番人
1回戦目を終えた俺は2回戦目が始まるまでの間、ホールの椅子に深く座り休息を取っていた。次の相手は『番人』と恐れられるような人だ、しっかり休んで万全の状態で戦いたい。
(あ…やばい、眠くなってきちゃった…)
しばらく座っているとだんだん眠くなってきてしまった。次の試合までそこまで時間がある訳ではないし、ここで寝てしまったら起きれずに不戦敗してしまう。
(一回…立って伸びを…)
立ち上がって伸びをして目を覚まそうとしたが、起き上がることができずに俺はそのまま眠ってしまった。
「…い…、おい!」
「…ん…?ハッ!?」
誰かに声をかけられ俺は目を覚ました。前には見知らぬ男が立っている。寝てしまったと慌ててトーナメントを見ると、全員1回戦が終わっており俺とヒムロの番で止まっていた。
「次アンタだろ?早く控室に行かないと間に合わないぞ」
「あ、ありがとうございます!」
俺は忠告された通りに急いで控室へと走り出した。1回戦目と同じ道を通り、辿り着いた控室の扉を開けるとそこにはヒムロが立っていた。どうやらサラシを巻き直していたらしく、上半身裸の状態だった。
「!?…あ、ま、間違えました…!」
「…?ああ、あなたがヒロキさんですか?」
「え?そ、そうですけど…というか服を…!」
上半身裸だというのに、ヒムロは全く気にする様子もなくサラシを巻きながらそう言う。目のやり場に困っていると、ヒムロの腹部に大きな傷跡があることに気付いた。
(…?怪我してるな…試合に出て大丈夫なのか?)
「どうかしましたか?」
そう言いながらヒムロはサラシを巻き終えて、手際よく服を着てくれた。これでようやくまともに目を合わせながら会話をすることができる。
「いや、怪我してるみたいだけど…大丈夫なのかなって」
「ああ…これは何ともないので大丈夫です。というより…いつどうやってできたかも分からないのです」
ヒムロは手で腹部を抑えながらそう言った。かなり大きな傷跡なのにそんな事あるのだろうか、と思い首を傾げているとヒムロが微笑みながら口を開いた。
「しかし対戦相手の心配とは、随分と余裕なのですね」
「あ…そういうつもりじゃ…!」
「フフ…冗談です。ところで…ヒロキさんは向こうの控室に行かなくて大丈夫ですか?このままだと私の不戦勝なのですが」
「あ…」
そう言われて俺は慌てて控室を飛び出し、反対側の控室まで猛ダッシュで向かった。なんとか開始の時間までに間に合ったが、息も絶え絶えで試合に参加することになってしまった。
「はぁ…はぁ…!」
「あの…大丈夫ですか?少し待ちましょうか?」
「き、気にしないで…いいです…」
そろそろ試合が始まる。さっきの試合でヒムロは、一瞬で巨大な氷を出現させて勝利していた。それ以外の情報を得られなかった以上、まずは『憑依』を使って氷の範囲外に移動するしかないだろう。
「始めっ!」
作戦も決まったところで試合開始の合図がかかった。俺は即座に剣を遠くに投げて『憑依』を発動しようとした。しかし、
(…あれ?『憑依』が発動しない…?)
違和感を感じていると、俺を見据えるヒムロの瞳が紅く変色していることに気付いた。
(まさか…!?)
どうやらヒムロの『異能』は相手の『異能』を使えなくするものらしい。
(…避けられない…!)
ヒムロは手に持った刀を抜刀し、真横に斬り付ける。すると冷気を纏った風が吹き付け、その直後に俺は巨大な氷の塊に覆われた。
「勝負あり!勝者、ヒムロ!」
何もできずに一瞬で敗退してしまった俺は、ほんの少しのファイトマネーを手に観客席のエイラの元に向かった。
「ごめん、全然稼げなかった…」
「大丈夫ですよ!また今度挑戦しましょう!」
相変わらず元気な笑顔のエイラとともに、俺たちは闘技場の戦いを見届けた。
「『番人』の圧勝…!でしたね!」
「全部一撃で終わってたな…」
俺は『番人』の強さにドン引きしながら闘技場を離れた。
「エイラ、俺ちょっとギルド寄ってから行くから。先に宿屋に行っててくれ」
走ったり戦闘をしたりしたからか小腹の空いていた俺は、エイラを先に宿屋に向かわせてギルドでパンを買って食べていた。すると背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「やあ、ヒロキくん」
「…アレンか…」
もはや振り向かなくても分かる。アレンは俺の座っていた席の隣に座ると、ニコニコしながら話しかけてくる。
「聞いたよ、闘技場でヒムロと戦ったんだって?」
「手も足も出なかったけどね…」
「ハハッ、まあ『番人』なんて呼ばれるくらいだからね。あの『異能』と魔剣は強力だよ」
「魔剣?」
初めて聞く単語に俺は思わず聞き返してしまった。おそらくヒムロが使っていた刀のことを言っているのだろう。
「そう、この地に眠る魔力を封じ込めた剣のことさ。物によってその力は様々だけど、あの魔剣『獄氷』は別格だよ」
「へー…。そういえばアレンの剣も火を出してたけど…それも魔剣なの?」
「まあね、俺の魔剣は『獄炎』、ヒムロの魔剣と対を成す魔剣なんだ」
アレンは『獄炎』を使ってドラゴンをいとも容易く倒していた。おそらく『獄炎』も別格の魔剣なのだろう。そんなことを考えていると、背後から再び声をかけられる。
「ヒロキさん?それに兄さんも…何してるんですか?」
「ヒムロか、今ヒロキくんがヒムロと戦ったって聞いてさ、そのこと話してたんだ」
振り返るとそこにはヒムロが立っていた。兄さんと言っていたが、どうやらアレンのことを言っているようだ。
「え、アレンとヒムロさんって…兄妹なの…?」
「ん?まあね」
「そ、そうなんだ…」
アレンはニコニコしながらそう言う。アレンは最強の冒険者、ヒムロは番人と、各々二つ名を冠する兄妹を前に、俺は少し腰を引く。
「ところで、ヒムロは何しにきたの?」
「ご飯を食べに来ただけです、それでは」
そう言うとヒムロは足早にカウンターに向かった。その時俺はふとヒムロの腹部の傷跡を思い出した。兄妹のアレンなら何か知っているかもしれないと感じ、俺は直接聞いてみる。
「あ、そういえばアレン、ヒムロさんの腹に傷があったんだけど…何かあったの?」
「え……いや、知らないな」
少し長い間を開けて、アレンはそう言う。そして左の髪の白く変色した部分を軽く触れた。




