魔剣レム
やっとのことでエリーに離れてもらい、俺は汚れてしまった髪を水道で流した。その間エリーは水を美味しそうに飲み、俺のことは気にかけもせず服を着てグッと体を伸ばしている。
「ふー…!ちょっと落ち着いたかな…」
「それは…よかったっすね…」
タオルを借りて髪を拭き、俺はここに来た理由を伝えた。
「それで、実は魔剣取りにいくことになって…アレンに案内されたんですけど」
「なるほどなるほど…いいよー、任せなさい」
エリーはニヤニヤしながら承諾すると、早速外へと向かうよう俺の背中を押した。
「じゃ!早速行こうー!…おや?」
「…?どうしたんすか?」
「いや、なんでもないよー」
そう言ってはいたが、エリーの手には何かが握られている。疑問を感じた俺は、何を持っているのか聞くことにした。
「え、何か持ってない…?」
「持ってないよ、ほら」
エリーは両手を広げて俺に見せた。その手の中には何も無く、どうやら俺の見間違いだったようだ。
「あれ?そっか、疑ってごめん」
「疑う男はモテないぞー?」
「わ、悪かったって!」
その後も軽く茶化されながら、俺はエリーの道案内を聞いて先へと進んだ。その後ろでエリーは俺に気づかれないよう、マジシャンのように手の甲側に指で挟んでいた小さなメモ紙を広げた。どうやら俺の服の背中に貼られていたようだ。そのメモ紙には急いで書いたのか走り書きがされていた。
『魔剣が見つかったらヒロキくんを一人にして』
(フフ…これは面白い事になりそうだねー)
エリーはそのメモ紙をグシャグシャにして捨てると、笑顔で俺の背中を再び押した。その押す力はさっきよりも強くなっている気がした。
「ほらほら!早く行かないと日が暮れちゃうぞー」
「わ、わかったから押さないでくれよ!」
エリーに言われるがまま城の外へ出て馬車に乗り、先へ進んでいると大きな遺跡に辿り着いた。その遺跡の後ろには巨大な木が生えており、太い根が張り巡らされている。そしてその根には金色に輝く無数の鳥が止まっていた。
「おぉ、綺麗な所だな…!ここに魔剣が?」
「沢山あるよー?遺跡の後ろにあるあの大きな木が魔力を流す神木でね。魔力の根源とも言われてるんだ」
「魔力の根源…?」
「そう、この神木が生きとし生ける物へ魔力を流してるの。人はそれを上手いこと利用してるんだとかなんとか」
そう言いながらエリーは右の手を広げて、神木に向けた。すると根に止まっていた金色に輝く鳥が羽ばたき、その手に集まっていく。
「その鳥は?」
「こいつらはマナ、魔力を食べて色んな属性に変換してくれるの。こんな感じに…!」
突然俺に殺意を向けるとエリーは俺に右手を向ける。すると何処からともなく強い風が吹き出し、翡翠色の刃となって俺に襲いかかった。俺は間一髪で身をかがめて避ける。
「あっぶな…!?」
「その変換されたものがいわゆる魔法なわけ、わかった?」
「いや、わかったけど…今試す必要あった…?」
「さ、魔剣は遺跡の中だよ。レッツゴー!」
「無視…?」
エリーに付いて行き俺も遺跡の中へと向かった。少しジメジメした薄暗い階段を下ると、小さな部屋と前、左右に通路があり、迷路のような空間になっていた。
「迷いそうだな…」
「あ、ヒロキくん。そっちは危ないよ」
「え?」
右から一つずつ通路を確認していると、突然エリーに呼び止められた。しかし一足遅くガコッと音を立てながら、俺は足元のスイッチを押してしまった。
「あ」
踏んだ途端に地面が抜け、俺はその下の針に向かって真っ逆さまに落ちていく。俺は咄嗟に剣を抜き針へと投げ『憑依』を使用した。
(あ、危なかった…)
『憑依』を解除し針を避けながら立ち上がると、一つだけ異様な死を迎えた骸骨が転がっていた。他の骸骨は針の近くで横たわっていたが、その骸骨は針の近くにはおらず、狭い端に座るようにして残っている。
「避けられたけど上がれなかったんだろうな…可哀想に…」
俺はいたたまれない気持ちになり、すぐにその場を離れようとしたときだった。その骸骨の手に、純白の直剣が握られていることに気づいた。他の骸骨が握る剣は苔に覆われていたが、その直剣だけは綺麗な状態を保っていた。
「これ…もしかして…」
「おーい、大丈夫ー?」
「あ、ああ!大丈夫!」
俺がそう返事をするとエリーはニコニコと笑った。そして下に倒れる骸骨に目を向けると、俺の見ていた純白の直剣を見つけて目を大きく開けた。
「それ、魔剣じゃん!」
「え、やっぱりそうなの?」
元々この人のものなのだろう、それを横取りしていいものだろうか。下手すれば祟られるのではないか。俺は少し考え込んだあと、意を決してその剣を手に取った。
(ごめんなさい…!)
手に取った直剣を上に投げると高い金属音が響いた。どうやら無事に上まで届いたようだ、続いて俺の剣も同様に投げ『憑依』を使って上に戻った。そして『憑依』を解除して周りを見回すと、エリーの姿が見えないことに気づいた。
「あ、あれ…先に外に出たのかな…?」
「おい、おまえ!」
突然知らない女の子の声が聞こえ、俺は後ろを振り向いた。するとそこには長い白髪の女の子が座っており、頬を膨らませて俺を睨んでいる。
「いきなり投げるなんてどういう神経してるんだ!」
「え、何…?ごめん…。いやそれより君は…?」
俺がそう言うと、女の子は砂を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。そして自慢げに鼻を鳴らすと、一度ターンして腰に手を当てる。
「ふふん…!私は魔剣レム、最強の魔剣だ!さあ、早速お前の魔力をくれ!私の力を見せてやろう!」
「最強って…本当か…?てか…俺魔力無いんだよ…」
若干胡散臭いことを言うレムと名乗る少女に疑念を抱きながら、俺は魔力を持っていないことを伝えた。するとレムは驚いた様子で目をパチパチすると、落ちていた石を手に持ち壁に字を書き始める。
「お前…魔剣って魔の剣って書くんだぞ?知ってるか…?」
そう言ってレムは俺をバカにするように、魔剣と壁に書き始めた。その魔の字が疒になっていたが俺はツッコまないことにした。




