ゼウスの『異能』
「あ、おかえりなさい!何話してたんですか?」
「あー、えっと…」
アレンとゼウスの話を終えてベランダから戻ってきた俺を出迎えると、エイラは何の話をしていたのか聞いてきた。俺は素直に答えようかと思ったが、言ったところで「?」を浮かべるだけだろうと感じ、適当にはぐらかすことにした。
「ただの世間話だったよ」
「なんだ、そうだったんですね」
エイラは簡単に頷くと疑うことは全くせず、俺の話を聞き入れてくれた。そしてその後も詮索することはなく、他愛もない話をしながら宿屋まで戻った。
(疑わないのは助かるけど…やっぱり危ないよな…)
楽しそうに話すエイラを横目に、俺は疑うことを知らないエイラに不安を抱いていた。ハンスの時もそうだったが、このままではまた何か危険な目に合うかもしれない。
「なあエイラ…」
「はい?」
「どうして俺とアレンが話したこと詳しく聞かないんだ?」
俺がそう聞くとエイラは「なぜそんなことを聞くのか」と言わんばかりの表情で俺を見つめた。
「詳しく聞くって…世間話をですか?」
「あ…うんまあ、確かにそうだよな。ごめん、忘れてくれ」
「…?」
どうやらエイラの頭の辞書には疑うという言葉はないらしい。エイラに降り掛かる危険を少しでも避けるために、俺が強くなる必要があるだろう。俺は再び決心を固め、真っ直ぐと前を見た。
宿屋に着き、風呂を済ませ俺とエイラはベッドに横になっていた。
「…さて、ゼウスのとこに行くかな…」
俺はエイラが枕を抱きしめ、寝付いたのを確認してポーチから蒼い石を取り出す。今日の話を詳しくゼウスに聞くため、俺はあの空間に移動しゼウスの対面の椅子に座る。
「何か聞きに来たの?」
「色々聞きたいけど…そうだな。まずは…ゼウスの先輩?って人のこと聞こうかな」
出会ったゼウスの話を切り出すと、ゼウスは頬杖を付いて話を聞き続ける。俺は手始めにゼウスが何人もいることについて聞くことにした。
「ゼウスって何人もいるのか?」
「ええ。私達ゼウスは複数いて、それぞれ異なる世界を管理しているの。アンタのいた世界とか、いま私が管理してる世界みたいにね」
「…?じゃあ、あの先輩のゼウスは何で管理はやってないんだ?」
先輩のゼウスがいるのならば、管理はその先輩がやればよいのではないだろうか。そう疑問に思い聞いてみると、ゼウスは少し視線を落として答える。
「…この世界を管理してるゼウスは失敗作なのよ」
「し、失敗作…?」
「私達ゼウスは生まれたその瞬間から、全ての『異能』を使うことができる『全知全能』って『異能』を持ってるの。そしてそれを使って世界を管理するの。…でもそれを使いこなせなかった者は失敗作とされ、この世界の管理を任されるのよ…」
そう話すゼウスは少し暗い表情をしている。それを見た俺は何を言えばいいか分からず、気休め程度の励ましをすることしかできなかった。
「で、でも世界の管理はしてるんだろ?それって凄いことじゃないのか?」
「…そうね、でもこの世界は別なのよ…。アンタが会ったゼウス、怪我してたでしょ?」
「そうだけど…何があったのか知ってるのか?」
確かに出会った先輩のゼウスは包帯を巻いていた。そのゼウスの包帯については、ちょうど質問しようと思っていたため俺は話を促す。
「オーメンとの戦いで転生者は深い傷を負って生死の境を彷徨う運命なの。そして死にかけることで新しい『異能』、『強奪』を手に入れて、ゼウスの『全知全能』を奪いオーメンを瀕死に追い込む」
「…え!?なにその話…?俺、死にかけるの…?」
「…その様子だとアレンから聞いてないのね。残念だけど…アンタは多分その戦いで死にかけるわ。『異能』を手に入れた時、何か見えたでしょ?」
そう言われ、俺はあの時の事を思い返した。確かに『異能』を手に入れた時、頭痛とともに数人と巨大な影を前にするのを見た。
「『異能』を手に入れた転生者は、みんなそれを見てるの。多分与えられた運命を垣間見たんだと思う」
ゼウスはそう言った。俺もその運命を辿るのだろうか、不安にかられ唾を飲むとゼウスが話を続ける。
「話を戻すけど、アンタはその戦いで死にかけ『強奪』を手に入れて、私の『全知全能』を奪う。そしてオーメンと戦うの。そこからはアンタ次第」
(待てよ…?そういえば…前にイヴの山でアレンに聞いたとき…)
アレンは「その時は俺が全部守る」と言っていた。今こうして考えてみると、俺や周りの人が危険な目に合うことを知っているような口ぶりだ。
(やっぱり…俺も他のみんなも危険な目に…)
「次に向こうにいたゼウスの事だけど…『異能』を失ったゼウスは世界の管理もままならなくなって、あの世界で転生者のサポートをするの」
(…ちょっとくらい心配してくれよ…)
「でもこの世界で『異能』のない人、特に女性は酷い扱いを受ける。アンタの仲間もそうだったでしょ?」
「な、なるほど…」
確かに『異能』のないエイラは一度危険な目に合っていた。先輩のゼウスも『異能』を持った相手に対抗できず、あんな怪我をしてしまったのだろう。
「つまり…転生者が『異能』を奪ったせいでゼウスは怪我をしてたんだな…」
「まあ突き詰めればそうなるわね。…でもオーメンを倒して世界を救うためなら仕方がないわよ…」
ゼウスは再び視線を落とした。自分も『異能』を奪われてしまう事を覚悟しているのだろうか。俺は実際に『異能』のない女の子が危険に晒されるところを見てきた。それを俺の手で引き起こすなんて、絶対にしたくない。
「皮肉なものよ。数々の犠牲の上に、死に際に抗って手に入れた『異能』で…その運命を振り出しに戻すなんて…」
ゼウスは自らの運命に嫌気がさしたように、そう言うと鼻を鳴らした。
「…俺は絶対に奪わないぞ」
「話聞いてたの?…別に気にしなくていいわよ。私はどうなろうが構わないから」
「いーや!俺は絶対に奪わない!」
俺は腕を組み堂々たる態度でゼウスを見つめる。それを見たゼウスは数秒ポカンと口を開け、その後クスクスと笑い始めた。
「フフ…わかったわよ。期待してるわ」
「おう!任せとけ!」
俺は立ち上がり大きく頷く。そして蒼い石を取り出し、カッコつけるべく何も言わずにその場を離れた。
そしてあの空間に一人残ったゼウスは何かを唱えながら空中を指差す。するとホログラムのようなものが浮き上がり、ある映像を映し出した。それは俺がハンスと戦っているところだった。
(ヒロキがオーメンに勝てなかったら…私は…)
悲しげな顔をするゼウスは、その不吉な考えを払い除けるように首を横に振った。
「ううん…ヒロキなら勝てる。そして…『異能』が使いこなせなくても、運命に抗える事を証明してね、ヒロキ…」
そう呟くとゼウスは映像を消し、椅子から立ち上がりどこかへ向かった。




