ヒロキ復活
「…ん…?」
ゆっくりと目を覚ますと、視界には綺麗な白い天井が映っていた。状況が掴めず起き上がろうとしたとき、右の方から声をかけられた。
「目が覚めましたか」
声の方を向くと、ヒムロが歩いて来ているのが見えた。何があったのか話を聞こうと思い体を起こすと、俺はいつもより体が重い事に気づいた。
「もう少し寝ていたほうがいいですよ。ヒロキさん、かなり重症でしたから」
「あ…」
そう言われ、俺は戦闘で気絶したことを思い出した。どうやらここはギルドの医務室のようだ。しかしこうして助かっているところを見ると、あの男はヒムロが倒してくれたのだろう。
「…!そうだ、レムは無事ですか!?」
「無事ですよ、今はエイラさんと一緒に宿屋にいます」
「よかった…」
俺は安堵して胸を撫で下ろし、全身の力を抜いてベッドで安静にすることにした。そして助けてくれたヒムロにお礼を伝える。
「ヒムロさん、助けてくれてありがとうございました。ヒムロさんがいなかったらどうなってたか…」
「…?私は殆ど何もしていませんよ?」
「え?」
ヒムロの発言に困惑していると、ヒムロは突然何かを思い出したように目を開いた。
「そういえば、あの場にあなた達と私以外の誰かはいましたか?」
「うーん…?いなかったと思いますけど…」
「…そうですか」
ヒムロは顎に手を当てて、何か考え事を始めた。そしてじっと俺を見つめる。
(やはり…ヒロキさんが獄氷を溶かしたのでしょうか…。でも見たところ魔力なんてほとんど無いに等しい…)
(…なんかバカにされてる気がする…)
「…ヒロキさん、気絶する直前の事を詳しく聞いてもいいですか?」
そう聞かれ俺はレムが炎を吸収し、それを振るった所までを詳しく話した。それを聞くとヒムロは少し口角を上げ、立ち上がった。その時のヒムロからは、うっすらと殺意を感じた。
「なるほど…そうですか、分かりました」
「…?」
「…ヒロキさん、体が治ったらいつでもまた闘技場に来てくださいね。レムさんも一緒に」
俺の目を見据えてそう言うと、ヒムロは部屋を出ていってしまった。何だったのだろうと思いながらも、俺は体を休めようとひとまず目を閉じた。それから少し時間が経つと、ヒムロの立ち去った方向から足音が聞こえた。目を開けるとギルドの制服を着た女性が、大きめのお盆を持ってベッドに近づいて来ていた。
「こんにちはヒロキさん、具合はどうですか?」
「ちょっと体が重いくらいですかね」
「そうですか、わかりました」
そう言うと女性はベッド横のテーブルにお盆を置き、その上にあった透明な容器を俺に手渡した。その容器には緑色のドロドロとした液体が入っている。
「え…?こ、これは…?」
「回復薬です。昨日までは点滴で行ってましたが、状態も良くなったようなので経口に変更になりました」
(これを、点滴していた…!?)
左右に容器を傾けるとゆっくり、へばり付きながら移動する液体を眺めながら俺は恐怖していた。昨日これを体に流していたこと、そしてこれを今から飲まなければならないことに。
「…?どうされましたか?」
「い、いや…」
女性は俺が飲み干すのを待っている。他にも仕事は山ほどあるだろう。俺は唾を飲み込み、覚悟を決めて容器に口を付けた。
(いくしかない…!)
俺は缶ジュース程の量の回復薬を一気に飲み干した。味は形容しがたいものであったが、すぐにそれを忘れるほど俺は自分の体の変化に驚いていた。体の重さが嘘のように無くなっていたのだ。
「まだ体の重さはありますか?」
「治った…みたいです」
ギルドの女性は回復薬の効力を確認すると、いくつか体調に関して質問を行った。そしてもう体に問題がないことを俺に伝えると、ギルドの外まで俺を見送ってくれた。
「…さて、まずは宿屋に行くか」
エイラとレムは今宿屋にいるとヒムロが言っていた。まずは二人に会おうと、俺は宿屋へと歩を進めた。宿屋に到着しドアを開けると、いつも通りカウンターにばあちゃんが立っている。エイラ達が来ているか確認すると、ばあちゃんは部屋へと二人を呼びに行った。すると間もなくして階段を駆け降りてくる足音が聞こえ始めた。
「ヒロキさん!もう体は大丈夫なんですか!?」
「お、大袈裟だな…。もうなんとも無いよ」
「大袈裟じゃないですよ!3日も目を覚まさなかったんですよ!?」
エイラは俺にしがみつくと、涙ぐみながらそう話した。俺はあれから1日しか経っていないと思っていたが、どうやら本当に重症だったようだ。とにかく俺は心配させないようにエイラの肩を軽く抱いた。
「本当になんとも無いよ。心配させて悪かった」
そう言いながらエイラをなだめていると、階段から再び足音が近づいてきた。目を向けるとそこにはレムが立っていた。
「レムか、…無事で良かったよ」
「それはこっちのセリフだ!ま…まあ、なんだその…ありがとな…」
レムは俺から目を逸らしながらそう言った。その可愛らしい様子に俺が笑うと、レムは恥ずかしがりながら怒鳴りつけた。
「わ、笑うなよ!」
「ハハ…悪い悪い。…さて、立ち話もなんだし一旦部屋に戻ろうぜ」
宿屋のばあちゃんに俺の分の金を払い、俺達はひとまず部屋に戻った。そして俺は気になっていた事をレムに聞いた。
「そういえば…レムはこの後どうするんだ?」
「…?どうするって…お前の魔剣として一緒について行くつもりだけど」
それを聞いて俺は驚いてしまった。初対面では魔力がないからという理由で、あれだけ避難されていたというのにどうしたのだろうか。
「俺…魔力無いんだぞ?」
「何言ってるんだ…?あの戦いで手に入れてたじゃないか、覚えてないのか?」
「え…?」
あの戦いの記憶が曖昧な俺は、レムから語られた事実に驚愕した。そして目を輝かせながら、レムの両肩を持ち引き寄せる。
「ほ、本当か!?俺、魔力持ってるのか!?」
「お、おう…そのはずだぞ?」
そして俺は次にエイラに近づき、目を輝かせて両肩を持った。
「エ、エイラ!魔力の量見るやつ持ってるか!?」
「は、はい!ちょっと待っててくださいね」
そう言うとエイラは、あの魔力を測る水晶をベッドの上に乗せた。俺はワクワクしながらそれに近づき、ゆっくりと両手をかざす。すると水晶はまるで蝋燭の火のように、ほのかに光を灯した。
「…ビミョーだな」
「うーん…魔法を使うには、ちょっと心もとないかもしれませんね…」
「……」
俺は俯きながら水晶から手を離し、藁にもすがる思いで静かに自分の両胸を揉んだ。
「な、何やってんだ…?」
「…気にしないでくれ…」




