最強の兄妹
ヒムロとアレンの戦いを見届けた俺達は、学校を離れて金稼ぎに行くため外へと向かっていた。その途中、帰路に着くヒムロに出会った。
「…ん?ヒロキさん達も来ていたのですか?…至らない所を見せてしまいましたね」
「いやいや…全然そんなこと無かったですよ」
真剣な顔でそんなことを言うヒムロに、俺は若干ツッコミのような返答をした。それと同時にアレンが過去にも同じようなことがあったような発言をしていたことを思い出し、今のところ勝ち星はどちらが多いのか気になった俺は、ヒムロに直接聞いてみることにした。
「あれで何勝何敗なんですか?」
「何回戦ったかは覚えてませんが…今日も含めて結果は全敗ですね」
「えっ!?」
確かにアレンの戦いは『最強の冒険者』と呼ぶに相応しいものであったが、ヒムロが全敗しているという予想もつかない返答に、俺達は口を揃えて驚いた。
「私ももっと強くならないと…」
ヒムロはそう言うと、何か思い出したように目を開いた。
「そういえばヒロキさんは今朝の特訓どうでしたか?何か得られましたか?」
「いや…まあ、アレンは強くなったって言ってくれたけど…。いまいち実感が無くて…」
俺が自信なさげにそう言うと、ヒムロは微笑みながら俺の肩にポンと手を乗せた。
「大丈夫ですよ、ヒロキさん。エイラさんにも言いましたが、強さとは元より正解のないものです。必要なのはその強さを求める目的にあります」
「目的…」
「そうです!強い目的を持って努力すれば、強い力を得られるんです!」
エイラは何やら自慢するように胸を張って言った。恐らく強さを求める明確な目的があるのだろう。
「なるほど…。じゃあ、エイラの目的は何なんだ?」
「…えっ!?えっと…秘密です…」
聞かれると思っていなかったのか、エイラは恥ずかしがりながらそう答えた。なぜ隠すのか気になり聞き出そうとしたとき、ヒムロが先に口を挟んだ。
「それで、ヒロキさんは何のために強さを求めるのですか?」
「俺は…」
そう言って俺はエイラとレムの方を見た。
「…誰かを守るためです」
「…良い目的ですね。ヒロキさんなら、きっと強くなれます」
ヒムロは微笑みながらそう言った。ありがたい激励を貰い、俺がヒムロに感謝を伝えていると、レムがヒムロの側に近寄り袖を引っ張った。
「お前の目的はなんなんだ?」
「私ですか?真似のようになってしまいますが…私も人を守るためです」
「守るって…それだけ強ければ守れるんじゃ…?」
「私も前まではそう思っていました。ですが…」
そう言ってヒムロは視線を落とすと、自分の腹部に手を当てた。その位置は大きな傷跡があった場所だった。
「この傷が、まだ足りていないと…そう言っている気がするのです」
「……」
少し眉間にシワを寄せ、ただならぬ雰囲気でそう語るヒムロに、俺達は言葉を失ってしまった。
「あ…すみません、呼び止めてしまいましたね。では、私はこれで失礼します」
「あ、はい」
スタスタと足早に去っていくヒムロの背中を見送り、俺達は金稼ぎへと向かった。特訓や、ヒムロとアレンの観戦で時間があまり無かったため、今日はひとまず『ナナクスの森』で金稼ぎをすることになった。暫く森に留まりながら順調にゴブリンを倒し、夕暮れ時には十分な銅貨を得ることができた。
「これで足りるかな」
「ですね!帰りましょう!」
「お腹すいたな…」
「帰る前に私の魔力食べますか?」
お腹を擦るレムにエイラがそう言うと、レムは喜んだ顔で大きく頷いて魔力を食べ始めた。
「美味しい…!」
そう言いながらエイラの指をくわえるレム。俺は恥ずかしくて見ていられなくなり、2人から視線を逸らした。
「ごちそうさま!」
そしてレムの食事が終わり、俺達はギルドに向かった。無事ギルドに着き、俺とエイラも食事を摂るために席に座っていると、アレンがギルドの入口の方から近付いてきた。
「お、冒険の帰り?俺も座っていいかい?」
「おう」
俺はそう返事をしたが、アレンは俺が返事をする前に席に座っていた。
「それにしても…アレン、今日の戦い凄かったな」
「かっこよかったです!」
「アハハ…そう褒められると照れるな…」
微笑みながらアレンはそういった。確かに今日の戦いも凄かったが、ヒムロ相手に全勝しているというところも驚きだ。
「ヒムロさんが言ってたけど…全勝してるんだって?」
「うーん…まあ一応ね。でもヒムロが本気で戦ったら流石に勝てないよ…」
「あれでまだ本気じゃないのか!?」
「ヒムロの魔力は尋常じゃないからね…。あの魔力を全部使って『獄氷』を撃ったら…簡単にこの国丸ごと氷の塊にできるよ」
ヒムロの魔力については、前にエイラも話していた。恐らくアレンが言っていることは冗談ではないのだろう。どうやらこの兄妹は互いに化け物らしい。
「ところで…明日も冒険に行くのかい?」
「え?まあ、そのつもりだけど。何かあったのか?」
「いや、二人共強くなったし…そろそろ新しい場所に冒険に行ってみたらどうかな。と思って」
そう言われて、エイラと稼ぎ場所を変える話をしていたことを思い出した。エイラの方を見てみると、目を輝かせて頷いている。
「行きましょう!ヒロキさん!」
「だな。レムもそれでいいか?」
「おう!」
「そっか…じゃあ頑張ってね」
アレンはそう言うと、席を立って外へ行ってしまった。




