アレンとの特訓
アレンと剣術の特訓をすることになった俺は、レムを連れて闘技場にやって来た。アレンがこの特訓のために特別に借りてくれたらしい。
「よく借りれたな…」
「まあ、俺は顔が広いからさ」
ニコニコしながらそう言うと、アレンは闘技場の中央へと歩き出した。そして背中の剣を抜くと、俺に切っ先を向けた。
「さて…じゃあ早速だけど、始めようか」
「あ…ああ!行くぞ、レム!」
「おう!」
レムは大きな声で返事をすると、その体を剣に変えた。俺は両手で握り、構えを取ってアレンと対峙する。
「ふむ…そうだな…。『異能』は使ってもオッケー、でも魔剣の能力はダメってルールでどうかな?」
「…え、実戦でやるの?…危なくない?」
「大丈夫。怪我しても俺の『シルフの瞳』で治すから。それに…」
そう言うとアレンは一度目を閉じ、再び両目を開けた。その瞳は蒼色に変色しており、『未来視』を発動しているようだった。
「ヒロキ君の剣は当たらないだろうからね」
「…!言ったな…!」
確かにアレンの強さは圧倒的だ。むしろ当てるつもりで戦う方が得られるものも大きいのかもしれない。俺は思い切ってアレンに走り寄った。
「ハァ!」
アレンに向かって剣を縦に振ると、それを知っていたかのようにアレンは体を横にずらして躱した。次に縦に振った剣を横手に構え、もう一度振ったが再び躱されてしまった。
「うん、悪くないね」
アレンはそう言うと俺をバカにするかのように微笑む。そして手を捻り剣を回転させると、殺気を向けて距離を詰めてきた。
(来る…!)
アレンは剣を振り上げると、俺の頭上から振り下ろした。『警戒心』で来ると分かっていた俺は、剣を顔の前で横向きにし、ガードの構えを取った。
するとアレンは右足を一歩踏み出し、剣の持ち手で俺の剣の腹を突き出してガードを崩した。間髪入れずにアレンは剣を振り俺の首筋に寸止めした。
「…まずは、一本」
「くっ…」
俺の目を見ながらアレンはそう言った。その瞳は普段の紅色に戻っており、『未来視』は使っていないようだった。
「も、もう一回だ!」
俺は再び剣を構えて、アレンへと距離を詰める。そしてさっきと同じ様に縦に振り下ろすが、アレンはもう一度『未来視』を発動しており、俺の攻撃をいともたやすく躱した。どうやら俺の攻撃のときにのみ『未来視』を使っているようだ。
「うーん…悪くないんだけどな…」
「く、くそ…あ、当たらない…」
かれこれ数時間やっているが、未だに俺の攻撃は当たっていない。何度かアレンの真似をしてフェイントをかけてみるが、体がついてこず容易く避けられてしまう。
「惜しいね」
「まだだ…!」
振り下ろした剣をそのまま振り上げるが、アレンはこれも余裕そうに躱した。
(『憑依』…!)
端から躱されると感じていた俺は、あえて剣を振り切らずに失速させ、空中に剣を置くように手を離して『憑依』を使った。
「…!」
アレンは驚いたように目を開くと、すぐに剣の方へと視線を向けた。俺は空中で『憑依』を解除し、握った剣をアレンに振り下ろす。
(これは間に合わないな…)
アレンは『獄炎』を振り上げて俺の剣を弾いたあと、バックステップで俺から距離を取った。
「…これでも駄目か…」
「そんなことないさ。正直驚いたよ」
「ほんとかよ…」
「さあ、続けるよ」
相変わらずのマイペースで話を切ると、アレンは『未来視』を使わずに俺へと距離を詰めた。『警戒心』を頼りに一振り目を避けたがアレンの剣捌きは素早く、すぐに二振り目を繰り出した。
(避けられない…!)
避けることはできないと感じた俺は、迎え撃つように剣を振った。そして俺の剣とアレンの剣がぶつかる直前、俺は剣を失速させもう一度『憑依』を使った。
俺を狙ったアレンの剣が空を斬るのを確認し、俺は『憑依』を解除してアレンに剣を振るう。
(当たる…!)
そう思った時、アレンの姿が俺の目の前から消えた。何が起こったのか分からず周りを見渡すと、アレンは俺の背後に立っており、その瞳は橙色に変色していた。
「その目…『次元の目』…なのか?」
「ん?あぁ、見せるのは初めてだったね。そう、これが俺の『次元の目』。説明するのは難しいんだけど…今のは次元に穴を空けてワープしたんだ」
「な、なんでもありかよ…」
本当に当てることができるのか疑問に思うほどの力の差に、俺は落胆しそうになりながらも再び剣を構える。しかし何故かアレンは剣を鞘に納めた。
「…特訓はここらで終わりにしよう」
「…え?ま、まだ何も得られてないんだけど…」
「それはヒロキ君が強くなったからさ。少なくとも俺の想像よりは遥かに強かった」
そう言うとアレンは俺の方へと歩いて近付いた。
「ヒロキ君の攻撃は『未来視』である程度見えてたけど、本当は全部避けるつもりだったんだ。…それに『次元の目』も使う気はなかった」
「そんなこと言ったって…実感が無いよ…」
何も得られていない感覚は変わらない俺は、自信なさげに視線を落とした。するとアレンは微笑んで右手を俺の左肩にポンと乗せた。
「大丈夫、ヒロキ君は確実に、どんどん強くなってるよ。俺が保証する。…それに、凶悪な相手にも勝ってきたんだろう?」
「ま、まあ…レムの助けがあったからではあるけど…」
「…凄いことじゃないか、…本当に」
そう言うと、アレンは不意に俺から目を逸らして悲しそうな表情を見せた。
「…?どうしたんだ?」
「ううん、なんでもないよ。さあ、ヒムロとエイラちゃんのところへ行こう。向こうの特訓もそろそろ終わるだろうから」




