ルシアの思い
翌日、俺達は再び教会に向かっていた。昨日案内してもらった道を通ると、しばらくしてダイン達のいる教会にたどりついた。
「お邪魔しまーす」
扉を開けると、教会の奥でダインが座って本を読んでいた。蝋燭や十字架などが置かれた神聖な机に足を乗せているあたり、本当に神なんて信じていないようだ。そしてダインは椅子から立ち上がるとこちらに歩いてくる。
「…ん?来たか」
「おう!」
「その子達は友達か?」
ダインはレムとエイラの方を見ながらそう言った。俺は二人の名前を紹介し、一緒にルシアを助けに来たことを伝えた。
「そうか、二人共ありがとな。…と言っても、助ける方法もまだ見つかってないんだけどさ…」
精一杯の作り笑顔を浮かべるダインに、俺は励ましの言葉をかけようとした。しかしその時、教会の扉が勢いよく開く音が聞こえ、元気な子供の声が響き渡った。
「ダインにーちゃん!遊ぼー!」
「あ!昨日の人も!一緒に遊ぼ!」
突然現れた子供達はあっという間に俺達を囲むと、俺の手を引っ張ったり飛び跳ねたりする。その対応に困惑していると、子供達を呼ぶルシアの声が教会の扉の方から聞こえてきた。
「こーら!ダインは今日忙しいから駄目って、さっき言ったでしょ!…ってあれ?」
ルシアは俺の隣りにいるエイラに気が付くと、少し気まずそうにした。
「エ、エイラ…どうしてここに?」
「…ヒロキさんから聞いたんです!その…ルシアが…」
エイラが少しどもりながらそう言うと、ルシアは何かを察したようにそれを遮った。
「ご、ごめんね。私、買い物に行かないといけなくて…」
「あっ…」
呼び止めようとしたエイラを無視して、ルシアはすぐに外に行ってしまった。するとダインが俺を呼び、肩に手を当てる。
「ヒロキ…付いて行ってあげてくれないか?もし、街に出て何かあったら…」
「…わかった」
確かに街でもし悪魔に乗っ取られてしまえば、被害が出てしまうだろう。真剣な顔でそう言われ、俺は意を決してルシアに付いていくことにした。
「えっと…私達は…」
「アンタ達には…悪いけど子供達の相手してくれないか」
「わ、わかりました!」
「えー…」
それぞれ役割分担を終え、俺は先を歩くルシアに声をかけた。するとエイラは後ろを振り向き、立ち止まって俺を待つ。
「エイラと知り合いだったんですね」
「ま、まあ一応…。すみません…そうとは知らず話しちゃって…」
「い、いえいえ!責めてるわけではないんです!」
ルシアは大きく首を振ってそう言った。そして隣に並んで歩き始めると、少し寂しげな表情で話し始めた。
「私も…本当はエイラともっと話したかったんですけど、ただ…最近記憶の無い時間が増えてきていて…。私も…もう悪魔に乗っ取られてしまう気がしているんです…。その証拠に…」
そう言いながらルシアは髪を手で避け、隠れていた額を見せた。その額には黒い痣のようなものがあり、禍々しい雰囲気を放っていた。おそらく俺やアレンがオーメンの力を使った時、現れている紋章のようなものなのだろう。
「この痣が日に日に広がって…今はほぼ半身にあります…」
「だ、大丈夫ですよ。俺達も、ダインも助ける方法を考えて…」
「私は、もう悪魔のせいで子供達やダインに迷惑かけたくないんです!」
「…!」
「…何度か自殺も考えました。でもダインに止められて…怒られちゃいました」
そしてルシアは俺の方を向くと、俺の目をまっすぐに見つめた。
「だからヒロキさん、一つお願いがあるんです」
「お願い…?」
「ダインはあまり人に頼らない性格なんです。でも今回は…珍しくあなたを頼りにしてる。だから…私がヒロキさんを襲うふりをすれば…」
そうすればやむを得ずダインもルシアを殺すかもしれない、ということだろう。しかしダインも、そしてルシア自身もそんな結末は望んでいないはずだ。
「そんなの…絶対に上手くいかないに決まってます」
「ど、どうして…?」
「それができるならダインはきっと既にそうしてるはずです。…大切な人を…自分の手で殺せる人なんていないですよ」
「…!」
俺がそう言うと、ルシアは反論せず黙ってしまった。その暗い雰囲気を切り替えようと、俺は少しあからさまに話をそらした。
「それより早く買い物に行きましょう!」
「…はい」
「それで…何買いに行くんですか?」
「えっと…このメモに書いてあるものですね」
そう言いながらルシアは俺にメモ帳を手渡した。そのメモ帳には『今日の分』と書かれた付箋が付いており、俺はそのページを開く。
「えーと…」
そこには野菜や肉、魚といったご飯類のメモが書かれていた。しかし驚くことになんとそのページ数は14ページ。あれだけ子供がいるのだ、当然と言えば当然だろう。
「これ…今日一日で買うんですか…?」
「…?はい、そのつもりですけど」
「そう…ですか…」
その帰り道、俺は大量の買い物袋を抱え、歯を食いしばりながら帰路についていた。女性にこの荷物を持たせるわけにはいかない。
「あ、あの…少し持ちましょうか?」
「お気に…なさらず…!」




