眠れる森の少女
俺は今冒険者の登録を終え、外の世界につながる大きな門の前に立っている。この先に一歩出れば、凶悪なモンスター達の手厚い歓迎が待っていることだろう。
「ゴクリ…」
期待と不安を胸に外に出ようとしたとき、俺は門の前にあるカウンターにいた兵士に呼び止められた。
「そこの君!冒険者かい?」
「…そうですけど…」
旅立ちの一歩を邪魔され、少し不貞腐れ気味に俺は兵士の方に近付く。そのカウンターには名簿の様なものと、カードが沢山入ったケースが置かれていた。
「じゃあこの名簿に名前を書いて、冒険者カードを渡してくれるかな?」
「あ…なるほど、わかりました」
名簿には多種多様な名前と、その横に時間が書かれていた。冒険者がいつ旅に出て、無事に帰って来たかを管理しているのだろう。
ありがたいシステムに俺は感謝しながら名簿に名前を書き、ギルドでもらった冒険者カードを兵士に渡した。
「サトウヒロキさん…と、この名簿のこと知らない様子を見ると…外は初めてだよね?」
「う、そうです、やっぱり…結構危険なんですか?」
こんなシステムがあるくらいだ。外に出て帰ってこない冒険者もいるのだろう。兵士は真剣な顔で頷くと、カウンターの下から地図を取り出して広げた。
「ここが今僕たちがいる『冒険の国メンクス』で、ここを中心に離れていくほどモンスターは強くなるんだ」
「へぇー」
「だから初めの内はこの『ナナクスの森』に行くことをオススメするよ」
兵士は地図を指差しながら説明をし、俺の冒険者カードをケースにしまうと敬礼をした。
「じゃあ、無事に帰還するように!」
「わ、わかりました!」
俺も兵士の真似をするように敬礼をして、いよいよ門の外に足を踏み出した。広大な自然が広がり、太陽が強く照りつけている。冒険の始まりにウキウキしながら俺は『ナナクスの森』に向かうことにした。
「確かこっちの方だったよな…」
兵士が教えてくれた通りに広い草原を歩いていると、前の方に無数の木々が立ち並ぶいかにもな森が見えた。あそこが『ナナクスの森』で間違いないだろう。
「よし、いくぞ…!」
少し歩いて森の入り口に立った俺は腰の剣を抜き、気を引き閉めて森に入る。さっきまで照りつけていた太陽は木の葉に隠れ、辺りは薄暗く少し肌寒さを感じた。
「『警戒心』があるとはいえ、気は抜けないな…」
回りの景色は森というだけあって太い木や木の葉、蔦や草や女の子で視界が悪い。何処から何が飛び出してくるか気を引き閉めなければ。
「……女の子…?」
俺は自分の目を疑い、もう一度回りを見渡す。するとそこには、やはり俺より年の低そうな女の子が1人、木の下で座っていた。肩ほどまで伸びた銀髪とアホ毛を揺らし、目を閉じている。どうやらこの危険な森で寝てしまっているようだ。
「お、おーい…こんなところで寝るなんて危な
女の子を起こそうとした時、『警戒心』が強く反応する。
「なんだ…!?」
後ろから殺意を感じて振り返ると、そこには小振りなナイフを持ったゴブリンが1匹俺をジッと睨んでいた。
「ギャア!」
「ゴブリンか…!よ、よし…!」
初戦闘ということもあり無策に突っ込むのはやめて、剣を構えてゴブリンの出方をうかがう。すると『警戒心』がまた反応し、殺意と共にゴブリンがナイフを突き出し飛びかかってくる。
「喰らえっ!」
ゴブリンが攻撃してくるのが分かっていた俺は、少し後ろに下がり迎え撃つように剣を縦に振る。直撃したゴブリンは半分に裂けて消えると、その場に銅貨を落とした。
「ギャァ…」
「ふぅ…なんとかなるもんだな!」
たかがゴブリン1匹とはいえ、危なげなく勝利した俺は少し自信が湧いてきたのを感じた。パッとしないと思っていた『異能』も、かなり役に立っている。
「っと…浮かれてる場合じゃなかった」
俺はゴブリンが落とした銅貨を拾い、俺は寝ている女の子に近付いた。
「おーい、起きろー」
俺が肩を揺すると、女の子は欠伸をしながら伸びをすると、橙色に輝く目をパッと見開き俺の腕を両手で掴んだ。抱え込むように捕まれた腕には、女の子の柔らかい胸が当たる。
「なっ!?ち、ちょっと…!いきなり何!?」
「フッフッフ…かかりましたね!こんな場所で無防備に寝る、か弱い女の子がいるはずないでしょう!」
「いやどう見ても寝てただろ!」
捕まってしまった俺はひとまず女の子を連れて、『ナナクスの森』を出ることにした。モンスターのいる場所で呑気に話をするわけにはいかない。
「一体何なんだ…?異世界流の当たり屋か…?」
俺は突然の出来事に不安を感じたが、『警戒心』は反応を示していない。どうやら女の子に何らかの企みはないようだ。
「それで…俺に何の用なんだ?俺金は持ってないぞ」
森から抜けると女の子は俺の腕を離し、前に立つと自信ありげに胸を張る。
「ふふん、こんな魔物も強くない場所に1人。あなた…パーティ組んでないですね?」
「そ、それがなんだ」
俺がそう言うと、女の子は前屈みになり俺の顔を下から覗き見る。
「『異能』が強くなくて…誰も相手にしてくれなかった…とか?」
「ぐっ!?」
痛いところを突かれ、俺は冷や汗と共に後退りする。
(な、何なんだこの子…!?いきなり絡んできといて嫌味だなんて…!)
「図星ですね?ふふん…そんなあなたに朗報です!私はエイラ、魔法使いです!突然ですが…私とパーティを組んでくれませんか?」
「…パ、パーティ…?え…いいのか?」
突然の嫌味から更なる悪口を言われるも想定していたが、女の子から告げられたそれは思っても見ないお願いだった。女の子の言う通りギルドでの冷たい対応から、誰かとパーティを組んで冒険は無理だと考えていたからだ。
「なんならこっちからお願いしたいくらいなんだけど…」
「そうでしょう、そうでしょう!」
エイラは目を輝かせて、俺の手を両手で取る。
予想外の出来事に嬉しく思ったあと、俺は軽く自己紹介をする。
「俺はサトウヒロキ、剣士…なのかな?まあ、よろしくな」
「はい!」




