エイラの両親
美味しそうにサンドイッチを食べながら帰るアレンを見送り、俺はポーチに入れたオレンジインゴットを取り出した。
「…さて、鍛冶屋に行くかな」
ギルドを後にし、隣の鍛冶屋へと向かう。少し重い扉を開き中に入ると、外とは別世界なのではないかと疑うほどの熱気が吹き付けた。
「暑っ…」
「いらっしゃい!…ん?お前はこの間の!オレンジインゴットは取れたか?」
「まあ俺はほとんど何もしてないんですけどね…。それで、これをペンダントにしてほしいんですけど」
俺がポーチからオレンジインゴットを渡すと、鍛冶屋のマッチョはそれを笑顔で受け取った。そしてそれを後ろで鉱石を叩いている男達に持っていき、ペンダントを作るように説明をした。
「…っと、そうだった。お前、名前は?」
「え、ヒロキですけど」
「そうか、えーヒロキ…っと。んで、ペンダントはプレゼント用か?もしそうならその人の名前も教えてくれ」
「エイラって子に渡します」
質問に答えると、マッチョは回答をメモしてオレンジインゴットと一緒に加工場に持っていった。それからしばらく待つと、マッチョが小さなケースを持って俺の方に近づいてくる。どうやらもう完成したようだ。
「こんな感じで大丈夫か?」
マッチョは見た目とは裏腹にケースを優しく開く。するとその中には、元のペンダントと何ら遜色ない綺麗なペンダントが入っていた。
「はい!ありがとうございます!」
「ちなみになんだが…」
そう言いながらマッチョはペンダントのチェーンを持ち上げる。するとチェーンにはペンダントとは別に、鉄でできたタグのような物が付いており、表にエイラ、裏にヒロキと彫られていた。
「へヘッ、お幸せにな!」
「なっ…!?」
言い返そうとしたがマッチョ共はすでに全員大爆笑しており、俺の話など全く聞いてなどいなかった。俺はそれを見て言い返す気もなくなり、代金を払ってそそくさと鍛冶屋を出る。
「誤解されたらどうするんだ…全く…」
まるで恋人へのプレゼントのようなペンダントを手に、俺はため息混じりにそう呟いた。今更手直ししてもらうのも申し訳ないし、こうなったらエイラが恋愛に疎いことを期待するしかないだろう。
「とりあえず宿屋でエイラ待つかな…」
帰ってからの事を考えながら宿屋までの道を歩いていると、肉や野菜を売っている商店から聞き覚えのある声が聞こえた。声の方を向くと、袋に入った肉や野菜を手に持ったエイラがいた。どうやら俺に気付いているらしく、笑顔で大きく手を振っている。
「エイラ、買い物か?」
「はい!今日の夜ご飯の買い出し手伝ってました!」
「エイラ?誰と話してるの?」
エイラの後ろから女性の声が聞こえた。声の方を見ると女性が買い物袋を持って立っている、その女性はどことなくエイラに似ている気がする。
「あ、お母さん!この人がさっき話したヒロキさんだよ!」
説明を受けてエイラの母は俺の顔を見る。その表情は初め驚いたような顔だったが、ゆっくりと眉が下がり悲しそうな顔をした。
「…こんばんは、ヒロキさん。エイラの母のアイナです。うちの子がお世話になってるみたいで」
「いやいや、そんなことないですよ!」
そんな会話をしていると、俺のお腹が大きな音を出した。エイラとアイナさんはそれを聞いて楽しそうに笑っている、俺は恥ずかしく思いながらまだ夜食を食べていないことに気付いた。
「ヒロキさん、よろしければ夜ご飯は家で一緒に食べませんか?」
「…!そうしましょう、ヒロキさん!お母さんのご飯はすっごく美味しいですよ!」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
エイラはキラキラした目で俺の顔を見つめる。その楽しそうな顔を前に断ることができず、俺はエイラの家でご飯を食べることにした。
エイラの家はギルドや商店からは少し離れた場所にあり、国内を走っている馬車に乗って向かった。そしてしばらく揺られていると、小さな木造建築の家にたどり着いた。
「ただいまー!」
「お邪魔します」
「おかえり。ん?君は?」
家に入ると体格のいい男性が出迎えてくれた。どうやらエイラのお父さんのようだ。どうやらエイラが俺のことを話していたらしく、自己紹介をすると笑顔で迎え入れてくれた。
「君がヒロキくんか!俺はエイラの父のエルダ、よろしくな!」
「こちらこそよろしくおねがいします」
自己紹介を終えて、俺はエイラの家族と一緒に楽しく夜食を食べた。その後食事が終わりエイラとエルダさんは風呂の準備に向かった。
「じゃあ、俺は食器片付けるの手伝いますね」
「あら、ありがとう」
アイナさんと夜食の片付けをしている途中、ふと棚の上に写真が飾られているのに気づいた。
(これは…エイラの両親が若い頃のか…)
写真には若々しい両親と、同年代くらいの男性が肩を組んで笑っている。俺が写真を見ているのに気付き、アイナさんが話しかけてきた。
「それは私とエルダが冒険者だった頃のですね」
「そうなんですね…じゃあ、この人はパーティメンバーですか?」
もう一人の男性を指差すと、アイナさんの表情が曇った。そのまま少し間を開けると、アイナさんが口を開く。
「その人はコウタ…最初の転生者です」
「…えっ!?それって『強奪』を悪用したっていう…?」
「やっぱり話は聞いてるんですね」
アイナさんのやっぱり、という単語が引っかかり俺は聞いてみることにした。
「やっぱり…って?」
「何人もの転生者が、アレンからコウタの話を聞いて私の所に来ました。あなたも転生者なのでしょう?」
「えっ?なんで知ってるんですか…?エイラには言ってないのに…」
「異国の人の特徴的な顔だったので、顔を見たときにあなたも転生者だと気づきました…。ヒロキさん、アレンの話は間違ってるんです。彼は…コウタは『異能』を悪用なんてしてないんです…」
アイナさんは悲しげな表情でそう話した。




