闘技場
予想もつかない先のことに不安を抱きながらも、俺はエイラの両親にお礼を伝えてギルドに向かった。当のエイラはというと、いつも通り明るく元気な笑顔を見せている。
(…パーティ解散しよう、なんて言ったら悲しむだろうな…。でも危険な目には合わせたくないし…)
良い言い訳が思いつかず、とりあえずオーメンと戦う時にまで決めておこう。と軽く片付け、俺はポーチから鍛冶屋で造ってもらったペンダントを取り出した。
「…なあ、エイラ」
「はい?なんですか?」
俺の先を歩いていたエイラが振り返り、首を傾げながら俺の顔を見つめる。これから意味深な名前入りのペンダントを渡す、そう考えると突然恥ずかしくなってしまった。しかしウジウジしている方がおかしいと意を決し、俺は手に持ったケースを広げてエイラに見せる。
「こ、これ!この間壊れたペンダント…新しく造ったんだ」
「えっ!?私のためにですか?ありがとうございます!」
弾けるような笑顔でエイラはペンダントを受け取ると、早速首にかけてマジマジと観察する。そして間もなくしてペンダントに付いた例のタグに気付いた。
(頼む…恋愛に疎くあってくれ…!)
しかし俺の期待とは裏腹に、エイラは顔を赤くして目をパチクリさせている。気まずい空気に耐えきれなくなった俺は、エイラの肩を押して無理矢理先に進んだ。
「ほ、ほら…行くぞ!」
「ぅえ…?あ、はい…!」
何気ない会話を繰り返して、なんとか普段の空気に戻しながらギルドに着き、俺は今日のことを考えていた。実はペンダントを造るために、結構な金を使ってしまったのだ。ゴブリンを倒すだけじゃなく、もっと大きな収入が欲しいところだ。
「なあエイラ、まとまったお金が手に入る方法って知らないか?」
「まとまったお金…ですか?うーん…この辺りだと闘技場とかですかね?」
闘技場、いかにもお金が貰えそうな響きの場所だ。俺とエイラは早速ギルドから出て歩き始める。しばらく歩くと大きなコロシアムの前にたどり着いた。
「ここです!」
「でかい建物だな…」
コロシアムを見上げながら入り口に近づくと、入口は固く閉ざされており、その横に置かれた看板には営業時間が書かれていた。
「あれ、19時からなのか」
「そうなんですか?すみません…参加したことなかったので…」
「いや、ちょうど良かった。夕方まではゴブリン倒しに行こうぜ」
俺とエイラは一度コロシアムを離れ、『メンクスの森』に向かった。そしてゴブリンの群れを倒し、ひとまず稼いだところで一度ギルドに戻り、ご飯を食べながら19時になるのを待っていた。
「さて、そろそろ行くか」
「はい!」
再びコロシアムに向かうと、昼間は静かだった周辺が冒険者達で賑わっていた。俺もその中に入り、受付を済ませる。受付が済むと、闘技場についての説明が始まった。
どうやら主催者の『異能』を利用しており、出場者の体には結界が貼られるらしい。それが攻撃により出現した場合、勝敗が決まるようだ。そう説明はされたが正直あまり理解できていない。とにかく習うより慣れるしかないだろう。
「私は戦うのちょっと怖いので観戦してますね…」
「おう、応援よろしくな!」
「わかりました!」
俺は係の人にホールで待っているよう言われ、エイラと離れてホールに向かった。ホールには大きな掲示板が置かれており、トーナメント表が書かれている。
「げ…今日『番人』来てるぞ」
「うわ…俺初戦『番人』だわ…」
(『番人』…?)
俺は自分の位置を確認したあと、初戦に当たると言っていた冒険者が指差していたところを確認する。俺の目測が間違っていなければ『番人』というのは、ヒムロという冒険者の事のようだ。
(俺2回戦目じゃん…)
これだけ噂される冒険者だ、相当強いのだろう。もし1回戦を突破できたとしても、そんな人と2回戦目に戦うことになるとは、俺もついていないようだ。
(これは…金稼ぎもできなそうだな…)
そんなことを考えていると早速試合が始まるようで、1回戦目に出場する冒険者が呼ばれた。さっきの落胆していた冒険者と、紺色の鞘に収まった刀を持った女性がホールから出ていく。
(今の人がヒムロか?)
俺は戦うかもしれない相手をしっかり観察しておこうと、観客席に移動し試合を観戦した。長い黒髮に黒い瞳の女性は、落ち着いた様子で対戦相手を見据えている。
(そろそろ始まるな…)
試合開始時刻が近付き俺は、ヒムロをより注意して観察した。そして試合開始の合図がされた次の瞬間だった。
「『獄氷』」
ヒムロはそう唱え、目にも止まらぬ速さで刀を抜刀する。刀から冷気が吹き出し、俺の目の前は巨大な氷の塊で覆い尽くされた。
「な、なんだ…これ…氷?」
「勝負あり!勝者、ヒムロ!」
「えっ!?もう!?」
どうやら試合が終わったようだ。あまりの一瞬の出来事に結局ヒムロが強いという事以外何もわからないまま、俺は次の試合に向かうことになってしまった。
「対策のしようもないじゃないか…」
唖然としていると、次の試合のアナウンスが始まった。俺の番だ。観客席から控室に移動し、俺は試合開始を待っていた。
(とりあえずこの試合に勝たないとな…)
「ヒロキさん、試合が始まります」
スーツ姿の係員に声をかけられ俺は軽く頷き、立ち上がって案内を頼りにコロシアムの中央に向かった。対面には屈強な冒険者が立っている。俺は剣を構えて試合開始の合図を待つ。
「始め!」
「オラァ!」
開始と共に対戦相手が剣を持って襲い掛かってくる。『警戒心』を頼りに相手の剣を避け、俺も攻撃の体制をとる。
「はぁっ!」
俺と相手の剣がぶつかり、火花が散った。俺はまだ対人戦に慣れていない。このまま接近戦を続けていれば、剣の扱いに長けていない俺が負けると感じ、俺は一度後ろに引いて相手から距離を取る。すると相手がニヤリと笑い、『警戒心』が殺意を感じ取った。
「『ライトニング』!」
「…っ!?」
ここにいてはまずいと直感し、俺は剣を相手に向かって投げつけ、『憑依』を使う。その直後俺の立っていた地面には稲妻が降り注いだ。あと少し遅れていればまともに食らっていただろう。
(これがアイツの『異能』か…?クソッ…こうなったら、接近戦するしかない…!)
相手を通り過ぎたタイミングで『憑依』を解除し、剣を持って背後から縦に斬りかかる。しかし相手もギリギリで反応し、体をかがめて剣を避けた。俺は反撃の隙を与えまいと続けざまに下から剣を振り上げる。
「ヘッ…弾き落としてやるぜ!」
「クソッ…!」
相手は素早く体制を立て直すと、大きく剣を振り上げ斬りかかる。この調子では俺の攻撃は防がれ、接近戦が長引いてしまう。
(…一か八かだ…!)
「『憑依』!」
俺は振り上げた剣を一度失速させ、その剣に『憑依』を使った。そして俺の姿はその場から消え、俺を狙った相手の剣は空を切り裂く。
「なっ…!?」
『憑依』を解除してもう一度剣を握り直し、俺は体を回転させながら相手に斬りかかった。剣は相手の胴に命中し、オレンジ色の結界が俺の剣を防ぐ。どうやら勝負あったようだ。
「勝負あり!勝者、ヒロキ!」
「よっしゃ!!」
歓声の中俺はガッツポーズを決め、1回戦目の勝利を掴みホールへと戻った。




