悪魔祓い
「本当…なのか?」
「あぁ…」
俺はアレンの目を真っ直ぐと見て、そう聞いた。するとアレンはゆっくりと頷き、申し訳無さそうな表情をした。
「俺の5つ目の異能は『メモリア』っていってね…」
アレンは一度目を閉じ、再び開くとその瞳は黒く変色していた。これが『メモリア』なのだろう。
「この異能は…意識のない人の記憶を改変できるものなんだ」
「…それで、アイツらが俺達を狙うように仕向けたってことか…」
どうやら本当に今までの戦闘はアレンが作り出したもののようだ。アレンは『未来視』を持っている、エイラやレムが傷つくことを知っていたかもしれない。それでも俺達を戦わせたという事実に、俺は拳を強く握った。
「ヒロキ君…許してくれなくてもいい、ただ…謝らせてほしい…」
そう言ってアレンは深々と頭を下げた。それを見た俺は怒りに任せ、握った拳を持ち上げる。アレンは姿勢を崩さず、目を閉じた。
「本当にごめん…」
「…頭を上げてくれよ、アレン」
俺は握った拳を開き、アレンの肩にぽんと乗せた。するとアレンは驚いた表情で顔を上げる。
「で、でも…俺のせいで君達は…!」
「確かに…エイラやレムが傷付いたのには怒ってる。…でもアレンには『未来視』があるし、本当にヤバかったら助けに来てくれてたんだろ?」
「…!それはそう…だけど…本当に許してくれるのかい…?」
「おう。世界を救うためだって思うから。それに、アレンから悪意は感じなかったからな」
「…『警戒心』か、なるほど」
「まあ、それもあるけど…もし俺の異能が『警戒心』じゃなくても同じこと言ってると思うよ。…てことで、俺はそろそろ二人のとこに行くから」
俺は笑顔でそう言って、アレンに分かれを告げてその場を立ち去った。これ以上この場にいても、アレンに余計な気を遣わせてしまうと感じたからだ。
「…ありがとう、ヒロキ君」
「おう!」
俺が離れるのを見送ると、アレンは肩に手を当てて微笑んだ。
(誰も救えてない…か。ヒロキ君…君はその手でもう何人も救ってるよ…)
アレンから離れた俺は、二人がどこにいるのか聞いていなかったことに気づいた。仕方なく俺はギルドに一先ず足を運ぶことにした。ギルドに着いて席に座り、辺りを見回していると背後から声をかけられる。
「なあ、アンタ。悪魔に憑かれてるだろ」
「え…?」
振り返るとそこにはベストを着た小柄な男が立っていた。その首元には十字架のペンダントが掛けられている。その男は俺の返答を待たずに腕を掴むと、俺を無理矢理外に連れ出した。
「き、急に何…!?」
「アンタは悪魔に憑かれてる。手遅れになる前に早く祓わないと」
そう言うと男は、ポケットから緑色の水晶を取り出した。男がそれを起動すると、水晶は光り輝いて俺と男を包んだ。その眩しさに目を閉じ、再び目を開けると俺は教会のような場所に移動していた。
「急で悪いが…今からアンタに憑いてる悪魔を祓う。少し痛いだろうが、アンタを助けるためだ。我慢してくれ」
そう言い放つ男は拳を強く握っていた。その拳は暖かい光を纏っており、金色に輝いていた。
「『威光』…!」
(い、異能か…!?いやそれより…本当に戦うつもりなのか…!?)
男からは『警戒心』でも悪意や殺意を感じなかった。しかしその目は真っ直ぐに俺を見据え、俺に殴りかかろうとしている。俺のオーメンを祓うことで、助けようとしているのだろう。
「行くぞ…!」
「ま、待て待て!」
俺の制止も聞かず、男は光を纏った拳で殴りかかってきた。なんとか捌いて避けるも、男は立て続けに攻撃を繰り出した。
「チッ…何で避けるんだ!」
「いきなり殴られたら避けるに決まってるだろ!?」
「悪魔を祓うのに必要なんだ!それとも…悪魔に体を乗っ取られて死にたいってのか!?」
この男は善意で拳を振るっている。しかしこの力は俺にとって、そして世界にとって必要なものだ。祓われるわけにはいかない。
「この力は…オーメンの力は俺に必要なんだ!だからやめてくれ!」
「オーメン…?」
男は突然殴りかかるのをやめると、ポケットからメモ帳を取り出した。そして何枚かページをめくり、首を傾げて考え込んだ。
「オーメン…、なるほど…アレンに憑いてるのと同じ悪魔か…」
そう言うと男は何か合点したのか頷き、俺に向かって頭を下げた。
「すまなかった、いきなり殴りかかったりして」
「い、いや…わかってくれればいいけど…」
どうやらこの男は、アレンもオーメンの力を持っていることを知っているようだ。もしやアレンにも、俺と同じような方法でここに連れてきて殴りかかったのだろうか。
「アレンも拉致したのか…?」
「おい、俺を誘拐犯かなんかと勘違いしてないか?」
(似たようなものだと思うけど…)
「アレンは直接ここに説明しに来たんだ。オーメンの力がこの世界に必要だってこと。そしてそれを祓わないでほしいってことをな」
そう男が説明していると、突然外が騒がしくなった。大勢の子供が嬉しそうにはしゃぐ声が響いている。すると男は頭を抱えた。
「…また来たのか…」
男はそう言って外へと向かってしまった。俺も後を追い外へ出ると、そこには大勢の子供に囲まれるアレンが立っていた。
「お!ダイン、そこにいたんだね。あれ?ヒロキ君も一緒だったんだ」
「アレン…また持ってきたのか?」
「あぁ、皆に分けてあげて」
アレンの手には大きな箱が抱えられていた。その装飾から見て、中身はお菓子のようだ。この子供達へのプレゼントなのだろう。
(貧乏なアレンが…プレゼント…?)
「じぁ、俺はこれで失礼するよ」
子供達に手を振ると、アレンは足早に帰ってしまった。そしてダインと呼ばれていた男はプレゼントを受け取ると、ため息をついて協会の横に建っている屋敷に向かった。
「わーい!お菓子だー!俺が最初ー!」
「私が最初!」
「順番な」
俺も後ろを付いていき屋敷に入ると、そこには子供が遊べるようなオモチャがあったり、食事をするスペースがあったりと幼稚園のような空間が広がっていた。
「…さて、じゃあ順番に配るぞー」
ダインは行儀よく一列に並んだ子供達に、一つずつお菓子を配った。俺もなんとなく最後尾に並んでいたが、お菓子の数はピッタリだったようで、箱の中は空っぽだった。
「えっと…ヒロキって呼ばれてたか?アンタも欲しかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないよ…。というか、またって言ってたけど…こういうこと何回もあったのか?」
「あぁ…、いらないとは言ってるんだけどな…。アレンのやつ…自分は悪行を繰り返してきたから、その罪滅ぼしだなんだとか言って譲らないんだ…。どうせまた…」
ダインは空っぽの箱の端を掴んだ。どうやら二段目があるようで、その蓋を外すと中には大量の金貨が入っていた。
「えっ!?」
「はぁ…」
アレンが言っている悪行とは、今まで転生者を危険に晒してきたことだろう。どうやらアレンが貧乏なのはこれが関わっているようだ。




