魔剣の力
遺跡の後ろに生える巨大な木の上で、エリーがマナと戯れている。するとそこに何本もの剣を背中に背負った細身の男性が近づいてきた。エリーはそれを見るとニヤニヤしながら、その男性に話しかけた。
「これはこれは、魔剣刈りのシド君じゃん」
「エリーか…元魔王とやらが何の用だ」
シドはエリーを睨み付けながらそう言った。それに対してエリーはニヤニヤした表情のまま、シドを見下して返答をする。
「何の用はこっちのセリフだよ。人から魔剣を奪う、で有名なシド君がどうしてこんな所に?蛮族から首洗って自分で取りに来た?」
「フン…」
シドはエリーを無視して遺跡の中へ入っていく。エリーは手を振りながらそれを見送ると、再びマナと戯れ始めた。
(フフ…今日はアレンから面白い話が聞けそうだな〜)
その頃、俺は遺跡で出会った魔剣レムと話をしていた。レムは頬を膨らませて俺を見ている、どうやら魔剣を使う上で魔力を持っていない俺にご立腹らしい。
「魔力もないのに魔剣を使おうなんて、お前はバカなのか!?」
「わ、悪かったって…」
見ず知らずの女の子に叱られ続け、どうしたらいいか悩んでいると突然『警戒心』が発動し、入り口から殺意を持った何かが近付いている事に気づいた。そして入り口に目を向けると、何者かがゆっくりと階段を降りてきているのが見えた。
「お前がヒロキだな。…その魔剣を寄越せ、抵抗すれば殺す」
「なっ…!?」
突然現れて殺意を向けると、そいつは背中の剣を一本引き抜き俺に襲いかかってきた。俺は自分の剣を拾い上げ、その剣を受け止める。
「重…!急に何すんだ、お前…!?」
「フン…脆いな…!」
ニヤリと笑いながらそう言うと、何処からともなくマナが現れ、剣に集まっていく。そして魔力が暗き闇となり、闇を纏った剣を力強く振り下ろした。その剣は、受け止めていた俺の剣を真っ二つに裂き、そのまま俺の胸元を斬りつけた。
「ぐぅ!?」
血とともに溢れる激痛に、俺は表情を歪ませて後退りする。折れた剣を手にシドの動きに警戒していると、レムが無邪気な顔で男に近付いていく。
「お、おい…レム!?」
「お前、あいつより強そうだな!」
「あ?なんだコイツ…お前の魔剣じゃないのか?」
男がそう聞くと、俺より先にレムが口を開いた。
「違うぞ!誰があんなヤツの魔剣になるか、ベー!」
レムは俺に向かってあっかんべーしながらそう答えた。すると男は鼻を鳴らすと剣をしまい、背中を向けて遺跡を出てしまった。レムもその後を追い、俺は一人遺跡に取り残されてしまった。
(行った…のか…?…ていうかレム…あんな危険そうなヤツに着いていって大丈夫なのか…?)
男の背が見えなくなり、警戒をとくと俺は膝をついてしまった。傷口はかなり深く血が止まらない。レムを心配して追いかけようともしたが、体は付いてこなかった。
(ぐ…い、痛い…)
俺は痛む傷口を押さえて肩で呼吸をし、這うように遺跡を出てエリーを探した。
「エリー…どこだ…?」
「おかえりー…ってどうしたのその傷?チンピラにでも襲われた?」
上の方から声が聞こえ視線を向けると、神木の上から軽やかにエリーが降りてきた。そしてエリーはその心配するような言葉とは裏腹に、笑顔のまま話を続けてくる。
「本当に心配してる…?」
「やだな〜、してるに決まってるじゃん」
そう言うとエリーは指先に魔力を集中させる。そしてマナがそこに集まると、魔力が白く変色していった。エリーがその魔法を俺の傷口に当てると、痛みが薄れていき傷口が塞がっていった。
「おぉ…回復魔法か…」
「そう、凄いでしょ。……えい」
悪意と共にエリーは俺の顔を見つめながら突然魔法を止めると、指先で俺の傷口を強く押し込んだ。その瞬間激痛が胸元に走り、俺は飛び上がってしまった。
「痛ッッ…!!?」
「アハハ!ごめんごめん…次は真面目にやるから…フフ…」
腹を抱えながらエリーが俺を見て笑っている。その様子に腹が立ったが、今俺の傷を治せるのはエリーだけだ。俺は『警戒心』に集中しながら傷口を治してもらい、何とか無事に回復することができた。
「これでよし…っと。それで…魔剣はどうしようか。もう一回入ってみる?」
「…いや…やっぱり魔力もないのに魔剣を持つのは…」
俺は折れた剣を見つめながら、シドの放ったあの剣を思い返していた。恐らくあの闇は魔剣によるものなのだろう。あの力を目の前にして俺が魔剣を持ったところで、やはり宝の持ち腐れなのだと改めて実感した。
「わかった、じゃあ今日は一旦帰ろっか」
「…ああ」
『メンクス』に戻り、エリーと別れたあと俺は宿屋に向かってエイラの帰りを待った。
その日の夜、ギルドのベランダではエリーとアレンが話をしていた。
「言われた通りにヒロキ君を一人にしたよ、そしたらなんと、タイミングよくシドが来たんだー」
「そうか…」
エリーはニヤニヤしながらアレンの表情を伺っている。
「フフン…どうしてシドを呼んだの?ヒロキ君、かなりの怪我してたよ?私がいなかったらヤバかったかもねー」
「必要なことなんだ…ヒロキ君がこの世界を救うために…」
「そのためなら傷付けてもいいんだ?」
エリーのその言葉はアレンに深く刺さったようで、アレンは頭を抱えてしまった。その様子を見てエリーは頬を染めて口角を上げた。
「あ、それとあと…ヒロキ君、魔剣諦めちゃいそうだけど大丈夫?」
「……あぁ」
アレンは俯きながら小さな声でそう答えた。それを見るとエリーは再び楽しそうにニヤニヤし始める。
「意地でも手に入れさせるんだ?それってつまり、ヒロキ君も死にかけて…魔力を手に入れるってこと?」
その質問にアレンは何も言わずに黙っていた。




