旅立ち
女の子からのビンタを代償に自分の『異能』を確認した俺は、気を取り直して蒼い石の使い方を確認することにした。
その石は綺麗な正八面体をしていて、その8つの面の内1つに金色の紋章が入っている。
「なんだこの紋章…?」
気になりその面に触れてみると、石は突然強く輝きだして俺を包んだ。
「…ん?」
目を開けるとそこはあの真っ暗な空間だった。振り返ると座り心地のいい高そうな椅子に、女の子が偉そうに座っている。
「…何か困りごと?それとも質問?」
「あ、いや…使い方の確認してただけで…」
それを聞くと女の子は眉をピクッと動かし、大きなため息をつく。表情こそ変わらないが『警戒心』が無くてもわかるほど、女の子からは怒りを感じた。
「わ、悪い…すぐ帰るよ…」
女の子の機嫌をこれ以上損ねないようにするべく、俺はもう一度蒼い石を使おうとした。なんで高校生の俺がこんな小さい子のご機嫌取りしなくちゃいけないんだ、そう思ったとき俺はこれまでの状況を振り返って1つの可能性を考えた。
(…え?もしかしてあの子…神様かなんかだったり…?)
全身から冷や汗が溢れる。よくよく考えれば簡単にわかることだ。この子が転生させてくれたんだ、人の命を操るだなんて人の所業ではない。
「えっと…もしかしてなんだけど…君って神様だったりする…?」
俺がそう聞くと女の子は少し視線を逸らしたあと、再び俺の方を向いて答えた
「私は…ゼウス。そう呼びなさい。まあ神様…みたいなものね」
「あっ…へー…やっぱそうなんすね…じゃ、じゃあ俺はこの辺で…」
俺はそう言いながら逃げるように蒼い石を使い、元の異世界に戻った。俺を転生させてくれたありがたい神様だ。気分を逆撫でするような真似は極力避けるべきだろう。
「ま、まあ気を取り直して異世界を楽しむとしよう!」
まずは情報収集からだ。異世界といえばあらゆる冒険者達が集まる、冒険者ギルドみたいなものがあるはずだ。そこならある程度の情報が得られるだろう。
「人に聞いて探すしかないかな…」
道行く人に場所を聞いて回りながら少し歩くと、他の建物よりも一段と大きい建物にたどり着いた。どうやら到着したようだ。
「…よし、行くぞ!」
大きな扉を押し開けて中に入ると、冒険者と思われる人達がそれぞれ飯を食ったり、会話に花を咲かせていたりと賑わっていた。
(思ったよりも広いな…!)
想像以上の広さにキョロキョロとギルドの中を見ていると、奥の方に受付のようなカウンターがあることに気づいた。俺がそこに近づくと、カウンターの向かいに座っていた女性がニコッと微笑む。
「いらっしゃいませ!本日はどうされましたか?」
「あ、俺ここ初めてきたんですけど…」
「旅の方ですね?職業は…冒険者ですか?」
女性は俺の身なりを見てそう言った。しかし俺は名乗れるような職業がない事に気づき、しばらくの沈黙が俺とカウンターの女性に流れた。無職だと思われているのだろう。間違っていないが。
「えっと…冒険者として登録しに来た…とか?」
「あ!そうそれ!そうなんです!」
取り付く島を見つけた俺は大きな声で食いついた。
「でしたら、こちらに手を置いてください!」
そう言うと女性は手形の書かれたプレートのような物をテーブルに置いた。俺は言われた通りに右手をプレートに置く。すると眩い光と共に、プレートに幾つもの文字が浮かび上がった。
「おお…!」
暫くしてプレートの文字が浮かび上がらなくなると、プレートの女性側から1枚のカードが排出された。女性がそれを手に取ると、女性は驚いたような表情でカードを見つめる。
「えー…サトウヒロキさん、い『異能』が2つ!?」
女性がそう言うと周りは話をやめて俺の方に目を向ける。ゼウスの言っていた通り『異能』を2つ持つ者は、この世界ではかなり珍しいようだ。
「え、えっと…物に乗り移る『憑依』と悪意や殺意に反応が強くなる『警戒心』…ですね」
女性の説明により俺の『異能』が判明すると、周りの冒険者達は再び話を始めた。自分で使ってみても思ったが、やはりこの2つの『異能』はパッとしないものらしい。まるで興味がなくなったかのような反応に、俺は若干惨めな気分になったが負けじと対抗する。
「そ、そうなんですよ!俺って『異能』を2つも持ってるんです!ぼぼ冒険者に向いてますよね!」
「え、ええ!そうですね!あはは…」
カウンターの女性は反応してくれたが、周りの冒険者達は誰一人俺を見ることはなかった。
この状況に耐えられなかった俺は、さっさと冒険者になるための手続きを済ませてギルドを後にする。
「くっそ…バカにしやがって…今に見てろよ…!」
そう言いながら俺はポーチから蒼い石を取り出し、あのゼウスのいる空間へと移動した。ゼウスは俺の顔を見ると面倒そうな顔を浮かべた。
「今度は何…?」
「…この嘘つき!全然周りにチヤホヤされないじゃないか!ていうか、むしろ恥かいたぞ!」
ゼウスは確かに『異能』を2つ持つ者はチヤホヤされると言っていた。しかし現実は誰一人として相手にしてくれない。俺がそれについての不満を伝えると、ゼウスはポカーンとした顔で俺を見つめる。
「どんだけチヤホヤされたかったのよ…」
呆れ顔でそう言ったあと、ゼウスは真剣な表情をすると、少しの間俺を見つめた。
「な、なんだよ…」
「まあ…確かにあの反応で傷つくのもわかるわ…悪かったわね…」
「え…」
ゼウスは俺から目を反らすと、少し暗い表情でそう言った。案外素直に謝ってもらえたことに、逆にやりにくくなった俺は蒼い石を使って異世界に戻る。
(な、なんかマズイこと言ったかな…)
異世界に戻ったあとでゼウスの反応が気にかかったが、今からあの空間に行って理由を聞いたところで余計に状況を悪化させるような気がする。
(うん、やっぱりやめとこう…)
少し考えた後、俺はゼウスについて深掘りするのはやめて外の世界に行くことにした。




