最強の冒険者の謎
アレンは続々と現れる凶暴な魔物をいとも容易く薙ぎ倒し、後ろを付いて行った俺はというと、気付いたときには山頂に辿り着いていた。
「これが…オレンジインゴット」
透き通るような結晶を砕き、俺はそれを手に取る。何事もなく目的を達成することができたが、俺はただアレンの後ろを着いていっただけで何もしていない。アレンには大きな借りができてしまった。
「助かったよ、アレン。この借りはいつか必ず返す」
「ハハ、別にいいよ。って言っても聞かないか。まあ、ゆっくり返してくれればいいよ、これくらいお安い御用だから」
アレンは笑顔でそう言うと、戻ろうと言って来た道を歩き始めた。俺もその後を追って歩き始めたとき、『警戒心』が地の底から悪意を感じ取った。
「悪意…?」
「下がって」
そう言うとアレンは俺の体を突き飛ばした。俺を見つめるアレンの瞳は『蛇眼』を発動しており、俺は身じろぎ1つたりとも抵抗することはできなかった。
「…な、なんだこれ!?」
ろくに受け身も取れずに倒れ込み痛む体を起こすと、俺とアレンの間に黒い壁の様な物が地面から現れ分断していた。その壁は広がっていき、最終的にアレンを包むように球状に変形した。
「大丈夫か!?アレン!中はどうなってるんだ!?」
球体を叩きながら声をかけるが、アレンの返事はなかった。感じていた悪意はその球体の中からのもののようだが、中の様子は一切見えないし聞こえない。球体はビクともせず、俺はただ心配することしかできずにいた。
その頃中ではアレンと角の生えた人形の何かが睨み合っていた。
「チッ…あのガキの方がやりやすそうだったが…まあいいか、器は誰でもいいしな」
「器…、狙いはそれか。…残念だけど俺の器には先客がいるんだ、そして彼にもね」
「あ?」
アレンはフッと鼻で笑うと、その人形をまっすぐ見つめた。そして右手を胸に当ててゆっくりと目を閉じたあと、もう一度目を見開く。
(…!?)
それは俺が外で球体を殴ったり、斬りつけたりしていた時だった。球体の中の悪意とは比べ物にならないほどの悪意と殺意が、辺りを包み込む。体がガタガタと震えてしまい、その場から動くことができない。
(い、一体…中で何が…!?)
球体の中を案じていたそのとき、叩いても斬っても傷一つ付かなかった球体に突然ヒビが入り、バラバラに砕けた。そこにはアレンと、数本の黒い剣に貫かれた人形の何かが立っていた。
「こ、これは…オーメン様…の……」
アレンは一言も話さずに手を広げる。すると黒い物体がアレンの手に集まり、一本の剣に形を変えた。アレンはその剣を人形の胸に突き刺すと、そいつは苦しそうに声を上げて消えてしまった。
「……」
「ア、アレン…今のは…?」
こちらを振り向いたアレンの右頬には謎の黒い紋章が浮かんでいた。アレンが右手を胸に当てると紋章がゆっくりと消え、人形の何かを突き刺していた剣も同じように消えた。
「うーん…俺よりもゼウスの方が詳しいと思うから、ゼウスに聞いてくれ。とにかく今はここを離れないと」
「わ、わかった」
そう言って俺とアレンは来た道を戻り、『イヴの山』を後にした。かなりの距離があったため、ギルドに戻る頃には月が登っていた。
「ふー…今日は流石に疲れたな…、てことで俺はこれで失礼するよ」
「あ、ちょっと待ってくれ。はいこれ」
俺は帰ろうとしていたアレンを呼び止め、ギルドで買った少し高い肉や野菜が挟んであるサンドイッチを買って渡した。
「…くれるのかい?」
「とりあえず今日のお礼ってことで、まあ…足りないだろうけど」
アレンは予想外だったのか少し驚いたような顔をすると、ニコッと笑ってサンドイッチを受け取った。
「十分だよ、ありがとう」




