魔力
「あ、用事思い出したから…俺はそろそろ帰るよ」
ヒムロの腹部の傷については語らず、アレンは席を立つとギルドの外に行ってしまった。言いたくないこともあるのだろうと思い、俺は特に引き止めることはせずに食事を済ませて宿屋に向かった。
「あ!ヒロキさん!おかえりなさい!」
「おう、ただいま」
挨拶を交わしたあと俺は入浴を済ませ、ベッドに横になった。すると隣で横になっていたエイラが、今日のことを振り返るようにヒムロの話をする。
「それにしても、ヒムロさんって本当にカッコいいですよね!なんと言ってもあの魔剣『獄氷』!」
「あの魔剣ってそんなに凄いものなのか?そもそも魔剣って何なんだ?」
『獄氷』についてアレンから聞いてはいたが、魔剣については詳しく聞いていなかった俺はエイラに話を促す。するとエイラは嬉しそうな表情で起き上がり、ベッドの上に座ると話を続けた。
「教えてあげましょう!魔剣というのは魔力を宿した剣で、それに使用者の魔力を加えることで能力を発動するんです!」
「なるほど…、『獄氷』はどんな能力なんだ?」
「フフン…『獄氷』はですね、抜刀した最初の攻撃の魔力を、とてつもなく増幅させて氷を生み出す能力なんです!まさに一撃必殺!」
ヒムロはその能力を使うことで、あれ程の氷を生み出していたようだ。それに加え『異能』を封じることができる『異能』を持っていれば、『番人』と呼ばれるのも頷ける。
「しかもヒムロさんはこの世界で一番魔力を持ってる人なんです!その量はなんと常人の数万倍あるとか!」
「す、数万倍!?じゃああんな威力の攻撃を何発でも使えるのか…?」
「はい、カッコいいですよね…!」
そう話すエイラの瞳は輝いていた。恐らくヒムロに憧れているのだろう。あれだけの力を持っているのだから、当然といえば当然だ。
「あ…そういえば、ヒロキさんはどれくらい魔力持ってるんですか?」
「…え…?」
エイラにそう言われ、俺はハッとした。せっかくの異世界だというのに、俺は魔力なんてものは使った覚えがなかったからだ。使ってみたい気持ちはあるが、そもそも俺に魔力なんてあるのだろうか。
「俺…魔力持ってるのかな…?」
「…えっ!?わからないんですか!?ふむ…仕方ありませんね」
エイラはそう言うと、何やら得意げに口角を上げてポーチから水晶を取り出した。そしてベッドの上にそれを置くと、再び俺を見つめる。
「じゃーん!これは魔力の量がわかる水晶です!」
「へぇー…どうやって使うんだ?」
「こうやって触ると水晶が光るんです!その光の強さで大体の量がわかるようになってます!」
そう言いながらエイラが水晶に触れると、水晶が光り始めた、その眩しさに俺は手で光を防ぐ。
「ま、眩しい…!」
「フフン…!私、魔力の量には自信があるんです!さあ、ヒロキさんもどうぞ!」
「よし…!」
少しドキドキしながら、俺もエイラの真似をして水晶に手で触れた。唾を飲み込み、水晶をまじまじと見つめる。しかし、水晶はほんの少しも光らず時間が過ぎていった。
「……」
「え、えっと…まあ!ヒロキさんは剣で戦うから…魔力は無くても大丈夫ですよ!ハハ…」
そう励ましてくれるエイラの顔は、わかりやすく引きつった作り笑顔だった。
「……寝る」
「ああ!ヒロキさん!?」
ものすごく惨めな気分になった俺は、布団を頭から被り夢の世界へと逃亡した。
「…ん…」
暫くして俺は眠りから目覚めた。相変わらずエイラは俺を抱き枕代わりに使っている。起こさないようにゆっくりと手を離し、俺はポーチから蒼い石を取り出した。そして石を起動し、あの空間へと向かう。
「また来たのね、何か質問?」
「俺も…魔力が使いたいです…」
「……」
「俺も魔力使いたいですぅう!!」
俺が半泣きでそう言うとゼウスは呆れ顔で俺を見つめる。とはいえ俺にとっては重要な問題なのだ、せっかく異世界に来たのに魔法が使えないなんて味気なさすぎる。
「言っとくけどほぼ不可能よ。上手く説明できないけど…魔力はアンタのいた世界にはないものだから、体が使い方を知らないの」
「そ、そんな…何か方法はないのか?」
「まあ…ないこともないわ」
「ほんとか!?」
魔力を使えるかもしれない可能性に、俺は食い付くように反応する。するとゼウスは頬杖を付いて答える。
「死にかけたり、精神に異常を来すほど壮絶な体験をしたりすることよ」
「え…?」
「そうすることで人の生存本能が限界を超えるの。そしてそれに答えるように、体が魔力を生み出したり、人によっては新たな『異能』を顕現させたりもするわ」
ゼウスから伝えられた想像もしていなかった方法に、俺は衝撃のあまり絶句していた。流石にそこまでして魔力を使いたいとは思わない。
「どう?これでもまだ使いたい?」
「いや…やっぱりいいです…」
「そう、他に質問はある?無いなら早く戻りなさい」
他は特に質問もなかった俺はゼウスにそう言われ、石を起動し宿屋に戻った。エイラは既に起きており、俺も準備を始め、いつも通り金稼ぎに向かった。




