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運命の転生者  作者: apple-pie
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オーメンの器

「ぐっ…」


アレンが血を流しながら地面に倒れている。その手前には黒い影のような何かが怪しく揺らめく。アレンは視線だけ上げるとそれを睨みつけた。


「オーメン…!」


地面に手を付け何とか体を起こそうとするも、アレンの傷は深く立ち上がることすら出来なかった。


「ハァ…ハァ…。クク…またこうなったか、アレン」


オーメンもかなり消耗しているようだ。苦しそうにオーメンがそう言うとアレンの瞳が蒼く変色し『未来視』を発動する、そして何を見たのか悔しそうな表情でアレンは横を見る。そこには血塗れのヒムロがいて、『獄氷』を杖代わりにして立ち上がっていた。そしてアレンの方を見て、納刀するとオーメンに走り寄っていく。


「…兄さん…ごめんなさい…」


「くそっ…ヒムロ…!駄目だ、やめろ…!」


『異能』で止めようとするが、霞む視界ではヒムロを捉えきれなかった。ヒムロはアレンの言葉に耳を傾けることはなく、オーメンに近付くと『獄氷』を抜いて自らの腹部に突き刺す。すると巨大な氷がオーメンを覆った。


(まただ…、どうしていつも…)


アレンはヒムロから目を背けるように俯くと、立ち上がろうとしていた手を地面に叩きつける。ヒムロの目から光が失われていくに連れ、魔力が増えていき氷がより巨大になっていく。


「…っ!?」


陽の光が差すベッドの上でアレンは目を覚ました。どうやら悪夢を見ていたようだ。少し荒くなった呼吸を深呼吸で抑えていると、部屋にヒムロが入ってきた。


「兄さん、そろそろ出かけてきます。…?どうしたのですか?」


「いや、なんでもないよ。行ってらっしゃい」


ヒムロを笑顔で見送るとアレンは俯き、表情を曇らせた。そして自分の右の掌を見つめる。


(ヒムロはまだ魔力が上がってる…。それに比べて俺は…)


人は死にかけたり壮絶な体験をしたりすると、魔力が上がったり、『異能』が増えたりする。アレンも初めは『異能』が増えていたが、5回目を過ぎてからは魔力も『異能』も増えなくなってしまっていた。それはつまり妹であるヒムロが命を賭して戦う事に、心の底では慣れてしまっている事を示していた。


「…こんな事で悩んでちゃ駄目だ…、俺も早く行かないと」


アレンは首を振ると、俯いていた顔を上げた。そしてベッドから降りて外へと向かった。

一方、俺とエイラは宿屋で外に出かける準備をしていた。


「ヒロキさん!準備できました!」


「よし、じゃあ行くか」


準備を終えた俺とエイラはいつも通りゴブリンを狩りに向かった。


「ギャァ…」


「ふう」


斬りつけられたゴブリンは粉々になり銅貨を落とした。それを拾おうと屈んだとき、『警戒心』が反応し、背後からの攻撃を告げた。


「ぅおっと」


横にステップして回避し、相手を見据える。やはりゴブリンだ。俺は着地して間もない隙だらけの胴体に剣を振る。


「楽勝だな!」


2枚の銅貨を拾い、俺は成長を実感した。そしてしばらく狩りを続け、問題なく稼ぎを得て夕暮れ時にギルドに戻って来た。


「最近はゴブリンも簡単に倒せるようになってきましたね!」


「確かに…。そろそろ違う場所で稼いでもいいかもな」


他の魔物を倒せばより多くの稼ぎが得られるかもしれない。今のままでも生活は送ることはできるが、金はあって困ることはないだろう。


「よし、じゃあ明日から変えてみるか!」


「はい!」


「やあ、ヒロキくん」


エイラと話をしていると、後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはアレンが笑顔で立っていた。


「アレン?どうしたんだ?」


「ちょっと話したいことがあってね、ベランダに来てもらってもいいかな」


「…?いいけど」


そう言って俺はエイラと一緒にアレンについて行こうとした。するとアレンがエイラを呼び止める。


「あ、エイラちゃんはここで待ってて。男同士で話したいんだ」


「そうなんですか?わかりました」


一体何を話すのかと若干不安を感じながらベランダに向かうと、そこには一人の見知らぬ女の子が立っていた。目にかかるほど長く伸びた金髪のその子は体のあちこちに包帯を巻いている。そして俺を見ると、軽く会釈をした。


「こんばんは、転生者ヒロキさん」


「え?あ、こんばんは」


どうしてこの子は俺が転生者であることを知っているのだろう。そう疑問に思っているとアレンがその子の隣に立ち、紹介を始めた。


「この子は前の転生者を担当してたゼウス、簡単に言えば…ヒロキくんが知ってるゼウスの先輩ってところかな」


「ゼウス…?」


そう言われてみると何処となく雰囲気が似ている気がする。金髪とか人を何とも思っていないような目付きとかが。


「……」


「…え、えっと、ゼウスって何人もいるのか?」


その鋭い目付きから逃げるように俺は話題を振った。


「今日はこれを渡しに来ました」


(無視された…ゼウスって皆こんな冷たいの?)


戸惑いを隠せない俺を無視すると、ゼウスはポーチから何かを取り出し俺に見せる。その掌には黒い靄のような何かが蠢いており、とてつもない悪意を放っていた。


「な、何それ…?できれば受け取りたくないんだけど…」


「これはオーメンの魂の一部です。今からこれをあなたの体に取り憑かせます」


「ちょ、ちょっと待っ…」


俺の制止を気にも止めずゼウスは近づいてくると、その怪しげな何かを俺の胸に当てる。するとそれはゆっくりと俺の体に入っていき、やがて全て俺の中に入ってしまった。


「ぐ、ぐうぅ!?う…あ、あれ、何ともない…?」


悪意満々の何かを体に入れるなんて、どう考えても悪影響だと思っていたが体に変化は見られなかった。


「体に異変はないかい?」


「と、特に何も…」


「ふむ…わかった。時間を取らせてごめん、話はこれで終わりだから。もう戻って大丈夫だよ」


「え、おいっ!?もうちょっと説明を…!」


説明を求めると『警戒心』が殺意を感じ取った。ゼウスからだ。鋭かった目つきは更に鋭くなっており、とんでもない怒りを放っている。


「えっと…や、やっぱり大丈夫です」


俺はぎこちない笑顔でそう言いながら手を振る。色々聞きたいことはあったが、体に異変はないし聞きたいことは蒼い石を使ってゼウスに聞けばいいだろう。


「そ、それでは…」


俺がそう言って背を向け階段を降りているところを、アレンは後ろから眺め、そして表情を曇らせる。


(…オーメンの力を発揮するためにはエイラちゃんが必須かな…。ごめんよ、ヒロキくん…)

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