アレンvsヒムロ
闘技場では学校の生徒や教授が場を囲うように並び、総勢で巨大な結界を張っていた。これだけで二人の戦いが凄まじいものであることが分かるだろう。
「…なあ、今日は特訓で疲れてるし…今度にしないか?」
「そろそろ決闘の時間ですよ、兄さん」
「話を聞いてくれよ…」
アレンはどうにか決闘を逃れようとしているが、ヒムロは目を閉じて開始をただ待っていた。アレンも観念したのかため息をつくと、剣を構えて戦闘態勢をとった。壁にかけられた巨大な時計が12時を示すと、その瞬間にヒムロが『獄氷』を構えて抜刀した。
「ハァッ!」
放たれた氷がアレンを覆い尽くした。勝負合ったかに思えたが、アレンは悪意と共にその氷を弾き飛ばした。恐らくオーメンの力を使ったのだろう。
「うおー!アレンさん、やっぱすげー!」
『番人』の初撃を軽くいなすアレンに、周りの人達は大いに盛り上がっていた。しかしヒムロは弾かれると感じていたのか、既に納刀しておりアレンへと距離を詰めた。
「さて…どうするかな…」
ヒムロの異能でアレンは自分の異能を封じられている。接近戦になれば異能が使えない分、より実力で勝る方に勝機があるだろう。
(来る…!)
ヒムロは一歩大きく踏み込むと『獄氷』を抜かず、そのまま持ち手をアレンの顔に突き付けた。体を左に反らしてアレンが躱すのを見ると、ヒムロは腰を落として抜刀の構えを取った。
「ヤバ…」
アレンは咄嗟に抜刀したヒムロの右腕を左手で押し出し、刃の切っ先を自身から反らした。その鋭く振るわれた『獄氷』は、アレンの横を結界を這うようにアーチを描いた。
「…『連獄』」
「…!?」
ヒムロは納刀せずにそのまま身体を一回転させると、『獄氷』の刃に手を添えて氷を纏わせた。そして再び刀を横に切り払う。
「くっ…!」
アレンは『獄炎』を刀の腹に振り、攻撃を弾いた。氷を纏った刃は『獄氷』と遜色ない威力で放たれ、再び結界を凍りつかせヒビを入れた。
「危なかった…」
そう言いながら体勢を立て直すと、アレンはヒムロに距離を詰めた。そして続け様に攻撃を繰り出し、納刀をさせないように立ち回った。アレンはまだ『獄炎』の力も魔法も使っていない、つまりヒムロ相手に剣術のみで戦っているということだ。『最強の冒険者』の名は伊達じゃないらしい。
「流石ですね、兄さん…!」
「ヒムロもまた強くなったな…!」
気付けば二人とも微かな笑みを浮かべて戦闘していた。ヒムロもアレンも本心では戦闘を楽しんでいるのだろう。
そして戦いは続き、互いに距離を詰めて鍔迫り合いとなった。ヒムロがアレンを強く押し出し、バックステップで距離を取ると、アレンは納刀を警戒して距離を詰める。その瞬間、ヒムロからただならぬ殺意を感じた。
「『獄牢』…!」
ヒムロが地面に『獄氷』を突き刺すと、氷の半球がアレンとヒムロを覆った。氷は不透明で外からでは中の様子が分からず、周りの生徒達はざわつき始める。その一方、氷の中では一時静寂が訪れていた。
(視界が悪い…氷の粒が舞ってるのか…)
薄暗い氷の中は視界が悪く、アレンは下手に動くことは止めて剣を構えた。その背後から忍び寄るようにヒムロが攻撃を仕掛ける。
(後ろか…!)
その攻撃に一早く気付き、アレンは体を捻って反撃を繰り出した。その一撃はヒムロの攻撃よりも速く、胴に命中した。
「なっ…!?」
ヒムロのように見えたそれは、攻撃を受けるとバラバラに砕けた。どうやら魔法で造られた氷の分身だったようだ。更にその分身は一体だけではなく、アレンがそれを対処すると、その背後から二体の分身が攻撃を仕掛けた。
「次は二体か…!」
アレンとはいえ視界の悪い中での二対一は対処しきれず、あっという間に端に追い詰められてしまった。
「……」
紅く変色した瞳でアレンを見据えるヒムロは既に納刀しており、腰を落として抜刀の構えを取った。
「ハァッ!」
放たれた『獄氷』は二人を覆っていた氷を突き破り、巨大な氷塊を創り上げた。
「ヒムロさんの勝ちか!?」
そう生徒達が話し始め、ヒムロの勝利かと思われたその時、覆われていた氷の内側から淡い紅色の光が灯り始めた。そして『獄氷』を含む全ての氷が一瞬にして昇華し、激しい衝撃波が建物全体に吹きすさんだ。
「な、何だっ!?決闘はどうなった!?」
目も開けられない程の風が止み中央を見ると、アレンが炎を纏った『獄炎』をヒムロに突き付けていた。アレンの勝利のようだ。
「何故…防ぐことができたのですか…?」
「『獄氷』は抜刀する性質上、扇状に放たれる。それを確実に当てるためには俺から反対側から放つのが妥当だ」
アレンの言う通り、あの狭い氷の中で『獄氷』を当てるには、対象からより離れたほうが妥当だろう。あとは放たれる方向さえ分かっていれば、オーメンの力で防ぐことができる。
「つまり…わざと壁際に近付いたのですね」
「まあね」
「完敗です…、もっと精進しなければ…」
勝負が付き、二人は出口へと向かっていった。その背中に大きな拍手と歓声が送られていた。




