運命
アイナさんの最初の転生者の話を聞き終え、俺は頬に涙を流していた。
「あ、あれ…」
「すみません、少し重い話になってしまいましたね…」
「い、いやいや…むしろ話してくれてありがとうございます」
無理をして悲しく辛い話をしてくれたアイナさんに、俺は感謝と労いの言葉をかけた。するとアイナさんは少し歪な笑顔を見せる。
「ありがとうございます…」
しかし話を聞いていて感じたことがあった。何故アイナさんは事実を知っているのに、最初の転生者は『異能』を悪用したことになっているのだろう。アイナさんはこの話を皆に伝えていないのだろうか。
「その話って…国の人達には話したんですか?」
「話しはしたのですが…無名の地から来た私達は…相手にされず…。でもいいんです、転生者を倒すあなたが知っていればそれで」
アイナさんは笑顔でそう言った。しかし俺が転生者を倒すことを話したのはアレンとエリー、そしてゼウスだけだ。
「どうして俺が転生者を倒すことを…?」
「それは…もう何人も同じ運命を辿っているからです…」
「同じ運命…?」
何を言っているのか分からずアイナさんに聞こうとしたが、それと同時に風呂の準備を終えたエイラとエルダさんがリビングに戻ってきた。そして客人だからという理由で一番に入らせてもらえることになり、聞けずじまいのまま夜を迎えてしまった。
「…ゼウスなら知ってるかな?」
元々聞きたいこともあった俺は借りた部屋のベッドの上でポーチを開き、蒼い石を使った。何もない空間ではあの高そうな椅子にゼウスが座っている。俺も対面の椅子に座った。
「…聞きたいことがあるみたいね」
「まあな、最初は…」
今日のことを軽く思い返しながら、俺は順を追ってゼウスに質問をすることにした。まず最初はアレンと、アレンが戦っていた人形の何かのことだ。
「アレンが黒い剣を使って人形の何かと戦ってたんだ。あれがアレンの5つ目の『異能』なのか?」
「いいえ、あの剣は『異能』じゃないわ。あれは忌々しい悪魔…オーメンの力よ」
オーメン。アイナさんの話にあった最初の転生者の『創造』によって生まれた悪魔だ。
「ん…?でも、オーメンって最初の転生者が生み出した悪魔だよな?なんでそれをアレンが使ってるんだ…?」
俺がそう聞くとゼウスは少し考え込み、真剣な表情で話を続ける。
「前にこの世界が悪魔によって悲しい運命を辿ってるって説明したでしょ。…コウタの体を手に入れたオーメンは世界を悪魔のものにするために様々な悪魔を召喚したの。そして…悪魔によってまたしても訪れた世界の危機を救うために再び転生者が選ばれた」
「…?」
「転生者はオーメンを瀕死に追い込むことに成功したわ。でもその犠牲はあまりにも大きく、多くの人が死んでしまった…。そしてオーメンはその人達を生き返らせる代わりに、転生者を新たな肉体として使わせるよう契約を投げかけるの」
質問とは全く関係性の見えない話をされ、俺は頭の上に?を浮かべる。
「そして転生者は契約を結び、オーメンの新たな肉体となった。でも体が朽ちればオーメンを制御できず、再び悪魔を召喚させてしまうと考えた転生者は、力を分散させて他の人達に宿らせることでそれを軽減したの」
オーメンの新たな器となった転生者は、その力を制御するために他の人間にオーメンの力を分けたということらしい。
「なるほど…その一人がアレンってことか」
「そういうこと。ちなみにアレンが戦っていた人形の何かっていうのは召喚された悪魔の一人よ」
1つ目の質問が解決したところで、俺は早速2つ目の質問をすることにした。さっきアイナさんが言っていた同じ運命についてだ。
「アイナさんって人が同じ運命を辿ってる…って言ってたんだけど…どういうこと?」
俺がこの質問を聞いた途端、ゼウスの表情は暗くなった。話したくないのか、しばらく沈黙が続く。そして意を決したのか、まっすぐ俺を見て話し始めた。
「…そのままの意味よ…。転生者がオーメンを瀕死に追い込み、そして犠牲を救うため新たな肉体となる。この世界はそれをもう何度も繰り返しているの…」
「え…?じゃ、じゃあ俺も…?」
「…それはアンタ次第よ。でも…私はアンタを信じてる」
ゼウスは曇りのない瞳で俺を見据える。背中を押されているような、期待されているという感覚が湧いてくる。しかし俺にそんなことが可能なのだろうか、という不安も同時に感じていた。
「…他に聞きたいことは?」
「い、いや。もう大丈夫かな…」
「そう、じゃあ早く戻りなさい」
言われるがままに俺は蒼い石を使いベッドに戻る。考え込んでしまい、しばらく寝付けなかった。しかしいつの間にか寝てしまったようで、俺はエイラの声で目を覚ました。
「おはようございます!」
「ああ…おはよう…」
「…?大丈夫ですか?」
ゼウスはオーメンとの戦闘で多くの犠牲が出たと言っていた。もし俺が同じ運命を辿るとしたら、エイラはその時無事なのだろうか。大きな不安を抱えながら俺はエイラに作り笑顔を見せ、気丈に振る舞うことしかできなかった。




