に座った。エイラやレムも同じようにルシアの側に座る。
「な、何して…」
「何って、俺らもここにいるに決まってるだろ」
「ギルドの方も、じきに目を覚ますはずって言ってました!」
「…そうか、本当に…ありがとな」
それからまた暫く時間が経ち、レムは寝てしまったが俺たちはルシアの側を離れず目を覚ますのを待ち続けた。そしてダインも戦闘の疲労からウトウトとし始めた頃、ルシアの手がダインの手をゆっくりと優しく握り返した。
「…!ルシア!?」
ダインが立ち上がりルシアの顔を覗き込んだ。その様子に俺やエイラも椅子から立ち上がり、ルシアの様子を伺う。そしてルシアはゆっくりと目を開くと、周りを見てからダインと目を合わせた。
「ダ…イン…」
「ルシア…!」
「ルシア!」
ルシアは体を起こすとみんなを見て微笑んだ。エイラはルシアの意識が戻ったことを喜び、目に涙を滲ませてルシアに抱きつく。
「よかった…!」
「エイラ…心配かけてごめんね」
抱きつくエイラの頭を撫でながら、ルシアは優しくそう言った。そしてダインを見つめると、互いに涙を流し手を強く握り合う。
「なんとかなった…ね。ダイン」
「ああ…!」
そうして少しの間ルシアの意識が戻ったことを喜び、ルシアや俺たちも休息を取るべく各々教会で泊まることとなった。
「ふあ…ぁ。…さて、と」
そして翌朝、目が覚めた俺はルシアの様子を見に部屋を出た。すると血相を変えたダインが廊下を走っており、俺は思わず声をかける。
「ダ、ダイン!どうしたんだ?」
「っとヒロキか…!ルシアがいないんだ!あいつ、まだ休んでなきゃいけないってのに…!」
「なんだって!?」
それを聞いて俺はダインと教会や孤児院を走り探し回った。
しかしその心配をよそに、ルシアはエイラと花の咲く丘で話をしていた。
「エイラ…本当にありがとね」
「フフ…もう何回も聞きましたよ」
そう言いながらエイラはルシアに歩み寄ると、摘んできたボアの花をルシアに渡して隣に座る。
「あの時、悪魔に取り込まれそうになって…真っ暗で何も聞こえなくて…。怖くて何もできなかった」
ルシアは悪魔に取り込まれそうになった状況を振り返りながら、ボアの花の茎を編み込んでいく。
「でも、突然光と一緒にエイラの声が聞こえてきたの。そして…あの時の約束を思い出させてくれた」
エイラは微笑みながらルシアを見つめる。ルシアは一度手を止めると、エイラと目を合わせた。
「エイラ、私の考えは間違ってなかったんだと思う」
「考えって?」
「『異能』のこと。やっぱり『異能』を持ってないってことは、運命を自分で切り開けるって事なんだと思う」
それを聞いたエイラは一度きょとんとしたあと、感謝を伝えながら眩しく笑った。
(これは…ただ励まされただけだと思ってるな…。まぁいっか)
ルシアも微笑み返すと、再びボアの花を編み込み始めた。
そして日が傾き始めた頃、教会に2人が帰ってきたと子供達から聞き、俺とダインは教会に向かった。
「ルシア!まだ寝てないとダメだろ!」
「ご、ごめんね」
ルシアはダインに詰め寄られ、たじたじと謝る。その横で俺と目が合ったエイラは、気まずそうに俺から目を逸らした。
「エイラ…まさかエイラが連れ出したのか?」
「うっ…ご、ごめんなさい!」
俺もエイラの方に歩くと、エイラは一瞬ルシアの方を見た。そして俺の腕を掴むと、教会の外へと俺を引っ張った。
「お、おいエイラ?何を…
「来てください…!」
俺の声を遮りながら、エイラはグイグイと俺の腕を引っ張り続ける。
「ち、ちょっとエイラ!なんで行っちゃうの!?」
「ルシア!誤魔化そうとしたって無駄だぞ!」
ルシアはエイラを呼び止めようとしたが、ダインに止められてしまった。そしてついに俺は教会の外まで連れ出されてしまった。
「エイラ?なんで外に…?」
「まあまあ…」
そう言いながらエイラは静かに教会のドアを少し開けると中を覗き込んだ。俺は意図が分からず、真似するように中を覗く。
「その…どうしてもやりたいことがあって…」
「やりたいこと?」
「う、うん。その…えっと…や、やっぱりなんでもない!」
ルシアはダインから目を逸らすと、逃げるように一歩下がった。逃すまいと歩み寄ったダインは、ルシアがずっと腕を背中に回し手を隠している事に気づいた。
「ルシア、何か隠してないか?」
「か、隠してなんか…ひゃっ!?」
ルシアの言い訳よりも早く、ダインはルシアの腕を掴んで引っ張った。その手にはボアの花で編まれた、少し歪な円形をした花冠が握られていた。
「…!これって…」
「うぅ…まだ手が上手く動かせなくて綺麗にできなかったの…。だから見せたくなかったのに…」
ルシアは恥ずかしそうに言った。それを見たダインは驚いたあと優しく微笑み、すこし前屈みになって花冠を頭に乗せた。そしてゆっくりと顔を上げ、涙を滲ませた瞳で真っ直ぐルシアを見つめる。
「…綺麗だよ」
「…!ダイン…!」
ルシアも同じように涙を流すと、2人は強く抱きしめ合った。ステンドグラスから伸びる色鮮やかな光が2人を包み、祝福されているようだった。そんな様子を眺めていると、エイラが静かにドアを閉める。
「帰りましょう、ヒロキさん」
「…だな」




