ヒムロの嘘
特訓を終えた俺とレムはアレンの後を着いて行き、ヒムロとエイラのもとへと向かっていた。しばらく歩くと、アレンは大きな門の前で立ち止まった。その門の奥には巨大な建物が聳えており、周りには同じ制服を着た人が歩き回っていた。
「学校…か?」
「そう。ここはメンクス魔術学校、俺とヒムロの母校さ」
門をくぐって歩きながら話していると、突然アレンを取り囲むように生徒が走り寄ってきた。その勢いは凄まじく、俺とレムは弾き出されてしまい、レムに至っては躓いて転んでしまった。
「レム、大丈夫か?」
「痛た…なんなんだよコイツら…」
生徒に睨み付けるレムの手を引き、俺はレムを立たせた。その後アレンの方を見たが、アレンの姿は生徒に隠れて見えず、話だけが聞こえてきた。
「来てたんですね、アレンさん!やっぱり噂は本当だったんだ!」
「だから俺の言った通りだったろ!クゥ~、ワクワクするぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!噂って何の話…?」
アレンが制止をかけると、取り囲んでいた生徒達は静かになった。そして噂を仕入れてきたであろう男子生徒が、その噂について話し始めた。
「ヒムロさんとアレンさんが決闘するって話ですよ!」
「えっ…?誰がそんな事を…」
「ヒムロさんが言ってました!」
学生がそう言うと、アレンは頭を抱えてため息をついた。そして一息つくと、頭を上げた。
「…そうさ、今日はヒムロと決闘をするんだ…」
アレンが渋々そう言うと、周りの学生は大喜びで校舎の方へと向かっていった。まるで嵐のような出来事に唖然としていると、アレンが再び大きなため息をついた。
「はぁ…今日はついてないな…」
「ヒムロさんと戦う予定だったのか?」
俺がそう聞くと、アレンは今まで見たこともないような嫌そうな顔をした。
「『番人』さんと戦う予定なんて、あるはず無いじゃないか…。ヒムロがあの子達に嘘をついたんだろう…」
「な、なんでそんなことを…」
「…ヒムロは時々自分の力を試したくなるみたいでね…、それに俺を巻き込むんだ…。あぁ、行きたくないな…」
「…断ればいいんじゃ?」
「それが…ああ見えてヒムロはしつこいんだ。それに、これは必要な事でもあるしね…」
アレンは視線を落とし頭を抱えながら、ゆっくりと校舎へと歩き出した。そして何か思い出したように振り返り、校舎から少し離れたところにある建物を指差した。
「あぁ、そうだ…保健室があそこにあるんだ。エイラちゃんはそこにいると思うよ…」
「お、おう」
切ない背中を見送り、俺はレムを連れて保健室へと向かうことにした。その途中レムがニコニコしており、上機嫌になっていることに気付いた。
「なんか…上機嫌だな?」
「当たり前だ!『獄炎』と『獄氷』が戦うんだからな!」
レムは目を輝かせながらそう言った。『最強の冒険者』アレンと『番人』のヒムロが戦う、そう改めて考えると俺も少し楽しみになってきていた。
「ほら、早くエイラのとこに行って見に行こう!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
俺の手を引くと、レムは走って保健室へと向かった。突然のことに転びそうになりながら、俺はレムと共に保健室へと辿り着いた。
「ここだな」
ドアを開けて中に入るといくつかベッドがあり、その内の一つにカーテンが掛けられていた。そこで寝ているのだろうと思い、俺はカーテンを開けて中を確認した。
「キャァ!?」
「うわっ!?」
中では何かの治療が行われていたようで、上半身裸で背中を向けるエイラと、白衣を着たエリーが回復魔法を使って治療を行っていた。
「し、失礼しました!」
すぐにカーテンを閉じて俺は背を向けた。すると俺の背後では、嬉しそうにニヤニヤするレムが俺を見ていた。
「覗きは良くないな〜」
「ふ、不注意だったんだよ!」
「とか言って、ホントは見たかったんじゃないの〜?」
「違うわ!」
イジってくるレムに対応していると、カーテンの中にいるエリーもイジってくる。耐えかねた俺は保健室にレムを残し、外で皆を待つことにした。少し待っているとエリーが二人を連れて来た。
「お待たせ〜」
「…てか、何でエリーがここに?」
「何で…って、ここで働いてるからだけど?」
エリーは首からかけていた保険教師の札を俺に見せながらそう言った。何故かつて世界を脅かした存在が、普通に働けるのだろうか。
「何で働けてるんだ。って思ってるでしょ?」
「まあ…」
「フフン…理由は二つ、一つは顔の広いアレン様がお友達だから。そしてもう一つは、私は特別な存在だから」
「…なるほど」
二つ目の理由はよく分からなかったが、一つ目の理由が大きく関わっているのだろう。
「…ところでヒロキさん、さっき大騒ぎでここの生徒さんが走ってましたけど…。何かあったんですか?」
「あ、そうだった。アレンとヒムロさんが戦うんだってさ」
それを伝えた途端、エイラとエリーは目を輝かせて見開いた。そしてこうしちゃいられないと言わんばかりに、校舎に向かって走り出してしまった。
「お、おい!早く行くぞ!」
レムも俺の手を引くと校舎へと走り出した。校舎内を走る生徒達の後を追い、俺達は闘技場と似た造りの建物に辿り着いた。その中央では真剣な表情をするヒムロと、あからさまに嫌そうな顔をするアレンが立っていた。




