約束
腹が減ったと拗ねるレムを連れて宿屋に帰ると、エイラが笑顔で出迎えてくれた。するとレムは俺から離れて、エイラに魔力を食べたいと近寄った。
「エイラ…おなかへったー…」
「え?さっき食べたのにですか?」
「アイツが魔力の話したせいで…」
レムはそう言うと、頬を膨らませて俺の方を指差した。それを見たエイラは微笑むと、レムとベッドに行き魔力をあげ始めた。満足そうに魔力を食べるレムをエイラに任せ、俺は風呂に入ろうとした。しかし忘れてしまう前に、明日のことについてエイラに話しておこうと思い立ち止まった。
「あ…そうだ、エイラ。明日の朝ギルドでヒムロさんと会うことになったんだ、特訓のことで話があるらしい」
「そうなんですか?わかりました!」
エイラに要件を伝えて風呂を済ませ、部屋に戻るとレムとエイラがベッドで横になっていた。エイラは起きていたが、レムはお腹が一杯になったのかぐっすり寝ていた。問題なのはもともと一人用のベッドのため、レムの体が小さいとはいえほぼ空きがなかった事だった。
「…そういえばベッドのこと考えてなかったな…」
「わ、私がソファで寝ますよ!…あ、それか今からもう一部屋借りるとか!」
「いや、今からじゃおばちゃんに悪いし…俺がソファで寝るよ。明日からはニ部屋借りよう」
そう言うとエイラは数秒申し訳無さそうな顔で俺を見たあと、お礼を言ってベッドで横になった。それからしばらくして俺はソファで横になる前に、ポーチから蒼い石を取り出してゼウスのいる空間へ向かった。
「久しぶりね」
移動すると、ゼウスがあの高そうな椅子の横に立っていた。そして俺の手を引くと、その高そうな椅子に俺を座らせた。
「こっちに座っていいのか?」
「ええ、頑張って戦ったご褒美ってとこよ」
そう言いながら、ゼウスは何処からか見覚えのあるブランケットを取り出して俺の膝にかけた。
「お望みだった魔力も手に入って、良かったじゃない」
「確かに…。レムも一緒に来てくれることになったし、戦いにも慣れてきたし…最初に比べたら大分強くなれた気がするな…」
今までのことをこうして振り返ってみれば、転生した頃に比べると、世界を救うという目標に少しは近付いたように感じた。
「ゼウスから見ても、そう思うか?」
「そうね。でも…正直に言うと、最初はアンタじゃ世界は救えないと思ってたわ」
「なっ…!いくらなんでも酷くない…?」
ゼウスからの突然の罵倒に俺は落胆してしまった。それをゼウスはクスクスと笑う。
「フフ…悪かったわ。…でも、今はアンタなら救えるかもって思ってる、本当に」
ゼウスは俺の目を見るとそう言ったあと、視線を落とした。
「少し前に…ここにいるゼウスは『異能』を使いこなせない失敗作だって話をしたでしょ?」
「あ、ああ…してたな」
「だから私…今でも『異能』が凄く嫌いなの。…でも、アンタはそれ以上に努力が大切だ、って言ってくれた。そしてそれを証明するように、決して強くない『異能』でも努力して、戦って、勝ってきた」
ゼウスは少し前屈みになると、座っている俺の目に視線を合わせた。
「ねえ、ヒロキ…私に協力できることは何でもするから。だから…約束しましょ?共に世界を救うこと、そして…『異能』が全てじゃないと証明すること」
「…ああ」
「ありがとう…。えっと…確かアンタのいた世界では、こうするのかしら?」
俺が頷くとゼウスはそう言って、右手の小指を立てて俺に向けた。俺は同じように右手の小指を立て、ゼウスと指切りげんまんを交わした。
「…約束よ?」
「ああ、約束だ!」
俺はゼウスにそう言い、別れを告げて宿屋に戻ってきた。そして蒼い石をグッと握ってポーチにしまい、俺はソファで眠りについた。
次の日、俺はレムの強烈なダイブで目を覚ました。
「起きろーー!!」
「グゥ!?」
俺はソファから転げ落ち、痛みとともに目を覚ました。眠い目をこすりながら顔を上げると、既に準備を整えたエイラとレムが立っていた。
「おはようございます、ヒロキさん!急がないとヒムロさんに怒られちゃいますよ!」
「あ、あぁ…悪い」
俺は床から起き上がり、準備を済ませて二人とギルドへ向かった。ギルドに入ると既にアレンとヒムロが席に座っており、俺達はそこに加わり食事をしながら話をした。
「それで…ヒロキくんの特訓についてなんだけど…。今のヒロキくんの魔力の量だと、エイラちゃんと同じ特訓はちょっと厳しいと思うんだ」
「う…」
「だから…その代わりと言ってはなんだけど、俺が剣術の特訓をするってのはどうかな?」
アレンは笑顔でそう言った。アレンは最強の冒険者とも言われるほどの人だ、そんな人から受ける剣の指南はきっと有益なものとなるだろう。
「ぜ、ぜひお願いします!」




